北大博士課程を一年短縮修了した技術開発エンジニアかめです。
人工知能の成長が止まりません。2023年1月、人と会話できる生成型AIが登場しました。その数年後、AIは、アウトプットで人と同等の質を見せるまでに。彼らはいったいどこまで進化するのでしょう。AGI(汎用人工知能)やASI(人工超知能)が完成する日もそう遠くないかもしれませんね。
私はかつて、大学院で学術研究に従事していました。今まで明らかにされていなかった知見について、実験を通じて解明していく営みを。
ここでひとつ、疑問が湧きました。このままAIが進化し続けたらどうなるのか。学術研究は誰が担うのだろうか。
ロボットに超絶賢いAIが搭載されたとしましょう。秘密道具が標準装備されたドラえもんをご想像ください。彼らは一人で何でもやります。実験も、理論計算も、論文執筆も、すべて独力で行うでしょう。万能な人型AIロボットが登場したとき、人間の居場所は学術界にあるのでしょうか。人間は、研究をさせてもらえるのか。人間が担える研究領域は残っているのか。
この記事では、思考実験をします。学術研究の未来について、皆さんと一緒に考えてみましょう。
かめそれでは早速始めます
AIロボットは全能。実験から論文執筆まで一気通貫で進める
AIロボットは地球上の全知見にアクセスできます。未だ明らかにされていないことは何か。知見解明に向けて自分が利用すべきツールは何か。どのような実験を行うべきか。幾重もの論理的思考を経て、研究計画を立てられるでしょう。
AIロボットの身体は機械でできています。肉体を持たぬ以上は疲れません。当然、疲れも空腹も眠気もありません。動力が尽きるまで、24時間・365日、永遠に手を動かし続けるでしょう。化学実験はもちろん、現地で行うフィールドワークだって無限に可能。一人で人海戦術をやっているようなもの。人間が何人で寄ってたかって対抗したって敵いません。
実験はもちろん、シミュレーションだって可能。プログラムコードを書くなどお茶の子さいさい。自分で自分の頭脳にプロンプトを打つ。必要なコードを生成し、試行錯誤を経て理論計算を完結させるでしょう。流体シミュレーション? 第一原理計算? 超進化したAIなら余裕。人の何百倍も早く作業できますから。
AIロボットは、実験やシミュレーションを通じてデータを蓄積します。彼らは取得データを逐一整理し、分析して傾向を読み取るでしょう。推論を深めれば新奇性が見出されるはず。即座に論文執筆へと移行します。アピールポイントは何か。図表をどう作れば新奇性が際立つか。要点を意識しつつ、整然とした英文を一瞬で書き上げる。
人工知能がAGIやASIに達したころ、査読者は人間からAIになっているでしょうね。査読専用のAIが現れます。アクセプトorリジェクトの判断を24時間対応でやってくれる。リバイスするのも早いんだろうな。必要な追加実験があっても、AIロボットなら2~3日で終わってしまうでしょう。原稿改訂だってものの数秒で片付く。論文出版速度がケタ違いに上がる未来がやってきます。
そもそも、査読なんて面倒なシステムは無くなっているかもしれません。AIロボット自体にレビュー機能を装備すれば査読などなくて済みます。研究しながら他のAIからアドバイスをもらえばいいのです。助言をもとに、適宜軌道修正。間違いのない論文が出来上がります。
AIロボットの登場は、99%の研究者を淘汰する
もし本当にAIロボットが登場したらどうなるか。99%の研究者は自然淘汰されるでしょう。
AIロボットは、全分野の知識へ同時にアクセスできるうえ、昼夜問わず働き続けられます。データ処理をものの数分で終えるでしょう。論文執筆にいたっては5秒で片付く。こんなヤツに人間は敵いっこないですよ。どれだけ賢くても勝てません。どれほどの体力バカでも、毎日・24時間、全速力では働けない。人間が一日の終わりに力尽きる一方、彼らは何千もの実験を完了させています。
AIロボットは、人間と比べ、研究速度が数万倍速です。ロボット一台で大学ひとつ分の研究知見を産出する可能性も。「そんなの、あり得ない」と思うじゃないですか。分かりませんよ。10~20年後、本当にそうなっているかもしれません。
信じられないと感じたそこの貴方。まずはChatGPTへ月20ドル課金しましょう。試しにDeep Researchやo3モデルをいじってみてください。信じられないほどレベルの高いレポートを作ってくれます。彼らは、ただ従来の知識を能弁に語るだけではありません。既存の知見をベースに、彼らなりの新説を述べるレベルに達しているのです。まるで画面越しに人間と話しているみたい。ChatGPTを触ってみれば、きっと恐ろしくなってくるはず。
学術AIロボットが登場すれば、人の出る幕はほとんどなくなります。研究を立案するのも、進めるのも、全部AIが担うのですから。もしその時代に博士学生時代の私が居たら、間違いなく淘汰されていました。実験もシミュレーションもAIロボットがやる。私の仕事はない。当然、論文も書けない。学位だって取れない。その頃、学位に価値はなくなっているでしょう。博士号が本当に「足裏の米粒」になっているのです。困りますね。あれだけ苦労して取った学位の価値が棄損されてしまうだなんて。
AIロボット時代に生き残る研究者は、誰か。研究対象が「人間」の方ぐらいではないでしょうか。
人間は非合理的な生き物です。客観的に妥当ではない選択を下す場面が頻繁にあります。AIは、人間の非合理性を理解できるでしょうか。人間の気分や気まぐれをふまえた上で研究を進められるでしょうか。なかなか難しいのではないか、というのが所見。人間の不合理性は人間にしか理解できません。最後に生き残るのは、人間研究者。仮にAIが不合理性すら分かるようになったら? その時こそ、この世界から「研究者」という職業が消滅するときでしょう。
研究者の仕事は「ストーリー」を語ることだけ
人間の力を超越するAIロボットの登場は学術界を揺るがします。AIロボットを嫌がる研究者が団結して抵抗を試みるでしょう。全能の神には勝てません。一人、また一人と淘汰されていく運命です。やがて、全研究者がAIの持つ圧倒的パワーを前に平伏します。研究者は、研究させてもらえません。研究するのはAIロボットですから。
研究者の役割は完全に奪われるのか。存在意義を失ってしまうのか。私は「否」と答えたい。一応、自分も博士号を持っています。研究者の端くれとして、この世界で声高に存在意義を主張したいのです。
研究者には、ひとつだけ仕事が残されます。それは、「ストーリー」を語ることです。我々人類がどこから来たか。今、どこに居て、これからどこへ向かおうとしているのか。大衆に希望を抱いてもらえるように。科学の先に、まだ見ぬ未来を想像してもらえるように。各々が諸分野の研究で培った世界観をもとに、研究者一人一人が独自の物語を編んでいくべきなのです。
たとえ実験やシミュレーションがすべてAIの手に落ちようとも、人間にしか語れない物語がきっとあるはずです。研究成果を、単なるデータや事実の羅列に終わらせないこと。そこに血を通わせ、未来へ続く意味を与えること。無味乾燥な数値の向こう側に、どれだけ豊かな物語を描けるか。それが、これからの研究者に求められる最後の役割なのかもしれません。
データを超えて、問いを、物語を紡ぐ。意味を編む。未来を照らす。AIにはできない、人間だけに許された営みがきっとあります。科学の先にある「希望と夢の物語」を継承するのです。研究者は、少なくとも自分だけは、ストーリーを語り続ける存在でありたい。たとえ世界がどれほど変わろうとも、物語を紡ぐ火を絶やさぬ者でありたい。私は、心からそう願っています。
最後に
未来は、静かに形を変えつつあります。AGIやASIの到来は、科学技術の進歩を超えた、人類の知と営み、存在意義そのものを問い直す始まりです。
思考実験を通じて見えてきました。実験や理論構築、論文執筆といった行為は、もはや人間だけの営みではありません。数十年後、もっとも優れた「研究者」が、人間以外の存在である未来も想定に入れるべきでしょう。拒絶しても未来は訪れます。AIロボットの登場は絵空事では済まされません。
それでも、人間にしか果たせない営みは残されているのではないでしょうか。人類は、単なる知識の集積者ではありません。問いを立て、物語を紡ぎ、未来へ意味を橋渡しする存在です。科学に血を通わせ、知に光を宿し、希望を継ぐ営み。AIがどれほど進化しようとも、物語を編み、未来に祈りを込める営みだけは人間にしかできません。
科学の火を絶やしたくない。意味を見失わず、未来へ橋を架け続ける者でありたい。誰よりも静かに、誰よりも強く、ストーリーを語り続ける者でありたい。アカデミアの世界から離れはしました。研究の現場を離れても、問いを立て、希望を語り継ぐ営みをやめるつもりはありません。これからは、一人の思想家としてこの世界へ希望を届けられるよう、札幌デンドライトで日々文章を紡いでいきます。



















コメント