北大と国研で研究している化学系大学院生かめ (D2) です。B4の後輩 (Jくん (仮)) から研究のことで泣きついてきた際、ふと真理を悟ったような感を得られ、その感覚を忘れないよう言語化すべく記事を書いています。
Jくんは当座の実験方針を決められずに困っていました。何をどう実験したらいいか分からず、思い付くがまま色々条件を変えて大量にデータを取っていたのです。時間を割いてカウンセリングしてみた結果、そもそも研究目的すら持っていなかったのが分かりました。何の目的もなく実験し続け、得られたデータをうまく取りまとめれば卒論になるだろう…と目論んでいた。しかもJくんは私と同じく、出張先の国研でしかデータを得られません。三週間の出張期間のうち、すでにもう二週間が過ぎていました。事態はかなり恐ろしい状況です。データ取得可能期間があと一週間しかないのに、まともな成果を何ら得られていない。
Jくんの抱える問題を解決するのはカンタン。いま行うべき実験を指示し、がむしゃらに手と体を動かしてもらうだけで構いません。Jくんの進捗報告資料をパッと眺めただけで卒論完成に必要な実験計画は立ちました。しかし、その計画をソックリそのままJくんへ渡しても彼のためにはならないでしょう。仮に卒論発表はしのげたとしても、修士課程へと進学した瞬間にまた実験方針で困るはず。研究遂行にあたって不可欠な思考回路をインストールしてあげなければなりません。本来、こういう仕事を行うのが指導教員の仕事。放置プレーを主戦法とする先生に後輩の指導は期待できません。
この記事では、私からJくんへ伝えた実験方針で迷ったとき事態打開のため必ずやるべきことを解説します。何を実験すればいいか分からない方へピッタリな内容なので、ぜひ最後までご覧ください。なお、当記事では「研究方針」と「実験方針」の二つをあえて区別して記しています。各語彙の定義はのちのち説明予定。読み進めていただければお判りになります。
それでは早速始めましょう!
我々ははなぜ研究をしているのだろう
皆さんは何のために研究をしていますか?学位取得のため?就職のため?それとも知的好奇心充足のため?研究へ取り掛かる理由は何でも構いません。たとえ如何なる欲に基づいていようとも、前向きな理由であれば何でもOKです。
では、質問を少し変えてみましょう。皆さんはなぜ「その」研究をしていますか?各分野の中には魅力的な研究対象が数多存在するでしょう。その中から「それ」を選んだ理由はなんですか?その研究を進めてどのような社会を作りたいですか?この世界をどのように変え、どのような世界を次世代へ残したいですか?あなたが定める研究の最終目的地はいったいどこですか?
すべての実験目的は、源流をたどっていくと研究理念へと帰着する
私が上で皆さんへ問いかけたのは【研究理念】。どのような価値観に基づいて研究を進めているかをお尋ねしたのです。この質問にパッと答えられる学生はごく少数。大半の学生はこんな根本的なことなど一度も考えた経験がないでしょう。そりゃそうです。ゼミや学会で研究理念を尋ねてくる人などいないからです。研究内容のことは詳しく聴かれるかもしれないけれども、研究活動を下支えしてくれる理念についてまで深掘りする人はほとんどいません。
存在価値の忘れられがちな研究理念。実は、研究を進めるにあたってものすごく大切になってくるのです。
我々が行うありとあらゆる実験は、必ず何かしらの目的を持って行われます。私の属する工学分野の場合、何か解決したい社会課題があるから実験を行うのです。では、なぜその社会課題の解決が必要なのか?その問題を解決すれば、きっとより良い未来が待っているであろうと推測されるから。頑張ってもう一個深掘りしてみましょう。なぜその未来を作りたいのか。私の場合、自分の胸中へは理想とする社会の全体像があります。それを現実世界で実現したいと思うから、その社会はきっと他の人間にとっても素晴らしい世界だと確信しているからこれまで研究を進めてきました。
すべての実験目的は、源流をたどっていくと研究理念に帰着します。小さな水源から国際河川が形成されるように、ありとあらゆる実験目的は研究理念を起点に生成されていくものなのです。
実験方針は迷うこともある。研究方針は基本的に迷うことがない
実験方針とは、一つの論文を完成させるために必要な実験をどのような手順で行うかを示すもの。実験セルに電気を印加して~とか、電子顕微鏡で観察して~、とかいった些細なものは全て実験方針。研究方針とは、自分の研究理念を叶えるために進むべき方向を指し示すもの。研究方針は、実験方針よりもスケールの遥かに大きな矢印。研究方針を細分化していけば実験方針になります。実験方針の集合体が研究方針。
実験目的のDNAは、各々の研究理念の中に秘められているのです。研究理念が無限小にまで細胞分裂し、目に見える形で生み出されたのが実験目的だから。実験目的を達成するために行うべき実験を示すのが実験方針。実験方針の方針を定めるのが研究方針。研究方針は研究理念に基づき自ずと決まるもの。そう、全ては研究理念から始まるのです。
研究理念さえあれば研究方針が決まる。研究方針が決まれば実験方針が固まる。実験方針が分かれば実験できる。そうして実験目的が達成される。実験目標の達成は社会課題の解決に繋がる。課題の解決はより良い未来へ、やがては自分の理想とする社会の実現に結びつく…
実験方針はたまに迷うこともあるでしょう。どのようなデータが必要かが分かっていようとも、どのようにデータを取ればいいのか分からない場合があるからです。逆に、研究方針は基本的に迷うことがありません。なぜなら、研究方針は研究理念に基づき決定されるものだからです。研究理念さえしっかりと固まっていれば、どのような方向へ研究を進ませるべきか一切迷いません。実現したい社会の全体像を脳内で明確に描けている限り、理想社会形成のために自分が行うべき研究はひとりでに見えてくるものなのです。
まだ研究理念を持っていない人はじっくりと考えてみよう
実験方針でお困りの方は、以下2つの可能性が考えられます⇩
- 専門知識の欠如
- 研究理念の不確立
前者なら、専門書や論文をたくさん読み込み、いっぱい勉強するうちに解決するでしょう。ゼミの用意や指導教員らとの議論を通じて実戦的な知識が得られます。後者の場合、時間をかけてゆっくりと考えていかねばどうしようもありません。研究理念はスケールが大きい。宇宙全体をまるっと呑み込んでしまうほど壮大なもの。一日や二日では到底構築し切られません。何ヶ月も、あるいは一年以上をも費やし、じっくりと醸成してようやくソレらしいものが出来上がります。
研究理念は、これまでの人生で培われてきた価値観やアイデンティティーと密接な関係を持ちます。研究理念は人それぞれ。何を大切にし、何へ重きを置くかによって十人十色の極彩色に。正解も不正解もありません。自分にしっくりくる理念を見つけられたら満点。研究理念を築き上げるには、まず自分自身のことをよく知らねばなりません。研究の息抜きに自己分析へチャレンジし、研究理念確立の端緒をお掴みになってください。
研究理念を持っていない方は、今すぐにでも考え始めるのをオススメします。理念さえあれば実験に迷いが生じません。長くて過酷な大学院生活も、その先の研究者生活も乗り越えていけるでしょう
まとめ
すべての実験目的は、必ず研究理念へと帰着します。研究理念が確立されれば、おのずと研究方針は定まってくるでしょう。確かに、研究理念は一朝一夕には構築できません。しかし、これを持つことで長期的な研究活動の指針が得られ、日々の実験の方向性も明確になります。研究活動の根幹には研究理念があります。これは研究者の価値観やアイデンティティと密接に結びついています。実験方針で迷ったときは、研究理念の不確立が原因かもしれません。今後の順風満帆な研究活動のため、じっくりと時間をかけて理念を培ってください。
コメント