【博士学位審査】40分以上の長時間プレゼンを乗り越えるための4ステップ練習法

博士進学予定の後輩Aさん

先輩、ちょっとだけ相談させてください
学位審査の発表って 40分とか60分とかあるじゃないですか。発表時間を聞いただけで心拍数が上がって、Apple Watchが健康警告を出してきそうなんですけど…

博士課程早期修了者かめ

あぁ、その感覚、すごく分かるよ。僕なんて最初の頃は、「こんなに長い時間、一人で話し続ける人類って、歴史的にどれだけ存在したんだろう?」って真剣に考えてたからね

後輩のAさん

いや、それ絶対、研究の合間に考えるべき内容じゃないやつですよね

かめ

でもね、三度の審査会を通過して、博士課程を修了した身として断言できることがある。長時間プレゼンは“体力勝負”であると同時に、“練習設計の勝負”でもあるってことなんだ

後輩のAさん

体力…って、筋トレみたいな?
イヤですよ。足が太くなっちゃうし

かめ

半分当たり。スクワットは、やらないよ
喉も、集中力も、話の流れをつかむ勘も、全部トレーニングで育つんだ。ただし、無計画に練習すると、喉が一晩で引退宣言するから、ちゃんと考えて練習する必要がある

後輩のAさん

なるほど
でも、先輩も発表のあと。倒れそうになったって聞いたんですけど? 予備審査会の後なんか、貧血で顔が真っ青になったって聞きましたよ笑

かめ

うっさいなぁ
あれはね、全力を出した後に出る『良い疲労』。練習不足なら、貧血どころか、意識が混濁して倒れていただろうよ
本番を無事に乗り越えるためには、発表時間の長さに怯えるのではなく、時間の長さに合わせて体を作っていく感じ、かな

後輩のAさん

なんだかスポーツみたいですね

かめ

研究者はみんな、静かに声帯を鍛えるアスリートだからね
というわけで、今日は僕が実際にやっていた 「長いプレゼンを乗り切る練習法」 を全部話そうかな。これから学位審査会へ挑む人にとって、きっと力になるはずだよ

後輩のAさん

お願いします!
できれば、途中で酸素ボンベが必要にならない練習法だと嬉しいです!

目次

【ステップ1】まずは分割して練習する

後輩のAさん

さっきの話で「分割練習が大事」って言ってましたけど、そんなに効果あるんですか?
私はいつも通しで練習して、終盤にかけて噛み倒してるんですけど…

かめ

うん、その噛み倒しはね、ほとんどの人が経験する“長距離プレゼンあるある”なんだ。というのも、通し練習って 総括に到達する頃には体力が尽きて判断力も鈍るからさ
正直なところ、その状態で練習しても、質が積み上がりにくいんだよ

後輩のAさん

なるほど

かめ

だから僕は、学位審査のときは 徹底して章ごとに切り分けて練習していた。たとえばこんな感じでね
・イントロ:16分
・第一章:11分
・第二章:12分
・総括:1分
それぞれの章を“単独種目”として練習し、安定して走り切れるようになったら次の章へ進む

後輩のAさん

でも、章ごとに練習してると、いつ全体練習に移ればいいか、迷いそうです

かめ

そこはシンプル。「これなら本番でも何とかなる」という手応えが出たら、迷わず次へ進む
100点を取る必要はなくて、70〜80点の安定感で十分なんだよ

後輩のAさん

70点でもいいんですか?

かめ

うん。むしろ満点狙いでパート練習を続けていると、全体練習に入る前にエネルギーが切れる。博士課程は完璧主義が体力を奪う世界だから、いい意味での割り切りも重要なんだ

後輩のAさん

あぁ。完璧主義の地雷、すでに何回か踏んでます
私も気をつけなきゃな~

後輩のAさん

そういえば先輩って、発表原稿って作っていました?

かめ

修士までは作っていたよ
博士課程に入ってから、作らなくなったなぁ

後輩のAさん

へぇ~、そうなんですか。普通はあれ、安心材料として作るものじゃないですか?

かめ

原稿を作ると、原稿を丸暗記したくなるでしょ。自分の場合、丸暗記が早口の引き金となって、発表が落語みたいになってしまう。あまりに早口すぎて、聞いてくれている人にうまく話を伝えられなくなることが多かった

後輩のAさん

話す内容が決まっているがゆえに、早く話し終えたい、プレッシャーから解き放たれたいと思ってしまうんですかね

かめ

おそらくね
それに、原稿があると「その通りに話さなきゃ」という縛りも生まれる。博士レベルの発表は構造が複雑だから、聞いている人のリアクションを見定めながら、内容の咀嚼度を調整する気配りも大事なんだ

後輩のAさん

スライドを見ながら考えて話すって、なんだか怖いけど、自由で面白いですね

かめ

そう。その自由度が、発話速度を自然に整えてくれる。早口になりやすい人は特に、原稿を作らない方がバランスが取れることがあるんだよ

後輩のAさん

なるほど……

かめ

ちなみに、分割練習にはこんなメリットもある。
短時間で達成感を得られる
一章だけでも完成させておくと、心理的に安心する
内容の構造を深く理解できる
個々の章をじっくり見直すと、「ここ、そもそも論理が弱いな」みたいな気づきが出てくる
全体練習の効率が倍増する
基礎体力がついた状態で全体を回すから、数回の全体練習で一気に仕上がる

後輩のAさん

なんか、長距離プレゼンのための筋トレメニューみたいになってきましたねっ

かめ

その通り。分割練習は プレゼンの基礎代謝を上げるトレーニングみたいなものなんだ

【ステップ2】無理やり一気に練習する

後輩のAさん

これで各章の練習がひと通りできたわけですけど、その次はどうするんです? パートごとの細かい修正に戻るんじゃなくて?

かめ

ここからが本番なんだよ
ステップ2は「無理やり一気に通す」こと。最初から最後まで、止まらずに、ひと息で駆け抜ける

後輩のAさん

えっ、いきなりフルマラソンですか?
さっきまでの分割走の緩い空気は、どこへ行きました?

かめ

そう感じるよね。
分割練習で基礎体力がついた今こそ、全体の“つながり”を確認するタイミングなんだ

かめ

章ごとの完成度が70〜80%になったら、全体を通しで練習することで、物語としての流れが見えてくる。
イントロがどこで効いてくるのか、どの章の説明が長すぎて流れを止めているのか、実験同士のつながりが弱い部分はどこか。そういう全体俯瞰は、通し練習でしかできないんだ

後輩のAさん

なるほど。でも、通し練習って疲れません?

かめ

疲れるよ。むしろ 声帯に大ダメージが入ると覚悟した方がいい。
最初の通し練習を終えたあと、僕の喉は「今日はもう業務を終了します」とか細い声で訴えてきたからね

後輩のAさん

声帯にも労働基準法があるんですね

かめ

でもね、筋肉と同じで、声帯は適度なダメージを受けて休むと強くなる。
いわゆる超回復。長時間発表のための喉の持久力は、このステップで初めて鍛えられていく

後輩のAさん

へぇ~、喉って鍛えられるんですね

かめ

鍛えられるよ
最初は通し練習を一回しただけで喉が枯れてしまうけれども、2回、3回と繰り返すうちに、枯れにくくなり、声の張りも保たれるようになる。5回も練習してみな、声帯が悟りの境地に入って、ちっとも痛くならなくなるから

後輩のAさん

通し練習って、そんな修行みたいですね。でも、疲れてる状態で全体を通して、内容を見直す余裕なんてあるんです?

かめ

それがね、意外とあるんだよ
疲れてくると、重要じゃない部分が自然と浮き彫りになる。「ここ詳しすぎるな」「このスライド、話が冗長になってるな」「この図、なくても通じるな」みたいに、削るべき場所がハイライトされる

後輩のAさん

あぁ、なんとなく分かります。疲れた状態だと、一番大事な線だけくっきり見えるみたいな

かめ

そう、それ。だから通し練習は “発表全体を軽くする作業”でもあるんだ。パート練習では気づかない改善点が見えてきて、不要な部分を削っていくことで本質的に重要な部分だけを残す

後輩のAさん

なるほど……
分割練習が筋トレなら、通し練習は持久走とダイエットみたいなものですね

かめ

うん、例えとしてかなり正しい。通して走ることで、プレゼンの無駄な脂肪が落ちていくんだよ。見た目も、構造も、スッキリしていく

後輩のAさん

でも、喉がやられるのは、勘弁してもらいたいんですが

かめ

こればかりは避けられないなぁ
ただし、通し練習でひとつだけ意識してほしいのは、「喉が枯れることを恐れない」という姿勢。声帯を酷使しても、ちゃんと回復させれば、段階的に強くなっていくからさ

【ステップ3】発表に詰まる箇所を集中的に練習する

後輩のAさん

ステップ2まで来ると、だいぶプレゼンの全体像が見えるようになってきたと思います。それでも、要所要所でどうしても噛んじゃう場所ってありません?

かめ

ある、ある。むしろ「毎回どこかしら必ず噛むポイントがある」のが普通なんだよ。難しい単語が並ぶ場所とか、抽象度が高い説明とか、論理構造がちょっと複雑なところとかね

後輩のAさん

わかります。通し練習をしていても「なぜかここだけ言葉が迷子になる」みたいな箇所が出てきちゃって

かめ

そういう箇所は、放置すると本番で必ずつっかえる。だからステップ3では、通し練習でつまずいたポイントを“弱点リスト”として拾い上げる

後輩のAさん

弱点リスト!?

かめ

うん。
たとえば、通し練習しながらこうメモしていく。
「このスライドの語順がややこしい」
「この説明、主語が遠すぎる」
「ここの固有名詞、なぜか毎回出てこない」
こんな感じで、躓くきっかけになりうる『小さな石ころ』を拾っていくんだ。これが発表の滑らかさを上げるためのキーポイントになる

後輩のAさん

確かに、通し練習してると「あれ、またここ嚙んじゃった」っていう場所があります

かめ

あるよね。で、その小石を、今度は一個ずつ砕いていく作業に入る

後輩のAさん

単語単位で?

かめ

そう。「この単語の語感が舌に乗らない」という理由で噛む時ってあるんだよ。だから、そこだけ何度か口に出して、体にしっかりと馴染ませていく

後輩のAさん

へぇ~

かめ

たとえば、「intercalation(インターカレーション)」が苦手なら、家で洗濯物をたたみながら インターカレーション……インターカレーション…… とか言って練習する

後輩のAさん

それ、傍から見ると結構シュールですね

かめ

効果はある。だいたいの研究者は、誰も見てない場所で発声練習してるから、安心してほしい

かめ

単語だけじゃなくて、文章レベルの“言いにくさ”にも理由がある。
文が長すぎる
・主語と述語が遠い
・接続詞が多い
・図の説明と文の流れが噛み合っていない
これらは練習の中で気づくから、発話しやすい順番に加工するのも大事なんだ

後輩のAさん

つまり、文章を喋れる形に調整するってことですね

かめ

そういうこと。「書ける文章」と「話せる文章」は全然違うからね
博士課程でよくあるのは、論文の文体でスライドを説明しようとして詰まるという現象

後輩のAさん

あっ、それ私です

かめ

論文は書き言葉。プレゼンは話し言葉。ここを区別できるようになると、弱点が一気に減るんだ

後輩のAさん

弱点を潰せると、プレゼン全体が滑らかになりそう♪

かめ

うん
長時間のプレゼンは、小さな引っかかりの総量が疲労感に直結するんだ。弱点補強は、ただの発声練習ではなく、本番での心の余裕を作る作業でもあるんだ

後輩のAさん

それ、大事ですね。心の余裕があると、質問にも落ち着いて答えられそう

【総仕上げ】毎日練習して喉を鍛える

後輩のAさん

弱点も潰して、通し練習の流れもつかめてきましたけど、本番までは何をすればいいんです? もうひたすら通し練習を繰り返す感じですか?

かめ

そう。その“ひたすら”が大事なんだよ。闇雲に回数をこなすんじゃなくて、毎日一度は通すというリズムが決定打になる

後輩のAさん

毎日一度? さすがに負荷が高そう…

かめ

負荷はある。
ただ、学位審査の一週間前って、研究者にとってはもう 静かな合宿 みたいな時期なんだ。僕も予備審査や公聴会の前は、一日一回は必ず通すようにしてた。中間審査みたいに短い発表なら、一日二回以上通すこともあったしね

後輩のAさん

ルーティン化するメリットってあるんですか?

かめ

ルーティン化すると プレゼンが日常の一部になる んだ。すると不思議なことに、本番前の緊張がだいぶ薄くなる。いつもの流れで話せばいいという安心感が生まれるからね

後輩のAさん

確かに、毎日やってることって、当日も体が勝手に動きますよね

かめ

その感覚こそ、求めているものだよ
それに、毎日通すと スライドや発話の瑕疵が自然と浮き彫りになる。あ、ここ説明過剰だなとか、この図、もっと前の章に置いた方が流れ良いぞみたいに、微細な改善点が次々と見えてくる。で、その修正は翌日に回さず、当日に処理していく。これがめちゃくちゃ大事

後輩のAさん

毎日改善し続けてたら、そりゃ完成度も上がりますよね

かめ

上がるよ。そして、もう一つ重要な効果がある

後輩のAさん

なんですか?

かめ

喉が強くなる

後輩のAさん

また喉の話だ笑

かめ

バカにしたらダメだよ。長時間プレゼンの成功は、内容 × 声帯の持久力で決まるからね

後輩のAさん

そっかー。確かに、40分も喋るのに、途中で喉が枯れたら終わりですもんね

かめ

一週間毎日通していると、喉が少しずつ長時間発表に慣れてくる。最初は15分を越えたあたりで声がかすれていたのが、翌日には20分、さらに翌日には25分…と、発声の持続距離が伸びていく

後輩のAさん

おぉ、本当に筋トレみたい

かめ

まさに。で、プレゼン前日には、だいたい 通し練習を二回やっても喉が枯れない くらいになる。この状態に入ると、本番でも声が最後まで安定する

後輩のAさん

声が安定すると、自信も安定しそう

かめ

その通り。さっきも言ったけど、喉が元気だと、気持ちにも余裕ができる。余裕があると、スライドの説明も質問対応も落ち着いてできる。
つまり、総仕上げの一週間は、技術だけじゃなく、心の体力を整える期間でもあるんだ

まとめ

後輩のAさん

こうして聞いてみると、長時間プレゼンって、ただスライドを作って練習するだけじゃなくて、体力とか、習慣とか、心の余裕まで含めた 総合競技 みたいですね

かめ

そうだね
長時間話し続けるっていうのは、研究者にとって一つの試合みたいなものでね。技術も必要だし、筋力(声帯)も必要で、そして何より 積み上げられたリズム が本番の安定感を生む

後輩のAさん

でも、こうやってステップを追って聞くと、プレゼンが長いから不安だった気持ちが、ちょっと軽くなったかも。なんだか、やるべきことが明確になりました

かめ

それが今日一番伝えたかったこと
長時間プレゼンの不安は「未知」だから生まれる。逆に言えば、段階的に積み上げて、発表内容全体を自分のものにしてしまえば、どんなに長いプレゼンでも恐れるに足らずなんだよ

後輩のAさん

なるほど。未知から既知へ移すプロセスなんですね

かめ

うん。その変化を起こすために、
ステップ1で基礎を固め、
ステップ2で全体像をつかみ、
ステップ3で滑らかさを磨き、
総仕上げで喉と心のコンディションを整えていくんだ

かめ

そして、発表本番では、自分でも驚くくらい落ち着いて話せている はずだよ

後輩のAさん

先輩の話を聞いてると、本番って、『努力してきた自分に会いに行く日』みたいですね

かめ

いいこと言うね。そう、本番は、突然うまくなる日じゃなくて、積み上げた自分がそのまま出る日。だからこそ、毎日の練習が大切なんだ
長時間プレゼンは、強さを見せる場じゃなく、積み重ねてきたものを表現する場なんだよ

後輩のAさん

なんか…ちょっと楽しみかも

かめ

うん、その気持ちが芽生えたら、もうしめたものだよ
練習、頑張って。無理はしすぎないように。喉を痛めたら、龍角散のど飴をなめるといいよ

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