研究室生活春夏秋冬vol.8 B4・10月 筑波での試練。四週間もの激闘

つくば滞在一週目:過酷な実験環境との格闘

第一週目から、実験環境への適応に大きく苦しめられた。実験試料のリチウムは水分との反応性が極めて高く、ドライルームと呼ばれる特殊な低湿度環境での取り扱いが必須だった。しかし、この環境は実験者の体内からも容赦なく水分を奪い取り、最初は20分の滞在ですら体が干上がる感覚に襲われた。外に出ては湿潤な空気を求め、水分補給を繰り返す日々。実験セル作成には最低でも1時間の作業が必要なため、このままでは実験すら始められない状況だった。

グローブボックスという装置との戦いも始まった。アルゴンガスを封入した箱の中で、伸びた手袋を介して作業を行うこの装置は、呼吸面ではドライルームより楽だったものの、手の自由度が極端に制限された。細かい作業が著しく困難なうえ、循環するアルゴンガスのせいで薬さじでリチウム塩をすくおうとすると白い粉が舞い散る始末。その度にキムタオルにエタノールを染み込ませての清掃作業が必要となった。

贅沢な実験設備を使わせていただいているはずなのに、不器用な私にはすべてが高い壁に感じられ、「もっと楽な実験テーマがあれば」と一週目にして弱音が漏れ始めた。

つくば滞在二週目:焦りの中で

一週間を経て、ようやくドライルームでの1~2時間の連続作業が可能になった。実験セル作成のスタートラインに立てたものの、ここから新たな苦悩が始まる。ハイペースで実験を進めたが、データの再現性が全く得られなかった。それらしい結果は毎回出るものの、あまりにもばらつきが大きく、信頼できる数値とは言えない状態が続いた。

共同研究者に相談すると、実験セルの作製方法に問題があるのではとの指摘を受けた。様々なパターンでセル作りを試みたが、データのばらつきは解消されず、どの結果が真に意味のあるものなのか、判断すら困難な状況が続いた。

つくば滞在三週目:深まる焦燥

第三週に入っても状況は好転せず、むしろ深刻化の一途を辿った。焦りから実験セルの作り込みが雑になり、新たなトラブルが頻発。本来なら一度立ち止まって冷静に考えるべき時だったが、「このままでは卒業できない」という不安が理性を支配し、ミスの連鎖を引き起こした。さらに追い打ちをかけるように、研究室のオンラインゼミへの参加義務が発生。貴重な実験時間がみるみるうちに削られていく。欠席すれば指導教授からの叱責は必至。耳でゼミを聞きながら、頭と手はデータ整理に費やすという綱渡りの日々が続いた。

つくば滞在四週目 (最終週):光明

長かったトンネルにも、ついに光が差し込んできた。第三週までバラバラだった実験結果が、最終週では同条件でほぼ同じ値を示すようになった。おそらく実験の経験値が一定の閾値を超え、セル作製の技術が向上したためだろう。あるいは、考えうる失敗をすべて経験し、一つ一つの対策を積み重ねてきた成果かもしれない。

卒論に使えるデータが得られた瞬間、安堵の涙が込み上げた。少しずつ心に余裕が生まれ、新たな実験条件への挑戦も始まった。実験を重ねるごとに有用なデータが蓄積され、来年度への期待も膨らんでいった。

つくば滞在最終日は、札幌から訪れた指導教員との焼き肉で労をねぎらい、翌日は蒲田の名店「丸一」でとんかつを堪能。苦闘の日々を経て、充実感とともに初めてのつくば滞在を締めくくることができた。て、良い思い出で最初のつくば滞在を締めくくることができた。

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