大学院で飛び級する人は決して多くありません。博士課程の短縮修了なら時折耳にしますが、修士課程そのものを飛び級して修了した人となると、ほとんど見かけません。
ところが企業に入社してしばらくした頃、「知り合いの知り合い」にいたのです。23歳で修士課程を飛び級修了して入社した人材が。
その人だけ、放つオーラが別次元でした。完成されたプロトタイプを見るような圧倒的な存在感で、こちらが思わず距離を置いてしまうほどだったのです。
そのとき、ふと感じました。
かめこんなに優秀なのに、
もう就職してしまうのはもったいないな…
博士課程を飛び級した身として、なおさら「修士で終わってしまう」ことへの惜しさを覚えました。
この記事では、修士課程を飛び級して企業に就職することが、なぜ“もったいない”のかを整理します。修士早期修了を検討している方、修了後の進路に迷っている方にとって、有益な視点になるはずです。



それでは早速始めましょう!
めちゃくちゃ有能なのに「修士」扱いされるから
修士課程は通常二年間です。学会発表や修士論文などを整えれば無事に修了できます。
しかし、修士課程を飛び級するとなれば、事情はまったく異なります。博士課程の修了要件に匹敵する水準の研究成果が必要となり、査読付き論文を複数本まとめ、短期間で研究を主導できる力が求められます。いわば、「博士号取得の準備がほぼ整っている状態」を早い段階で実現するようなものです。
修士飛び級の難易度は博士飛び級より高いのではないか、とさえ感じます。私は修士段階で飛び級を狙ったことがありますが、まったく歯が立ちませんでした。それくらい、修士早期修了は別格の成果です。だからこそ、修士を一年で終えられる人は、同世代の中でも飛び抜けて優秀だと断言できます。
にもかかわらず、企業に就職した瞬間、その突出した能力は見えづらくなってしまう。
制度上は「修士卒の新入社員」という枠に収まり、飛び級の努力も研究成果も処遇に反映されません。二年かけて修士を取った人、期限ギリギリで要件だけ満たした人、そして一年短縮で修了した超優秀な人が、すべて同じラインに並べられてしまいます。
日本企業の多くは依然として年功序列的な要素を強く残し、能力そのものを直接評価する仕組みは限定的です。優秀さよりも、「学歴ラベル」と「入社年次」が処遇を左右します。
修士飛び級の人材が、本来なら博士相当の能力を持っていたとしても、肩書きが修士である以上、制度上は修士として扱われる。これがどうしても“もったいない”と感じてしまう理由なのです。
あと2~3年で博士号を取れたから
修士飛び級を達成できるということは、博士論文に必要な基礎的な研究力をすでに獲得しているということ。実験の組み立て方、論文の書き方、研究を推し進める持久力。それらがすでに揃っている人材なら、博士課程に進んでいればスムーズに博士号に到達できたはずです。
確かに、博士課程の三年間で論文を積み上げていくのは大変です。しかし、修士一年短縮を成し遂げるほどの人であれば、そのペースと質を維持することは決して不可能ではありません。むしろ研究のリズムを崩さず積み上げていけば、博士一年短縮すら視野に入り、二年で博士号を取得するのも現実的だったでしょう。
もちろん、一刻も早く大学を離れたい事情があったのかもしれませんし、ラボ環境が合わず精神的に限界だった可能性もあります。経済的な理由や家庭の事情もあったでしょう。そのような背景を否定するつもりはありません。
それでも、修士を一年飛び級できるほどの能力を持つ人材が博士号を取らずに社会に出たと聞くと、どうしても「あと少し頑張れば博士号が手に届いたのにね…」と残念に思ってしまいます。博士号は研究者としての信頼を可視化し、将来のキャリアを広げる強力な資格です。すでに博士号相当の力を持っていた人が、それを形にできなかったという事実は、やはり惜しいと感じてしまうのです。
今からでも博士号取得を狙える道は残されている
とはいえ、修士を飛び級して早く社会に出たことを後悔する必要はまったくありません。むしろ、社会に出てから博士号取得を目指すルートは複数存在しており、研究力の高い人ほど成功しやすい傾向があります。
ひとつは、在職しながら博士課程に在籍する「会社員博士」という道です。日々のR&D業務を博士研究に接続するスタイルもあれば、休職して大学へ通うスタイルもあります。博士論文に必要な業績さえ揃えられれば、学位審査を通過し、正式に博士号を取得できます。
もうひとつが「論文博士」という方法です。こちらは大学院に通う必要はなく、これまでに出版した論文や、社会人としての成果を論文化したものを基に学位審査を受けられます。研究力がすでに高い修士飛び級者にとっては、非常に現実的で相性の良いルートと言えます。
最後に
修士課程を飛び級できるほど優秀な人が、制度上「修士」の枠に押し込められてしまうのは、どうしても惜しく感じます。すでに博士号取得に相当する力を持っているのですから、あと一歩だけ前へ進み、実力に見合った学位を手にしてほしいと願わずにはいられません。
社会に出てからでも博士号への道は開かれています。会社員博士として働きながら学位を目指すことも、論文博士でこれまでの成果を形にすることもできます。「修士のままでは終われない」と思う気持ちが少しでもあるなら、その感覚を大切にしてください。その才能は必ず次のステージに届きます。
あなたの力は、本来“博士”として評価されるべきものです。どうか、その未来を諦めないでください。




















コメント