早期修了の意向を伝えた時期

前回から続けてインタビューしていきます。今度は学位審査に関する質問です。
早期修了するにあたって、指導教員の協力は不可欠だったと思います。かめさんは先生へ早期修了の意向をいつごろ伝えましたか?



早期修了を考え始めたのはM2の前期。博士進学前に博士論文提出要件を満たしており、よりチャレンジングな目標へ挑戦したくて先生に相談した際に早期修了制度を教えていただきました。早期修了しようと決め、先生に意向をお伝えしたのはD1前期だったはず。早期修了するにはたくさんの業績が必要です。なるべく早めに動き始めた方が飛び級できる確率を高められるでしょう。指導教員の協力を仰ぐべく、早期修了を目指す意向を博士進学直後に伝えました



先生もビックリしてたのではありませんか?「おいおい、まだ進学したばかりじゃないか」と



「分かったよ」と淡々としておられました。意向を伝えて以降(*ダジャレじゃありません)、先生は私の業績確保に向けて協力して下さりました。論文を急ピッチで添削して下さったり、学位審査のタイミングを教えて下さったり。感謝してもしきれません。あれだけお忙しいなか飛び級を手伝って下さって
標準年限修了者と早期修了者の審査の違い



素晴らしい先生との出会いに乾杯ですね🍻
さて、博士課程早期修了者の審査は通常のものとは異なったかと存じます



そうですね



具体的に言うと、どのような点が違いましたか?



通常の審査との違いは三つありました。
①審査の時期
②審査に必要な書類
③審査の厳しさ
この3つです



一つずつ深掘りしていきます
まず①についてお聞かせください



早期修了は”早期”と付くぐらいだから、標準年限修了予定者よりも早期に学位審査が行われます。前倒しになるのは「予備審査会」と「公聴会」のふたつ。通常、予備審査会はD3の12月ごろ、公聴会はその一か月後に行われるのです。私の場合、それらを両方とも一年前倒してD2のうちに終えました



当然、学内手続きも全て一年前倒しですよね?



そうですね
厄介なことに、学生便覧や学位審査フローチャートが全て標準年限修了予定者のために作られていました。私のように早く出ていく人は稀。ごく少数の人のためにフローチャートを作成してくれるほど大学は親切ではありません。通常年限で修了するケースと自分の修了時期とを照らし合わせて対応しました



そうなんですね
続けて「②審査に必要な書類」についてお聞かせください



早期修了には多くの業績が必要です。出版論文数が十分かどうか確認するため、早期修了予定者専用の書類を出さねばなりません。それが研究業績目録です。自分の在学中における研究業績を全て記した媒体の提出が求められました。作成自体はカンタンです。入力フォームへ論文名や学会発表題目を打ち込むだけですから



早期修了申請書のようなものの提出は求められませんでしたか?



いいえ、ありませんでした
履歴書と博士論文要旨と博士論文の3つは標準年限修了予定者も必要です。我々早期修了者は、それらに加えて業績目録を出せばOKでした



分かりました
では「③審査の厳しさ」について教えて下さい



早期修了者は要求業績量が多いのに加え、学位審査のレベルも高水準です。早く出られるだけの力はあるか。研究の成熟度は高いか。発表は巧いか、分かりやすいか。様々な観点から厳しく見定められます。審査員の皆さんは何の情け容赦もなく我々へ不合格を突きつけてくるのです。博士の水準に達していないと分かった瞬間に「もう一年」と宣告される。早期修了希望者として、学位授与の延期は耐えがたい。何としてでも博士号を手に入れるために入念な準備を重ねました
学位審査会で注意したこと



学位審査会へ臨むにあたって気を付けたことを教えて下さい



予備審査会と公聴会の二つに絞って説明します。
予備審査会では、専門的な質問に答えられるよう準備して臨みました。
予備審査会は小規模の審査会。私の例では、主査(指導教員)と三名の副査による博士論文諮問が行われました。皆、私の専門領域に精通している方々です。ひょっとしたら私よりも詳しいぐらいかも。予備審査会は学会と同様、バックグラウンドの共通した人間からの質問を受けます。専門的で突っ込んだ質問が多め。どのような質問が飛んできそうか予め予測して臨みました



公聴会の方はいかがですか?



公聴会では、非専門的な質問に答えられるように準備して臨みました
公聴会は大規模の審査会。主査と副査を始め、専攻内の様々な研究室からお越しになった先生からの諮問を受けます。先生方のバックグラウンドは多種多様。私の専門は電気化学ですが、電気化学を全く知らない人も参加するのです。材料学の観点からの質問がくるかもしれません。流体力学や熱力学的観点からの質問も予想されます



なかなか質問の的を絞りづらいですね…



そうなんです。質問の予測が全くといって良いほどできません。しかし、早期修了を狙っている以上、どのような角度から質問が飛んできても対処できるようにしておくのが大事。何らかの対策が必要です。そこで、自分の分野と関係のありそうな学問の基礎を総ざらいしてきました



具体的には…?



私の学んできた電気化学は「物理化学」という学問が基礎になっています。電子軌道やらシュレーディンガー方程式やら複雑な概念が渦巻いている学問です。物理化学の勉強をすべく、”アトキンス物理化学”という教科書を流し読みして基礎固めを行いました



また、私の所属は材料科学専攻です。研究室配属前、金属材料学に関する講義を受けてきました。この観点からの質問も予測されます。材料学に関する入門書を読んで足元を固めました。それとは別に、電気化学反応と材料科学とを橋渡しする基礎的な書籍も一冊読み込んで対策しておきました



質疑対策は基礎学問の勉強のみ行いましたか?



研究背景や応用面での質問も予測されました。「それって何の役に立つの?」「そもそもなぜこの研究をしようと思ったの?」といった感じの問いへよどみなく答えらえるように。こういうものの対策は、事前に用意しておかなければ本番で答えに窮します。学位審査では隙を見せたらダメ。先生方へ容赦なく突っ込まれて大炎上を招くでしょう。イントロダクションやアプリケーションの対策には分かりやすい図解本が最適。次世代電池の図解専門書を購入して読み、知識収集して対策を終わらせました



本番では質問に答えられましたか?



だいたいの質問には答えられました。一部、考えたことのない観点からの質問には、答えに窮して「分かりません」と答えました



人間は何でもかんでも知っている訳ではありません。知らないものがあって当然です。知らないのに知ったかぶりをする方がよくないでしょう。ヘタに突っ込まれてウソが露呈した瞬間に炎上するのが目に見えています。分からんものには「分からん」と答える。この謙虚さも見られているのではないでしょうか



なるほどなぁ。奥が深いですね
学位審査会の雰囲気について教えて下さい。中間審査、予備審査、公聴会それぞれで教えていただけると助かります



中間審査会は大変和やかな雰囲気でした。先生方がみなニコニコしていて、炎上しそうな予兆を微塵も感じられません。質疑応答セッションでは何の問題も無し。研究に関するアドバイスをいただける有意義な時間だったのです。緊張が解けた後、ジョークを言って笑いをとる余裕さえありました。中間審査会は楽しかったです



では予備審査の方はいかがでしたか?



うって変わって地獄でした。ちょっとした手違いをキッカケに一時間も爆詰めされる始末。指摘の一つ一つが本当に鋭くて痛かった。本質的な理解の浅さを感じさせられる会となりました。”いつになったら終わるのだろう”と何回も天を仰いだぐらい。20分のはずだった質疑応答時間が40分も延びて60分かかりました



それは災難でしたね…
公聴会の方はいかがでしたか?



予備審査ほどではありませんが、程々にピリッとして荘厳な雰囲気でした。何といっても、自分の前に11人も博士号ホルダーが鎮座しているわけです。威圧感が半端ない。笑みを浮かべている先生が不気味で怖かったな。質疑応答セッションは平穏に終わりました。厳しい質問をしてこられる先生が居らずにホッとしましたね
学位審査会の手応え



公聴会を終えた瞬間、”通った”と思いましたか?



諮問のパスは99%間違いないだろうと感じました。業績は十分。手続きに抜かりはない。質疑応答セッションも無難にクリア。講義の単位は取得済み。これだけ揃っている以上、公聴会を落とされる要素が見当たりません。客観的に考えても大丈夫だろう、と



仮に公聴会をパスできなければ研究業績がリセットされていたそうです。このプレッシャーはなかなかのものだったのではありませんか?



正直言って怖かったですよ
大学院試験と同じようなものかな。落ちる可能性はごく僅か。けれども、落ちた瞬間に人生が終わりかねません。恐怖に打ち勝つには、落ちた場合のことをあまり考え過ぎないようにするのがオススメです。通った後の薔薇色な人生だけを見据えましょう。”受かる!受かる!絶対受かる”と自己暗示するのも良いかもしれません



分かりました
では最後の記事にて、後輩に向けたアドバイスやメッセージをお尋ねします



分かりました
- 博士課程早期修了への道†9 学位審査第一ラウンド、中間審査会
- 博士課程早期修了への道†12 第二ラウンド・予備審査会。華麗なる裏切りと猛烈な理不尽アタック
- 博士課程早期修了への道†13 ファイナルラウンド・公聴会
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