博士課程で過ごした日々を振り返ると胸が熱くなります。修士までの「当たり前の道」から外れる決断は確かに勇気がいるものでした。不安も迷いもたくさんありました。おそるおそる最初の一歩を踏み出したことで、私の世界は思いもよらない方向へと広がっていったのです。研究室の中でだけじゃありません。日本からはるか10,000km離れた海外でもかけがえのない経験が待っていたのです。
北大の博士課程を早期修了した化学系大学院生かめです。今回は、博士課程に進んで見えてきた新しい景色についてお伝えしていきます。

それでは早速始めましょう!
修士では味わえなかった世界線を体験できる


博士課程へ進学すると見える世界が少しずつ変わってきます。昨日と今日との違いはわずか。それが積み重なっていくにつれ、やがて大きな違いになっていくでしょう。
博士課程では修士課程よりも研究へ費やせる時間が長くなります。受けねばならない講義はごくわずか。時間を取られる就活もD3までありません。そう、博士課程には研究だけに集中できる環境があるのです。何週間も連続で一つのことを考え込める時間的な余裕が生じます。思考活動が好きな人にとっては天国。水を得た魚のように活き活きとしてくるでしょう。
博士課程修了にあたって、何報かの論文執筆に挑戦します。得られたデータをかき集め、図表を作って考察をゴリゴリと深めていく。執筆の際に産みの苦しみを味わうでしょう。無から有を産み出す過程でとんでもなく辛い思いをするのです。試練を乗り越えた後には、我々の名前で研究成果を世界中に発表できる栄誉が待っているでしょう。修士ではごく少数の人しか体験しなかった世界線。苦しみに耐えた果てに味わえる、震えんばかりの興奮と達成感をぜひ体験していただきたいです。
博士課程では長期海外留学へ行く時間があります。自分はD1後期に3か月半ほどイギリスで研究留学しました。日本と海外とでは生活スタイルが全く異なるのです。食べ物も仕事や人生に対する向き合い方も日本と何もかもが違いました。毎日がものすごく新鮮で楽しい。外に出るたびに何か新しい発見があって面白かったです。海外で過ごすと日本の良さや悪さを客観的に判別できるようになります。新たな視座を得たい方はぜひ海外留学してみて下さい。
博士号を取ると就職できない時代はもう過去の話


我々の指導教員が学生だった20~30年前、博士号を取った学生は民間企業へ就職できませんでした。「プライドが高そう」「高学歴すぎる」「教育しづらそう」といった理由で。博士学生を採用するよりも修士学生を育てる方が簡単だったのでしょう。各産業が今ほど発達しておらず、専門性を求められる時代ではなかったのも原因のひとつかな。博士号ホルダーというだけで門前払い。博士人材が就職面接に呼ばれさえしない氷河期時代があったようです。
博士号をとったら就活で困るだなんてもう大昔の話。いまや大企業各社は声を枯らして博士人材を勧誘しています。企業が博士人材の価値に気付いたのです。彼らの有する課題発見・解決力がビジネス拡大に極めて有用である、と。グローバル化に伴い、欧米の大企業との付き合いが増えてきたのも一因でしょう。交渉の場に出てくる外国企業の人材はみな博士号持ち。日本側の交渉役が博士号を持っていないと相手から下に見られるでしょう。交渉において学位の低さがマイナスに作用するのは間違いありません。
博士人材は大企業へ簡単に就職可能。専門分野と業務内容とが合致する企業ならば一瞬でマッチングするでしょう。専門と関係のない業界の企業でも、研究で培われたスキルをアピールすれば容易に採用までこぎつけられるのです。自分自身、専門分野どストライクな求人に応募し、就活開始から一か月で内定を掴みました。こんなに早く内定をもらえるとは思っていなかっただけに驚きを隠せませんでした。
博士課程へ行ったからといって就職先が限られるわけではありません。博士人材は引っ張りだこ。将来に不安を抱く必要はないのです。就職を理由にD進を躊躇せずとも構わないでしょう。研究したいテーマをひたすら突き詰めていく過程で自然と企業の欲しがる人材になれますから。
人生を面白くしたければ博士課程へ行こう!


博士課程は、私に「研究を極める喜び」と「新しい視座」という貴重な贈り物をくれました。研究漬けの日々は苦しくも充実した時間。海外での経験は、世界と日本を見る目を大きく変えてくれました。そして何より、この経験は会社から高く評価されています。かつての「就職できない」というイメージは完全に過去のもの。むしろ、専門性と課題解決力を持つ博士人材は、企業から引く手あまたの状況なのです。
私の経験から言えることは、博士課程では「やりたい研究」に打ち込める環境と、その経験を評価してくれる社会が待っているというもの。研究への情熱があるなら博士課程進学を恐れる必要はありません。むしろ、その道を選んだおかげで人生はより豊かで面白いものになるはずです。
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