大学院生は、帰省にパソコンを持って帰るな

学生時代の私は、長期休暇のたびに「少しでも研究を進めなきゃ」と焦って、毎回パソコンを持って帰省していました。実家のほうが静かで作業もはかどるし、「休み中に巻き返そう」と本気で思っていたんです。

しかし、企業研究者になった今振り返ると、あれは必ずしも正しい選択ではありませんでした。生産性という観点から見ても、心身の健康という意味でも、帰省時にパソコンを持ち帰る行為には、けっこう大きな落とし穴があります。

この記事では、私自身の反省も交えながら、

  • なぜ帰省時にパソコンを持ち帰らないほうがいいのか
  • パソコンを置いて帰省すると何が変わるのか

を解説していきます。「帰省中も研究しなきゃ」と感じている勤勉な大学院生ほど刺さる内容だと思うので、ぜひ最後まで読んでみてください。

かめ

それでは早速始めましょう!

目次

休養の時間が確保できなくなるから

まず、一番大きな問題は「休む時間」がなくなることです。

人間には、手元に道具があると「スキマ時間を埋めたくなる」本能があります。研究者はなおさらで、もともと知的好奇心が強いぶん、「せっかくだから、この時間で少しでも進めよう」と考えがちです。

私も大学院時代、パソコンを持ち帰って実家で作業していた時期がありました。実際、実家はラボより静かで、データ解析も論文執筆もはかどっていました。最近はテクノロジーが進歩し、クラウドストレージを使ってどこからでも実験データにアクセスでき、文献管理ソフトで論文を読み漁ることも、指導教員とメールでやり取りすることも、すべて場所を問わず可能になりました。

一見すると「どこでも研究できて便利」に見えますが、その裏で大事なものを奪われています。それが、まとまった「休む時間」です。

研究者にとって休養はぜいたく品ではなく、思考の前提条件です。きちんと休んでいない頭で考えても、だいたい浅いアイデアしか出てきません。

ところが、パソコンを持って帰ると、休む時間になんとなくPCを開き、いつの間にか作業をしてしまいます。データ解析、論文執筆、メール返信など、いずれも研究上意味のある行為ですが、「それ、本当に帰省中にやる必要ある?」と問い直したい作業ばかりです。

帰省でしか得られないものもあります。地元の風景や音に触れることで感性がリセットされ、リラックスした瞬間にふと新しい着想が浮かぶこともあるでしょう。こうしたインスピレーションの源泉を、パソコンは静かに奪っていきます。

研究を本気で前に進めたいなら、あえて一定期間、研究から物理的に離れることも戦略です。パソコンを研究室に置いて帰る = 強制的に休む仕組みをつくるという感覚で、一度試してみてほしいところです。

デジタルデトックスのチャンスを逃すから

次に重要なのが、デジタル疲れの問題です。

研究室での生活を振り返れば、データ解析に論文執筆、文献検索にメールやチャットでのコミュニケーションと、一日の大半をモニターに向かって過ごしていることに気づくはずです。正直、人の顔よりディスプレイを見ている時間のほうが長い日もあるかもしれません。

当然ながら、脳はかなりの負荷を受けています。ブルーライトを含む画面の光は体内時計を乱し、脳の疲労感を増幅させることが分かっています。パソコンだけでなく、スマートフォンも同じです。

疲弊した脳に本来のキレを取り戻させる方法のひとつが、デジタルデトックスです。一定期間、意識的に電子機器から距離を置くことで、神経伝達物質のバランスが整ったり、創造性が高まったり、記憶力・集中力が回復したりする効果が期待できます。

そして、私たちが帰省する実家は、このデジタルデトックスにうってつけの環境です。テレビこそあれど、四六時中オンライン前提の機器は少ない。研究室のような「常時ネット接続・モニターだらけ」の空間ではない。良くも悪くも、ラボよりずっとアナログ。この「デジタル的には少し田舎」な環境で過ごすこと自体が、自然なデジタルデトックスになるのです。

ところが、ここでパソコンを持ち帰ってしまうと話が変わります。「ちょっとメールチェックするだけだから」とPCを開いた瞬間から、デトックスのチャンスは溶けていきます。最初は5分だけのつもりが、返信しているうちに関連タスクを思い出し、気づけば数時間がデジタル作業に消えている。この雪だるま現象、心当たりがある方は多いのではないでしょうか。

一度、脳が「研究モード」に切り替わった瞬間、THE ENDです。デジタルデトックスどころか、むしろデジタルトックス(デジタル汚染)になりかねません。

だからこそ、帰省時にパソコンを持って行かない = 強制的にデジタルデトックスできるスイッチだと考えてみてください。「仕事をしたくても、物理的にできない」状態をつくることが、むしろ研究のためになります。

背中が重くて疲れがたまるから

3つめは、もっと物理的な話です。

単純にパソコンは重い。ノートPC本体はおよそ 1kg。充電器は400g。マウス・カバーなど周辺機器は、合わせて数百グラムあります。なんだかんだで総重量 2kg 前後になることも珍しくありません。

この 2kg が、混雑した帰省ラッシュの移動では、じわじわと身体を削っていきます。満員電車の中で不安定な姿勢を長時間強いられる場面でも、乗り換えのたびに重たいリュックを背負って移動する時でも、あるいは長距離移動で同じ姿勢を保ち続けるだけでも、荷物の重さは確実に負担として積み重なっていくでしょう。

見落としがちなのが、肩や首への負担です。重い荷物を背負う時間が長くなるほど、肩こりや首の凝りは悪化し、それに伴って姿勢が崩れ、それがさらに新たな筋肉疲労を呼び込みます。結果として、慢性的なだるさや頭痛へとつながっていく悪循環が生まれるでしょう。

研究室にパソコンを置いて帰るだけでも、荷物から二キロものストレス源を取り除けます。肩こりを悪化させる重りでもあり、頭痛の引き金にもなり、無駄に体力を削る要因にもなるその二キロをあえて背負って帰省するべきかどうかは、一度冷静に考えてみる価値があるのではないでしょうか。

帰省とは本来、心身のリセットを目的とした時間であるはずです。そこに余計な負荷を持ち込む必要が、本当にあるのでしょうか。

まとめ

私の経験では、パソコンを持ち帰らずに帰省したときのほうが、はるかに充実した時間を過ごせました。デジタルのノイズから解放された脳は驚くほど軽くなり、まるで雨後のタケノコのようにアイデアが次々と湧き上がります。時には、驚くほど創造的な着想がふと降りてきて、「脳だけ別人と入れ替わったのではないか」と錯覚する瞬間すらあります。

大学院生として成熟していく過程では、研究から意識的に距離を置くという逆説的な行為が必要になる場面があります。仕事を進めるために、あえて仕事から離れる。この一見矛盾した選択ができるかどうかは、研究者として長期的に成果を出し続けられるかどうかを大きく左右します。

だからこそ、帰省の際にパソコンを持ち帰らないという判断は、プロフェッショナルな大学院生ほど真剣に検討すべき、非常に賢明な選択だといえます。次に実家へ帰るときには、ぜひ一度「今回はPCを研究室に置いていってみるか」と自分に問いかけてみてください。その小さな決断が、想像を超える大きなリターンをもたらしてくれる可能性があります。

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