学生にゃん博士課程には天才しかいないんですか?
SNSを眺めていると、たしかに驚異的な研究成果を挙げる学生が目立ちますよね。論文を次々と量産する人。国際学会で賞を総なめにする人。研究を起点にビジネスを立ち上げてしまう人まで現れる始末です。こういう華やかな投稿ばかり目に入ってくれば、博士課程が超人の集会所のように見えてきても無理はないでしょう。
では、博士課程は本当に天才の巣窟なのでしょうか?
この記事では、私自身が博士課程に二年在籍して感じた肌感覚をふまえつつ、在籍者が天才なのかどうか考えていきます。博士進学を検討している方や、博士課程で周囲の優秀さに気後れしている方の参考になれば嬉しいです。



それでは早速始めましょう!
博士課程にはすごいヤツが多い


確かに博士課程にはすごいヤツがいます。自分には到底届かない才能の塊が、目の前でしれっと歩いていたりするんですよ。
まだ学生なのにCNSへ筆頭著者で論文を出す人がいます。研究を起点にビジネスを立ち上げて、サラリーマン以上に稼いでしまう人までいる。一度、育志賞の受賞者の経歴を眺めてみてください。あの人たち、本当にとんでもないですから。いったい何を食べたら、あそこまで才能が育つんでしょうか。同じ人間とは到底思えません。もはや宇宙人。人間の皮をかぶった異星人でしょう。
修士課程と比較すると、博士課程ではすごいヤツの人口密度がぐっと跳ね上がります。なぜなら、普通の人は就職して抜けていき、突き抜けたい人だけが博士課程に残って暴れ回るから。残された集団のなかで、すごいヤツはますます目立っていきます。博士課程は変な人のままでも許される場所ですから、すごいヤツはそのまま化け物になるのです。博士課程では、良い意味でも悪い意味でも自分の個性が伸びに伸びる。
博士課程在籍者≠天才


しかし、博士課程へ在籍しているからといって必ずしも天才であるとは限りません。むしろ逆で、博士課程には、すごいヤツよりもすごくないヤツの方が多く生息しています。私自身も凡人組の一員でした。
才能にあまり恵まれず、コツコツ努力を積み重ねて実力を底上げしてきた凡人が、博士課程では大半を占めているんですよ。私の所属研究室にも、いわゆるすごいヤツはいませんでした。専攻全体を見渡しても、信じられないペースで論文を量産する人も、切れ味抜群の理論を繰り出す人も、在籍中に見かけませんでした。
SNSでは、尖った天才ばかりがもてはやされます。すごいヤツの存在感が実態以上に膨らんで見えてしまい、博士課程がさも天才集団かのように映るんですよね。でも、華やかな投稿はあくまで目立つ部分の切り取りですから、話半分で受け止めておいてください。才能に恵まれた人間はごく一部。圧倒的多数は努力型ですから。
私は博士課程を一年飛び級して修了しました。早期修了したおかげで、会社に入って周りから「天才ですね」と持ち上げられる場面があるんです。まぁ、悪い気はしませんよ。貶されているわけではありませんから。どうもありがとうございます。
ただ、自分程度の人間を天才と呼んでしまうと、本物の天才に失礼だと思います。私はあくまで努力型だから。実際、研究室在籍中に投稿論文が七回もリジェクトされています。SNSには、私など及びもしない正真正銘の天才がいる。もし私が天才なら、彼らは神様あたりまで繰り上げないと釣り合いが取れません。
もし私が本物の天才だったなら、早期修了を”目指す”必要すらなかったはずです。才能が勝手に発揮されて、気づいたら学位が転がり込んでいた、ぐらいのラクな流れで済んでいたでしょうね。現実の私は、ヒーヒー言いながら走り続けて、ようやく一年短縮修了をもぎ取った。これ、どこから見ても凡人のムーブでしょう。本物の天才とのあいだに何光年もの距離があることは、自分でも嫌というほど分かっています。
博士課程へ入るだけなら誰でも入れる


博士課程には天才がいますが、在籍者の全員が天才とは限りません。また、天才の全員が博士進学を選ぶとも限らないのです。博士修了後の進路はぼんやりしていますし、学位に見合った給与が約束されているわけでもありません。
天才は才能ゆえに未来が遠くまで見えすぎてしまう生き物。進学のメリットを冷静に測って別の道を選ぶ天才が現れても、なんら不思議ではないでしょう。
要するに、博士課程への在籍は、天才であるための必要条件でも十分条件でもないわけです。博士課程と天才のあいだに、論理的な関係はほとんどありません。
ぶっちゃけ、日本の博士課程なんて、入るだけならネコでも入れます。修士号を持っていて、研究計画をそれなりに書き上げられて、しなやかなメンタルとお金さえ用意できれば、ほとんどの大学院で受け入れてもらえるでしょう。
入学試験は、あってないようなもの。受ければほぼ全員が通ります。簡単な筆記試験と口頭試問だけの形式的な試験です。実際、私は博士課程の入学試験を受け終えたとき、「こんなに簡単に入れてもらっていいんですか?」と心配になってしまいました。もう少し厳しくしてもいいんじゃないかと、受けた本人から提案したくなるレベルでした。
博士課程では、大学入試のように、入口の段階で才能をふるいにかけません。本当の選別は、修了間際の学位審査会で待っています。博士号を取って、ようやく凡人を名乗る資格が手に入るのです。天才の皆さまは、学位審査の壁なんて助走なしでひょいと飛び越え、凡人の称号に安堵する我々のはるか先を驀進していきます。
最後に
博士課程にはすごいヤツがいます。CNSに論文を出す人もいれば、起業で成功を収める人もいる。
ただし、こういった方々は、博士学生のうちのごく一部にすぎません。大半は私のような凡人で、日々コツコツと実験をこなし、論文を書き、学位を目指して地道に努力する普通の学生です。SNSで流れてくる華やかな投稿は、あくまで目立つ部分の切り取りだから、話半分に眺めておきましょう。
博士課程への進学を検討中の方、安心してください。天才でなくても、博士号はちゃんと取れます。運が良ければ、私のように半年や一年の短縮修了が視界に入ってくる可能性もあるでしょう。博士課程に興味があるなら、思い切って飛び込んでみればいいのです。
すごいヤツはたしかに眩しいですが、眩しさに目を奪われたところで、自分の才能が増えるわけでもありません。凡人は凡人のペースで走っていけば十分。私も凡人のまま、どうにか博士号まで辿り着けましたよ。凡人にしか出せない滋味というものもあるのです。



















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