早期修了に挑戦して良かったこと

この記事をご覧の皆さんは、博士課程の早期修了に興味がある方だと思います。そうした方々へ早期修了成功者のかめさんからメッセージをいただけると幸いです



もちろんです^ ^
伝えられることなら何でも話します



ありがとうございます
まず、早期修了に挑戦して良かったと思う点を教えてください



挑戦して良かったことは3つあります
①自分の限界までトコトン挑戦できた
②早期修了できて達成感を味わえた
③浪人で背負った一年の遅れを帳消しにできた
この3つですね



ひとつずつ深掘りしていきます
まずは①から教えて下さい



早期修了は自分との戦いです。高い修了要件をクリアすべく、毎日フルスロットルで研究を進めました
疑問を解消できるまで粘り強く考えます。リジェクトにもめげずに論文を再投稿せねばなりません。大量のデータをスライドにまとめ、発表練習を積み重ねていく。迫りくる学位審査の日までに一日たりともサボらず頑張って頑張って頑張りました。むやみやたらに頑張れば良いというワケではありません。けれども、本気で頑張らない限り、事態は何も動き出さないでしょう



博士課程入学前までの自分は、己の限界との対決を意図的に避け続けてきました。限界へ直面した瞬間、人生の可能性が閉ざされ、夢見られなくなってしまうのが怖かったのです。ピーターパン症候群まっしぐら。このまままではマズいなと自覚して、己の限界と向き合うべく博士課程にて本気で研究したのです。結局、かねてからの目標だった学術研究者にはなれませんでした。研究の道を諦めて企業就職することになったのは大変残念です



自分の能力の天井を知り、それを少しでも押し上げようと力を出し尽くしました。限界から逃げず徹底的に戦い抜き、おかげで随分スッキリとしたのです。宿命に楯突くのはこんなにも苦しいものなのですね。あぁ、本当に苦しかった。耐えられないかと思いました
研究者にはなれなかったけれども、研究者の大半が掴めず研究者になった早期修了の栄誉を授かりました。北大で成し遂げた飛び級は、自身の人生史上最大の頑張りに対する叙勲として受け止めるつもりです



ありがとうございます
次に「②達成感」についてお聞かせください



飛び級は前例の少ない修了形式。95%以上の学生が三年以上かけて修了するなか、二年で修了しようと目論めば困難にぶち当たって当然です。そもそも指導教員自身、学生をどのように指導すれば早期修了させられるか知らないでしょう。いかにすれば二年で大量の業績を集められるか。どうやったら学生に学位審査会を突破できるだけの力を養わさせてあげられるか。それらの問いに対する答えはありません。早期修了への道筋は自分の手で切り開いていかなければなりません



暗中模索で活路を求めていったのですね



はい。暗闇は暗闇でも、いたる所に落とし穴が潜んでいる 危険度MAX の真っ暗闇です。足を踏み外せば早期修了できなくなります。体調不良、論文リジェクト、審査不合格など罠だらけ。進んでは行き止まりに直面し、引き返して別の方向へ進んでも行き止まり。ときには”狡猾さ”まで求められます。いかなる手段を講じようが、二年以内にフィニッシュラインまでたどり着けた者が勝ちなのです



試行錯誤の毎日でした。報われるかどうか定かではない努力を積み重ねて目的地を目指したのです。公聴会を終え、合格を言い渡されたとき、嬉しくて身体中の力が抜けました。やった。遂にゴールインできた。答えのない問いに対する自分なりの解を用意できたことに達成感を味わいました



自分はD1のとき、お世話になっている国研の都合上、一年間丸々実験できませんでした。博士在籍中は実質一年しか研究を進められなかった。おまけにまる一年実験できるわけではない。札幌から筑波へ研究出張している数ヶ月間(しかも平日だけ)しか研究できない。とてつもないハンデを背負いながらも二年で修了できました。博士課程早期修了大作戦成功には”してやったり”です👍



壮絶な苦労を乗り越えてこられたのだなと感じました、、
では「③浪人で背負った一年の遅れを帳消しにできた」について教えて下さい



早期修了を志した理由でも述べた通り、自分は大学受験浪人による一年間のタイムロスを『人生最大の汚点』と捉えてきました。履歴書やエントリーシートを記すたびに空白の一年の存在を嫌でも思い出します。今から十代に戻って大学受験をやり直すことはできません。浪人した結果は揺るぎのない事実。粛々と受け入れて先の人生を歩むしかないでしょう



浪人に対してウジウジ悩んでいても仕方がありません。いつまでたっても過去に囚われている人間は見苦しいでしょう。何らかの前向きなアクションを取らねばなりません。考えうる方策は2つあります。(I) 浪人へ何らかの意味付けをして「あの一年があったから今の自分があるのだ」とみなすこと。そして、(II) 浪人後の人生で大幅ショートカットして通常軌道へ乗り直すこと



私はこの二年間で2つとも行いました。
まず、京大に落ちた原因を改めて考え直しました。”同じミスをもう二度とやらかしてはならぬ”と肝に銘じて浪人の悲しみを昇華させたのです。次に、早期修了でもって、力づくで人生を正常軌道へと乗せ直しました。博士号取得により、会社での昇進も早くなるはず。ショートカットどころか倍速ペースで人生を駆け抜ける用意はできています
もっとこうすれば良かったなと思うこと



では逆に、もっとこうすれば良かったなと後悔している部分はありますか?



2つあります。
①研究を楽しむ余裕を持ちたかった
②人とかかわる時間をもっと長く取ればよかった



①から教えて下さい



早期修了にはたくさんの業績が必要です。目標に向けて一直線に進むぐらいで行かなければ間に合わないでしょう。論文に関係のない実験をやる暇はありません。研究に関する将来構想を大きく膨らませる余裕もない。業績要件達成に向けて頑張るにつれ、徐々に研究を楽しむ姿勢が失われてしまいました。「好奇心ベース」の研究から「成果量重視」の研究に変わったのです。博士課程の最終盤は研究が苦痛で仕方がありませんでした。好きだったはずの研究を、早期修了のための”手段”としてしかみなせなくなったのです



もともと研究が好きで博士進学なさったはず。好きだったものが嫌いになるのは辛いですよね…



耐えがたかったです。どうして研究を楽しめなくなったのか分からぬうちに研究が嫌いになっていました。研究の楽しさを思い出そうとしても無理。科学現象の神秘へ無邪気に目を輝かせて喜べたあの頃の自分はいずこへ?もともと、研究は楽しいものだったはず。どのような部分へどのようにして楽しみを見出していたのか思い出せません



大きな代償を払っての飛び級だった、と
ふたつ目の理由「人とかかわる時間をもっと長く取ればよかった」についても教えて下さい



”業績!業績!”と鼻息を荒くしていた私は、研究室滞在時間の大半を一人での論文作業に費やしていました。居室の扉を開くやいなや、パソコンの電源をつけ、スクリーンを見据えて淡々と文字を打ちます。考察パートを考えては消して、また考えては消してを繰り返す。頭の中で思考を目まぐるしく回転させて文章をひねり出していく。一人での作業は嫌いではありません。誰にも気をつかわずに済むから楽なのです



指導教員とのディスカッションを除き、他の誰とも話さずに過ごした一日も多くありました。決して学生部屋が静かだったわけじゃありません。下級生は複数人で雑談を交わしてワイワイ盛り上がっていました。私が歓談の輪に入らなかっただけ。いや、正確には時間がなくて入”れ”なかっただけなのですが



未来の栄光を目指して突っ走った結果、『今』の楽しみを犠牲にしてしまったということですね?



本当にその通りです。猪突猛進にもほどがあります。もう少し『今』を楽しむべきでした。研究の息抜きに後輩と少しぐらい喋ったってバチは当たらなかったでしょう。昔からずっとこの気質です。治りませんね。ひょっとしたらASDなのかな。一点に集中しすぎる病気なのかもしれません



ただの頑張りすぎなだけの気がしますが…



そうだと良いですね
肩の力を抜いて『今』を楽しむ。程々に頑張る。会社員になってからの重大課題と位置付けます
早期修了の秘訣



早期修了を目指す後輩たちへ、早期修了の秘訣をお伝え願います



僭越ながら3つ伝えさせていただきます。
①走りながら休む
②早期修了の可能性を信じ続ける
③感謝の気持ちを忘れない



ありがとうございます。まずは①から教えて下さい



早期修了を目指すにあたって、研究しない日を作ることはほぼ不可能です。完全休養して趣味だけに興じられる日は多くても年に2, 3日でしょう。年中フル稼働しなくては間に合いません。早期修了にはそれだけの圧倒的作業量が求められます。しかし、人間は機械でもAIでもない。休まなければ早晩壊れてしまいます



では、どのようにして休めばいいのでしょう?



「走りながら休む」のです。研究しながら休む。論文を書きながら休む。
仮に普段、100の力で頑張っているとしましょう。”走りながら休む”とは、本気で頑張らず、力を抜いて仕事するときに多少の余裕度を感じること。100の力が平常運転の人は、60程度の出力時にいくらか楽なはず。100-60=40もの出力余裕度が生じるのです。早期修了志望者が休憩したい時は、普段より少し作業ペースを落とすことでもって「休憩」としなければなりません。心にゆとりを与えつつ作業を進める。このように日々を過ごせば、心身を破綻させずにラストまで走り切られます



ありがとうございます
次に「②早期修了の可能性を信じ続ける」について解説お願いします



早期修了を目指したとて、達成できるかどうかは分かりません。要求業績量はあまりに膨大。研究成果創出に対するプレッシャーで精神を病んで研究が手につかなくなるかも。前例のごく僅かな戦いへ挑むわけです。不安が募って当然です。早期修了の可能性を信じられなくなるのも無理はないでしょう



どこかの有名漫画のセリフ通り、諦めたらそこでゲームセットです。自分が飛び級する未来を一途に信じ続けてくれるのは己一人しかいません。自分で自分の味方をしてあげられなくなったらもうおしまいですよ。可能性を信じ続けましょう。たとえ1%でも可能性が残っているなら、99%の失敗リスクを無視して1%の光明だけを見据えて下さい。絶対に諦めてはいけません。「こんなに頑張らなくても三年で出られるし…」と思った瞬間から一気にペースが崩れます



早期修了を目指していれば三年での修了は確実でしょう。だからこそ、気が緩んだ瞬間に魔が差して早期修了を諦めてしまいがちになるのですね



そうです。本当に注意しなければなりません
大学院には自分をトコトンまで堕落させる誘惑があまりにも多く存在します。飛び級したい方はどこまで自分を厳しく律せられるかが問われると心掛けておいてください。最近は学振特別研究員の任期最終年度に特別手当が支給されることになりました。しかし、二年で早期修了する人間に対して特別手当の支給はありません(*学振へ確認済み)。特別手当欲しさに早期修了を取りやめる人が現れるかもしれないですね。目の前のニンジンへ目がくらんだ方々には「飛び級して企業や研究所で働く方がいっぱいお金を貰えますよ♪」と伝えたいです



確かに…
では「③周囲への感謝の気持ちを忘れない」について教えて下さい



早期修了を射程に入れられる人は、大抵の場合、非常に恵まれた研究環境にあります。私のように故障寸前(故障完了?)の解析機器やスクリーンが黄色く濁ったWindows XPで実験する学生は希少種でしょう。恵まれた環境にある学生さんは”恵まれた境遇に置かれている”との自覚を持ってください。不自由なく毎日実験できるのは決して当たり前ではありません。世の中には実験試料の調達や学会出張を自腹で行っている学生がいます。研究設備が不十分なせいで三年での修了すら危うい方々もいるのです



研究環境面で苦労せずに済んでいることに対し、指導教員や研究機関へ感謝しましょう。直接伝えずとも構いません。心の中で思っているだけでも十分です。傑出した研究成果を出せたからといって天狗にならぬように。年に何報も論文を出せたからといって己の力を過信せぬように。あなたが凄いのではありません。あくまで研究環境が素晴らしいだけです。もしも力を自慢したいのなら、私みたいにボロボロで劣悪な研究環境で成果を出してからにしてください



謙虚さと感謝の気持ちを忘れてはいけません。研究者としての能力を云々する前に、まずは人格的に成熟した人間になるのを目指してみてください



感謝の気持ち、忘れがちですよね。研究へ我武者羅になればなるほど周りが見えなくなって傲慢になりそうですもの



専門バカの「博士」に留まるか、知識と精神を兼ね備えた「Ph. D.」になるかの分水嶺ですね。どちらを選ぶかは人それぞれでしょう。私はPh. D.になりたかったので、他人に対する思いを忘れぬよう肝に銘じて二年間を過ごしました



恵まれた環境に置かれた人間には、傑出した研究成果を出す使命があります。最高の環境を利用できる人は最高の成果を出してください。ひとつやふたつではいけません。なるべく多くの論文を出しましょう。デカい態度を取ってもいいのは、自らの使命をきちんと果たしてから。素晴らしい環境にあぐらをかき、程々の成果しか出さない人間は論外です
今後のキャリアプラン



インタビューもこれが最終章になります。かめさんの今後のキャリアプランについてお聞かせください



なるようになると思っています。何か具体的なシナリオを思い描いていても、不可抗力で突如崩れるケースが多いですし



博士課程早期修了後、地元・広島の民間企業へ就職するのは確実です。そこで担わせていただく仕事内容も決まっています。一生を広島で過ごすかどうかは分かりません。会社から残ってくれと懇願されたら残るでしょう。会社自体が倒産してしまったら広島を離れざるを得ません



転職は考えていますか?



考えてはいます。給与に不満を覚えたり仕事内容を変えたくなったりしたら会社の移籍どきでしょう。ただし、転職前提の生き方は好みません。足元の固まらぬ根無し草になってしまうのは嫌です。入った会社で任された仕事を精いっぱい頑張ります。研究へ捧げてきたのと同じぐらいの熱量を業務へ費やすつもりです



真面目ですね~
私なんてすぐサボっちゃいそう



まぁ、真面目さだけが取り柄ですから仕方がないですね
これから社会はどんどん激しく変化していくでしょう。懸命に習得したスキルは、何年後かにアッサリ陳腐化しているかもしれません。会社だっていつ倒産するか分からない。世間にどれほど名の知れた大企業だって三年後にどうなっているか見通せないのです。当然、自分の入る会社だって例外ではない。『自分だけは大丈夫』と確証バイアスに囚われていたら命取りになるでしょう



社会変動の波に一喜一憂してはいけません。やるべきことを淡々と進めつつ、己を絶えずアップデートしておくことが重要です。転職はせずとも、いつでも転職できるようにスキルアップを図る。他の会社と商談したときに「お兄ちゃん、ウチへ来ない?」とヘッドハンティングされるぐらいの絶対的存在になる。ここまでやっておけば将来へのリスクヘッジになりますよね。安定は自分の努力で掴み取るべき。会社にしがみつく握力を鍛えるのは筋違いかと存じます



安定への道は、自分を変革し続ける営み自体にある、と



その通りです



なるほど…
独立は考えていますか?



現状、全く考えていません。起業してまで取り組みたいビジネスがないもので。このブログがバズりにバズって、ブログだけで飯を食っていけるようになったら考えてみます。今はまだ赤字を垂れ流している状態。独立など夢のまた夢ですね
メッセージ



分かりました
では最後に、早期修了を目指す学生さんたちへ何かメッセージをお願いします



早期修了には圧倒的な努力が不可欠です。五本のインタビュー記事を通し、鍛錬を重ねる重要性について何度も訴えてきました。残酷にも、頑張ったら頑張った分だけ報われるというわけでもありません。研究テーマや査読者とのめぐり合わせ、個人の有する能力の限界値など、様々な要素が複雑に絡みあってきます。早期修了するには、厳しい学位審査を乗り越えながら、費やした時間と頑張りが報われないかもしれない恐怖を乗り越えねばなりません。皆さんの前には険しく、頂点が見えないほど高い壁がそびえたっているのです



困難をどのように乗り越えるかは人それぞれでしょう。力づくでよじ登ってもいい。最先端のツールをジャンプ台に使って軽々飛び越えたっていい。あるいは、壁に攻城器で大きな穴を開けて通過する発想の転換が求められるかもしれません。早期修了を達成するにあたってどのような手段を講じても構わないのです。頭を柔軟に保ちましょう。袋小路を打開する突破口は必ずどこかにあるはずです



ありがとうございま…



すみません、もう少し喋らせて下さい笑



あぁ、すみません!
どうぞどうぞ!!



ありがとうございます
早期修了チャレンジを通して最も大事だったのは、この記事でも述べた「自分を信じ続ける」こと。一瞬たりとも諦めませんでした。何度論文がリジェクトされて早期修了の灯火が消えそうになっても投げ出さなかった。泥臭く、カッコつけず、毎日ひたむきに進み続けること。ある時を境に道がパッと拓けてきます。早期修了の見通しが立った瞬間に全力ダッシュできるよう準備しておいてください
以上です



ありがとうございます
(もう終わりでいいですか?)



(言いたいことを全部喋り切りました!)



では、インタビューは以上で終わります



当サイト『札幌デンドライト』には、博士課程早期修了を始め、研究に役立つコンテンツがたくさん収録されています。論文執筆やゼミ発表でお困りの方、博士課程進学を考えている方、留学の検討を加速している方はぜひ今後ともご覧ください(*≧∀≦*)



宣伝までして下さってありがとうございます!



いえいえ、これも仕事ですから
ではインタビューは以上で終了です。かめさん、長々とありがとうございました!



こちらこそ、いっぱい喋らせて下さってありがとうございました!
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