博士課程進学が頭にチラつく学部生が今から始められる『得しかない』準備リスト

北大博士課程を一年短縮修了した技術開発エンジニアかめです。

博士課程学生のほぼ全員へ生活費相当のお金が配られるようになりました。金銭的不安の払拭により、博士進学を視野に入れる学生が徐々に増えてきているようです。中には学部生の頃からD進を考えている人が。自分が博士課程在籍最終年度にお世話したB4の学生もD進志望者でした。私がD進を決めたのはM1の9月。自分と比べて視座の高い後輩には驚かされるばかりです。

博士課程に興味を抱くのは素晴らしいこと。せっかく興味があるのであれば、進学に向けて何らかの準備をしていただきたい所。

そこでこの記事では、博士課程進学が脳裏にチラつく学部生がいま(学部)のうちにやっておけば得することをご紹介します。学部生の方を対象に記しました。D進に向けて準備していきたいM1の方にもピッタリな内容です。ぜひ最後までご覧ください。

かめ

それでは早速始めましょう!

目次

博士課程のリアルを知る

皆さんが憧れている博士課程は、どのような場所かご存知でしょうか? 研究をする場所。研究者になるための場所。海外留学するための場所。様々なイメージがあるかと存じます。どれも正解です。おめでとうございます。

博士課程は、研究者になるために必要な力を蓄えるための場所。研究者の仕事は論文執筆。学術論文を記すにあたって、データ収集と考察力が求められるでしょう。質の高いデータを得るには多様な視点が必要。新たな視座を得るべく、在学中に海外研究留学する学生も。博士課程を修了すれば博士号が得られます。博士号は、研究者になるためのパスポートです。

博士課程進学を考える皆さんには、博士課程のリアルを知っておいていただきたい。自分が目指すに値する場所なのか、三年間やっていけるのかを確かめておいてもらいたいのです。

博士課程は辛いです。研究成果創出が強く求められます。専攻ごとに定められた規定本数以上の論文を記せねば一生出られません。研究が趣味から仕事になる。研究をあまり楽しめなくなるかもしれません。うつ病になる方が多く現れます。私も修了直前はうつ病半歩前のような荒んだ状態になりました。

D進を考える皆さん。博士課程のリアルを直視してください。良いことばかり言う人の話を信じないように。己の精神力の強さと博士課程を天秤に載せましょう。博士進学するか、修士就職するかは、冷静かつ客観的に評価しましょう。

研究業績を集め始める

学部生のうちからD進がチラついている方の多くは研究者志望でしょう。大学か研究所か、企業でかは分からないけれども、研究を生業にしたい人が多いのではないでしょうか。

課程博士としてD進する学生の半数がエントリーするコンペティションがあります。それは、日本学術振興会特別研究員DC1制度です。学振DC1とは、博士進学者へ月20万円の給与と年額100万円の研究費を支給するもの。採用率は15%前後。採用されれば、自身の経歴に箔を付けられるでしょう。採用された事実自体に大きな価値があるのです。

学振DC1内定には、良質な研究計画の提出が求められます。研究計画と同等に重要なのが『研究業績』。学振DC1申請までに論文を何報記したか。学会に何回出て、何個賞を取ったか。

研究計画の評価には主観がつきまといます。同じ計画書を見て「良いな」と思う審査員もいれば、「なんだこりゃ、全然ダメじゃん」と思う審査員だっているでしょう。研究業績の評価は客観的に行えます。業績量は定量化可能。他の申請者と比べて多い・少ないを公正にジャッジできるのです。初見の研究計画書を見て、内容を理解できる審査員さんはほとんどいませんよ。学振DC1内定の如何は【業績量】で決着するとお考えください。

皆さんが学振DC1へ申請するのはM2の5月。研究室配属から2年と少しで申請シーズンを迎えることに。ハッキリ言って時間がありません。申請者の大半は、業績バトルに持ち込めるだけのレベルに達していないのです。であれば、皆さんは早めに動き始めましょう。学部生のうちから業績量を意識して意欲的に活動し、業績量で他申請者をボコボコにやっつけてください

私の属する化学系の場合、学振DC1申請前までに「三冠王」になろうと提唱しています。三冠王とは、

  • 査読付き国際誌への筆頭論文出版
  • 国際学会での発表
  • 学会での受賞

この3つを兼ね備えた学生のこと。私の周りでは、三冠王として申請に挑んだ学生の全員(3人中3人)がDC1に内定しました。他の分野では事情が異なるかもしれません。論文を出しにくい分野では、学会発表歴と学会賞受賞のみで内定する可能性があります。いずれにせよ、DC1内定に向け、なるべく多くの業績を挙げておいてください。業績は己の身を助けます。学振申請でも、研究ポストの獲得でも、業績が役立つのです。

学振申請のアピール素材を作り始める

学振DC1に関して、もう一つ伝えておきたいことがあります。

DC1の申請書には「研究遂行力の自己分析」なる項目が。自分の過去エピソードをもとに、研究者としての素質をアピールさせられるのです。その量、A4用紙3枚近く。とにかくたくさん書かされます。主体性、発想力、問題解決力、コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力など、多岐にわたる内容をエピソード付きで記さねばなりません。

部活やサークルなどで課外活動してきた方なら問題ありません。ご自身の活動と研究を紐づけ、それらしい話をこしらえれば良いでしょう。文章生成にはChatGPTが役立つのではないでしょうか。エピソードを与え、「主体性をアピールできる300文字程度の文章を作って」と指示を出す。それだけで申請書が出来上がります。

自己分析欄作成でお困りになるのは、研究室配属までに課外活動をしてこなかった方々。執筆にあたって、申請書へ記せる素材が何もありません。ウソを書くわけにもいきませんからね。「ケニアに学校を建てました!」と記しても、内容の薄っぺらさで虚偽執筆が露呈するでしょう。とはいえ、何も記さぬわけにはいきません。何か書かなければ不戦敗必至。

申請書へ書けそうな素材が少ない方にアドバイスを送ります。
エピソードが無いなら作ってください。エピソードは、研究室の中で作れます。研究エピソードについて、研究活動を通じて用意するのです。今さら課外活動はできないでしょう。取り組んだとしても、たいした成果を挙げられぬまま時間を浪費する結果に終わります。であれば、ラボで業績創出に向けて取り組む過程からエピソードを抽出しましょう。私自身、自己分析の「主体性」と「発想力」のアピール素材に研究活動を用いました。参考までに文章を添付するのでご覧ください↓

主体性 申請者には、卒業論文の研究テーマを自分で考えて設定し、研究室配属初年度の学部四年次に筆頭著者として国際雑誌に論文がアクセプトされた実績(成果 1)がある。研究室配属当時、研究計画に記載した○○計を使用することだけは確定していた。しかし、その装置を使って行う実験について、全て指導教員から裁量を委ねられていた。研究課題を探すため、過去に△△分野で○○計測定が行われた例を調査した。そして、まだ世界で一例も報告例がない観点でのテーマを創出し、試行錯誤の末、論文化できるだけの成果を生み出すことができた。このように、申請者は研究テーマを自らの意志で設定し、責任をもって主体的に研究活動に勤しめる。この実績を踏まえ、特別研究員に採択後も、絶えず主体的に研究テーマを創出できると確信している。

発想力 申請者には、固定観念にとらわれず、自身の研究分野において見落とされてきた”盲点”を見つけ出す発想力がある。リチウム電池研究において、これまで、サイクル性能やリチウムの電析形態に着眼した研究例が多く報告されてきた。しかし、△△について論じた研究例は非常に少なく、そこに未開拓な課題があるのではないかと直感した。そこで、実験計画にて述べた□□を使用し、★★条件下にて××を調査した。その結果、☆☆を見出し、世界で初めて報告した(成果 2, 3)。このように、申請者には、課題を見つける嗅覚と、それを裏で支える論理的思考力がある。特別研究員採用中に限らず、博士号取得後も持ち前の発想力を遺憾なく発揮し、一年に一報を目安として論文を発表し続けていく所存である(成果 4)。

視野を広げて他大学進学も考えてみる

博士課程進学を志す皆さんは、おそらく、今いるラボでのD進を考えているでしょう。同じラボで学部から博士まで六年間過ごすつもりで研究室選びをなさったはず。私もB4からD2までずっと同じラボで過ごしてきました。研究環境を変えたくなかったんですよね。自分の取り組みたかった研究テーマを進められる最良の環境に身を置き続けたかった。

学部の頃からD進を考えている視座の高い皆さんへひとつお伝えします。別に、今のラボで博士進学しなくてもいいんですよ。どこのラボでも構いません。同じ専攻の別研究室でもいい。他大学へ移ってD進してもいい。いっそ、海外留学して、向こうの国の正規学生として学位取得へ挑んでもいい。

少しでも良い環境で研究することにこだわってください。なぜなら、良い環境のほうが、間違いなく自分を成長させてくれるからです。

研究設備が整っている。相談できる先輩や仲間がいる。積極的に論文指導してくれる教員がいる。国際的なネットワークにアクセスできる——そんな環境に身を置くことで、自然と自分の視野が広がり、研究の進みも早くなります。逆に、閉じた環境や、指導が曖昧なラボでは、つまずいても誰にも相談できず、孤立したまま時間だけが過ぎていく悲惨な事態も起こり得ます。成長のスピードは、環境で大きく変わるもの。どうせ三年間を過ごすなら、自分の可能性を最大限に引き出せる場所に飛び込んだ方がいいじゃないですか。D進を決める時期は、それを真剣に考えられる貴重なタイミングです。

「今のラボで不満はないから、このままでもいいかな」と思う気持ちも分かります。しかし、満足している今の環境が、数年後の自分にとって最適とは限りません。今よりももっと飛躍できる場所があるかもしれません。だからこそ、他の研究室も覗いてみてほしいのです。他大学の教員の話を聞いてみてほしいのです。学会や講演会、オンライン説明会など、外とつながる機会を積極的に活用してください。

博士課程は、自分の手で自分の未来を設計する第一歩。そのスタート地点をどのラボにするかで、あなたの研究者としての基礎体力は大きく変わってきます。少しでも成長できる環境を自分で探し、自分の意思で選び取ってください。いろんなラボを見て、それでも「今の場所が一番だ」と思えたならOKです。無理に環境を変える必要はありません。“考えた上で選んだ”という事実が、あなたの覚悟と納得感につながります。移るにせよ、移らないにせよ、後悔のないようにラボ生活を充実させてください。自分自身の可能性に、もっと期待していいんです。

博士課程のリアルを知られる記事↓

研究業績の必要性が分かる記事↓

学振申請のアピール素材を模索できる記事↓

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