博士課程三年間を過ごすなら国研と大学のどちらが良いか【一長一短】

札幌と筑波で電池材料を研究している北大化学系大学院生かめ (D2)です。B4で研究室に配属されて以来、毎年4~5か月間ほど筑波の国立研究所 (国研)に出張しています。国研で得られたデータを北大に持ち帰って解析する形。国研と大学の両方に入り浸らせてもらった結果、両者の良い面/悪い面を深く理解できました。

大学院の博士課程へ進学する場合、学生生活を大学で過ごすのが一般的。しかし、籍だけは大学に置きつつ、実験を国研で進めていく私のようなレアなケースも。中には国研でずっと過ごしていらっしゃる博士学生さんもいます。見た目は職員。中身は学生。その名は、ジュニア研究員。

この記事では大学と国研での実体験を踏まえ、博士課程三年間を過ごすなら国研大学のどちらが良いか解説していきます。

  • 国研と大学のどちらで研究しようか迷っていらっしゃる方
  • 国研向きな人・大学向きな人それぞれの特性を知りたい方

こうした方々にピッタリな内容なので、是非最後までご覧いただければ幸いです。

かめ

それでは早速始めましょう!

目次

研究環境と手厚い経済支援を求めるなら国研

国研の強みは何といっても『設備』。世界に数台しかない超高精度な測定機器がゴロゴロ転がっているのです。国研には文科省や経産省から湯水のように研究費が投入されています。有り余るほど潤沢な資金でもって世界中から最新鋭の機器が集積されている。それぞれの測定機器には専属のオペレーターさんが。自分は測定サンプルを作るだけ。解析はオペレーターさんがやって下さる。よっぽど人気な測定機器を除き、自分の測定順番は1~2週間程度待てば回ってきます。人気のない装置だったらほぼ貸し切り状態で使用可能。国研に置いてある装置の大半は大学の装置よりも新しく、高性能。博士課程に研究環境をお求めになる方には国研がオススメです

また国研には博士学生に給与を支払う独自制度があります。2024年現在、NIMSには学生に月20万円程度の給与を支払う『ジュニア研究員制度』[リンク] が、AISTには修士卒研究職の博士進学費用を全面バックアップする制度 [リンク]があるのです。国研独自制度による金銭的支援は学振DCやJSTフェローシップよりも幾らか手厚い傾向が。懐の余裕が気持ちのゆとりに、心の軽さが研究の飛躍的進展に繋がるでしょう。国研で博士課程に進学する場合、お金の心配を全くしなくて済みます。博士課程に金銭面での支援を期待する方には国研がピッタリでしょう

人とのコミュニケーションを大切にするなら大学

研究環境や金銭面での支援額は大学が圧倒的に劣っています。壊れそうでかつ当分は更新を見込めぬ実験機器や、雀の涙ほどのお金しか貰えないTA・RA制度しかありませんから。ガッツリ研究を進めたい方は国研で過ごすべき。大学、特に地方国公立大だと研究環境の悪さからあまりにも制約が多く、自分のやりたかった研究の半分さえ行えないままタイムアップとなるでしょう。

では、大学の強みは何なのか?ズバリ、人間同士のコミュニケーションの機会の多さです。

国研に行けば一日にひと言かふた言しか話さない日がザラにあります。お世話になっている研究者さんとディスカッションする時以外はほぼ誰とも喋りません。国研で周囲を見渡せば、同世代の人間の大半は留学生。8割はチャイナ人。1割は韓国人。残り一割がインド人か欧米人。彼らは同じ研究グループ内で固まって過ごしています。使用言語は英語、ヒンディー語、あるいはチャイナ語。既に親密そうな外国人グループへ日本人が単騎で分け入るのは無理。そもそも彼らとの接点がないから話しかけられさえしないのです。国研では一人、淡々と実験を進める日々。周囲で外人が賑やかに話しているなか、自分だけ誰とも話せない孤独感を味わいながら過ごします。私自身、普段はあまり人と話したがるタイプではありません。しかし、国研で一か月も二か月も誰とも話せないと、一人の時間を大切にする私でさえ誰かと話したくなってきました。

その点、大学では話し相手に困りません。同期や先輩・後輩、指導教員、さらには別の研究室の友達とも話せるでしょう。気晴らしにサッカーやキャッチボールだって出来るかもしれません。大学からの帰りに誰かと一緒にご飯を食べに行ったり、研究室内行事のバーベキューや飲み会で羽目を外して騒げるかも。国研は研究に特化した場所。研究以外の娯楽要素が一切ないのが欠点。もしも博士課程で筑波の国研になんて行ったら研究「しか」やらない3年間になります。なんせ、筑波の国研の周りには本当に何もありませんから (半径2km圏内にコンビニがありません…)。その点、大学には研究への集中力を削がれてしまうほど数多のお楽しみ要素が散らばっています。博士課程に人間味ある生活をお求めの方は大学一択でしょう

もしも自分が再度博士課程へ進学するとしたらどちらへ行くか?

自分は国研と大学の両方で博士課程を過ごしてきました。過ごした時間の総計も同じぐらいかな。どちらの良い面/悪い面をも知っています。そのうえで自分が再度博士進学するとしたら、おそらくは【大学】の方を選ぶでしょう。

国研には研究以外の要素があまりにも少なすぎます。せめて同じ研究グループ内に日本人博士学生が居たら良かったのだけれども、居なかったから、誰かと雑談をして気晴らしすることさえ叶いませんでした。国研で長く過ごしていたら発声の仕方を忘れてしまいます。誰かとコミュニケーションを図る機会が少なく、人として大切な「何か」が欠落していく感覚があったのです。博士号を取得する前にメンタルヘルスが悪化し、研究どころではなくなってしまうかもしれません。研究以外には何も興味がない人を除いて国研はあまりオススメできません。

最後に

国研には大学よりも圧倒的に恵まれた研究環境があります。金銭面での手厚い支援もあり、お金の心配をする必要はありません。しかし、他人との交流の機会があまりにも限られています。研究以外の要素を大切にしたい方には大学の方がオススメです。

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