研究室生活春夏秋冬vol.61 最終回|さあ行こうぜ、どこまでも! 大志を抱いて札幌から世界へ

さあ行こうぜ、どこまでも

2017年春、札幌へ単身進学した。見渡す限りの雪と澄み渡る空気。誰も知らない土地で始まる生活に不安が募った。それでも心の奥には小さな期待が芽吹いていた。自分はこの街でどのような物語を紡げるだろうか。あれから八年。手元には濃紺色の学位記がある。『博士』を名乗る日がやって来た。長く続いた旅が一段落し、次なる段階が始まろうとしている。

札幌は試練の場だった。再び立ち上がる場所でもあった。

一年次の九月、馬術部に入った。朝の厩舎作業、馬のぬくもり、静かな対話。秋の空気の中で感じた馬の息遣いは今でも覚えている。二年次の六月、自分と部の方向性が合わず退部した。

馬術を辞めてからはランニング一本。部活にもサークルにも入らず、博士課程修了まで一人で走った。雪の日も、晴れの日も。走ることで心が整い、未来を信じる力が宿った。ランニングは札幌での日々を貫く一本の軸。駆ける。苦しいときこそ前へ。陸上練習で得られた教訓は、血となり、骨となっている。朝焼けの中を駆け抜け、雨に濡れながら走り、冬の凍てつく空気を切り裂いた。走っていると気持ちが前向きになった。走ることが自分を癒し、奮い立たせてくれた。

今月から広島で新生活が始まった。新しい部屋。馴染みのある街。札幌で育んだ「挑み続ける気持ち」を携えて、再びゼロから歩みを進める。博士課程を飛び級したからといって万事がうまくいくとは限らない。けれども、自分には八年間の蓄積がある。酸いも甘いもヘドロも嚙み分けてきた。今では自分へ全幅の信頼を置ける。自ら考えて選んだ道を誠実に踏みしめていく。選んだ道を力づくで正解にする。覚悟と希望と愛と勇気を携えて全速前進する。

札幌で過ごした日々は、胸の奥で静かに燦然と輝きを放っている。まぶしく、あたたかく、引き込まれる光。過去の記憶は目を奪われるほど綺麗。思い出と日々の余韻に浸りたい気持ちを抑え、少々強引にでも未来を見据える。この先に広がる将来は、過去よりもっと眩しいと信じたい。夢を抱いて走り続けるしかない。立ち止まれば先が見えなくなる。だから走る。願いを胸に、もっと遠くへ。

広島までの帰り道は二年間の遠回りとなった。よせばいいのに博士課程まで行った。博士課程の二年間、日本とイギリスで多くを感じ取った。迷い、悩み、立ち止まる時間もあった。たゆまず進み続けてきた足が今の自分を支えている。歩み自体に意味があった。たとえ見通しの利かぬ道でも、歩き続ければいつか開けてくる。努力は裏切られることもある。挑戦する意志そのものが人間を人間たらしめる。

札幌で得た宝物を胸に秘め、広島から再び羽ばたいていく。見上げる先は世界。博士としての誇りと大志を抱いて、新たな一歩を踏み出す。未来は手の届く場所にある。世界を変えるのは、ほんの少しの勇気と、積み重ねた長大なる日々で得られた力。博士課程修了は終わりではない。新世界が幕を開ける合図だ。過去を胸に秘め、未来を信じて、永遠に続く「いま」を歩いていく。まっすぐ前だけを見据えて。一途に、ひたむきに。

さあ行こうぜ、どこまでも。

研究室生活春夏秋冬。全61話、これにて完結

研究戦績
・査読付学術論文:筆頭論文6報+第三著者1報
・学会発表:国内9回+海外3回
・受賞:全国学会1件

その他
・日本学術振興会特別研究員DC1 内定
・学生情報総合サイト「札幌デンドライト」開設
・英国オックスフォード大学 留学
・民間企業就活 勝率100%
・博士課程 一年短縮修了

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