【インタビュー#2】博士課程早期修了者へ「研究面での困難」を尋ねてみた

目次

研究面で意識していたこと

インタビュアー

次に研究面についてお伺いします
通常の博士課程の学生と比べて、意識して取り組んだことはありますか?

かめ

あります
特に意識したのは「速さ」です

インタビュアー

詳しく教えて下さい

かめ

早期修了には沢山の業績が必要です。出版論文数もそう。学会発表数もそう。普通の人よりも多く、よりたくさん研究を行わねばなりません。チンタラ進めていては標準年限での修了がやっと。私が成し遂げたかったのは、一年短縮での早期修了です。早期修了は時間とのせめぎ合い。土日返上で研究しても間に合うかどうか際どい世界なのです

かめ

そこで、全ての作業の効率化を図りました
実験セル作成法を絶えずマイナーチェンジすることで製造時間短縮をもくろむ。現象の本質を捉えることで、必要な実験数自体を減らしてしまう。論文執筆は生成型AIに頼り、爆速で原稿の英語化と校正を済ませる。その他、研究着手から論文出版までの間に生じうるリードタイムを削れるだけ削りました。合言葉は「速く」。もともとせっかちな性分です。己のせっかちさに一層磨きをかけて博士課程をショートカットしました

インタビュアー

まるでアスリートみたいですね

かめ

そうですね
ちなみに、研究の息抜きとして趣味でランニングをしていました。そのことについては後述したいと思います

インタビュアー

ありがとうございます
そんなアスリートのかめさんにとって、研究遂行と論文出版とではどちらが苦労しましたか?

かめ

難しい質問ですね
正直言って、同じぐらい大変でした

インタビュアー

強いて順位付けするなら…?

かめ

あえて付けるなら、論文出版ですね

インタビュアー

論文出版のどのような所が大変でしたか?

かめ

まずは記す所です
執筆に際し、得られた膨大なデータを並べ替え、それらに対する適切な考察文を記さねばなりません。新奇性を得るための考察。自説を裏付けるための文献を探す。説明に矛盾のないよう考え抜く。果てしない作業が待っています。特に大変だったのが、背景パートの作成。書けども書けども指導教員から「やり直し!」と突き返されてしんどかったです

インタビュアー

ブロガーのかめさんなら案外楽かなと思ったのですが…

かめ

ブログと論文とではまるで異なります。ブログで記した文章の出来不出来を判断するのはサイト管理人の私。論文の出来を判断するのは指導教員と査読者。論文はフリースタイルでは書けません。”自分の記す文章ぐらい好きに書かせてくれよ”とげんなりしました

インタビュアー

それは辛いですね

かめ

あと、論文には忌々しい「リジェクト制度」があります。投稿論文原稿の質が雑誌の求める水準に達していない場合、掲載拒否されて投稿プロセスがやり直しになるのです。そこには何の情け容赦もありません。論文のレベルが低ければバッサリ斬られます。私はD1の後期、同じ論文を四回連続で違う学術雑誌にリジェクトされました。研究の意義自体を否定されているようで心苦しかったですね

インタビュアー

かめさん、受験浪人もされているじゃないですか。論文出版と大学受験浪人とではどちらが辛かったですか?

かめ

圧倒的に論文出版の方ですよ
受験は努力次第でどうにでもなる要素の方が大きいでしょう。論文出版は、雑誌編集者や査読者との相性など、努力以外の不確実な部分に運勢を大きく左右されてしまいます。私にはこの「不確実さ」が苦痛でした。何をどこまで仕上げれば良いのか分からぬまま暗中模索で必死に頑張るのは辛すぎました。早期修了を決めた背景には、”研究の世界から早く離れたい”との思いもありました。不確実極まりない世界と一年でも早く距離を置きたいから頑張ったのです

早期修了挑戦の過程で直面したアクシデント

インタビュアー

そうだったんですね
早期修了チャレンジは順風満帆ではなかったと思います。どのようなアクシデントが生じましたか?

かめ

キーワードを2つ挙げましょう。

①四連続リジェクト
②留学失敗

さぁ、どちらから行きましょうか

インタビュアー

パワーワードの列挙をありがとうございます。さて、どうしましょうか…
では素直に①から始めましょう。同じ論文を四回連続でリジェクトされたんですよね?

かめ

そうなんです。D1の9月から2月にかけて、一つの論文をそれぞれ別の投稿雑誌から四回連続で掲載拒否されました
最初の二回はインパクトファクター(IF)の高いビッグジャーナル。「新奇性が薄い」「レベルが低い」との理由であっけなくリジェクト。残りの二回はIF10以下の標準的な雑誌。「先行研究例がある」「もっと専門的な雑誌への掲載が望ましい」と掲載を断られました

インタビュアー

何回も連続でリジェクトされたら辛いですよね

かめ

辛いです。自分の研究が面白くないと言われているようで胸が張り裂けそうになりました
それ以上に厄介だったのがスケジュール的な問題。リジェクト続きで論文出版ペースが遅れに遅れ、早期修了がおぼつかなくなってしまいました

かめ

今までの私なら、一報の論文がアクセプトされるまでの間、次の論文の執筆には着手しませんでした。アクセプト前に次の論文作成に着手すると何だか気持ちが悪いし、一度に二報の論文に携わったら頭が混乱してしまうからです。出版ペースの遅れを挽回するには、一度に複数の論文を扱うしかありません。何度もリジェクトされた論文を投稿・査読対応しつつ、別の論文を書き始めてタイムカットを図りました。一番大変だった時は、同時に三報を扱いました。論文の査読対応をしながら論文を書き、別の論文用のデータを集める形

インタビュアー

よくやり切りましたね…

かめ

もはや執念です。「早期修了したい」という強い想いを原動力に乗り越えました

インタビュアー

次に「②留学失敗」についてお伺いします

かめ

D1の10月からイギリスへ研究留学に行きました。滞在予定期間は半年間。訪問先研究室にて専門分野の理論を学び、それについて実験を通じて理解を深めるという作戦でした

かめ

しかし、訪問した研究室には、教授も学生も姿を見せませんでした。扉を開いたその先には、空虚で真っ白な空間が広がっていたのです。おまけに実験装置がほぼ全て故障中。頼んだ試薬は何ヶ月も届かなかったし、何ひとつ実験を進められない状況だったのです。業を煮やし、留学を三か月半で切り上げて帰国しました。お金と時間を失っただけの、あまりに切ない海外滞在でした

インタビュアー

留学中、研究を進められなかったのではありませんか?

かめ

そうなんです。全くと言って良いほど進められませんでした。仕方がないから、日本から持って行っていた研究データをまとめて論文化する作業を進めました
帰国後、三か月半の遅れを取り戻すべく、今まで以上に研究・論文執筆ペースを上げました。どうにか間に合って良かったですよ。このケースも執念です。「こんなことでめげてたまるか」と負けん気を発揮しました

ストレス発散法

インタビュアー

ストレスフルな日々をお過ごしだったかと思います。精神面でのストレスには、どのように対処していましたか?

かめ

ストレスをため込まないことを意識しました。イライラしたら思考がはかどらず、研究を進められなくなる体質なので。早朝には週6でランニング。一度に20~30km走りました。走るのが楽しくなってきて、陸上トラックでインターバルトレーニングまでやるようになりました

インタビュアー

本格的ですね~!

かめ

一度ハマったら突き詰めてみたくなる性格なんです。ストレス発散のためにランニングを続けました。おかげで練習日はストレスと無縁です👍
D2の11月には学会発表翌日にフルマラソンを走りました。2時間42分14秒でのフィニッシュ。目標だった2時間40分切りにはわずかに届きませんでした。全力で挑んだ結果なので後悔はありません。会社員になる来年度こそは2時間40分切りを果たしたいです

インタビュアー

ランニング以外には何かしていましたか?

かめ

走る以外では、読書と勉強です。
大学時代から純文学とSFをよく読んできました。夏目漱石の作品を全集で読み通した経験もあります。本の中の世界に入って想像を膨らませるのが楽しいのです。研究でどれだけ疲れた日でも本を読めばストレスが抜け落ちます。読書を通じて読解力や表現力が高まりました。これらの力は論文執筆の際に役立ちましたね

インタビュアー

えっと、、、
勉強が趣味なんですか?

かめ

そうです。”勉強”といっても文系分野の勉強です。理系分野の勉強は大学で嫌というほどやってきましたから

かめ

理科系の勉強ばかりだと、思考がどうしても科学偏重型になってしまいます。なんだか頭でっかちになってくるようで気持ちが悪かったのです。そこで、歴史や哲学系の勉強もしてきました。脳内バランスを整えることで複眼的な思考ができるようになりました。文系と理系の交差点に立ち、物事を様々な観点から眺められるようになるの自体がストレスを下げてくれます。勉強、楽しいですよ。ランニングも同じですが、自ら進んでやり始めたものはずっと続けられます^ ^

モチベーション維持のコツ

インタビュアー

そうなんですね
おそらく、趣味だけでは研究のモチベーションを保てなかったと思います。意識を高く保つために心がけていたことはありますか?

かめ

実は、特にないんですよね。やる気は上下して当たり前だと思っていましたから
大切なのが、気持ちを下がりっぱなしにしないこと。下がった後はグッと引き上げる。下げたままでほったらかしにはしない。やる気が無くなって虚無状態になったときは、まずその状態を受け入れてしまいましょう。その後、落ち着いたら、負の値を示すやる気パラメータを絶対値で挟みます。やる気を無理やりプラスに換えて自分の推進力にしてしまうのです

インタビュアー

どのようにしてやる気をプラスに転換するのですか?

かめ

プラス思考です。「この苦境を打開できれば凄いよな、カッコイイよな」と自分に言い聞かせます。逆境に打ちひしがれるだけなら誰だってできる。逆境を糧に奮起するのは至難の業でしょう。だったらそんな難業に挑戦してやろうじゃねぇかと心を燃え立たせるのです。決意した瞬間、あら不思議。沈みに沈んだモチベーションが一気に上向いていきます

インタビュアー

かめさんがモチベーション管理の名人だということがよく分かりました。では次に、就職活動と学位審査についてお伺いします。まずは就職活動の話からお尋ねしますね

かめ

何でも聞いて下さい (*≧∀≦*)

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