実験とシミュレーションを両方できるようになるメリット

北大と国研で研究している化学系大学院生かめ (D2)です。B4からM2までは実験マシーンとしてデータを爆速で取り続けてきましたが、D1からは研究に理論計算を取り入れシミュレーションも扱えるように。

この記事では、実験バカの自分がシミュレーションをもできるようになった結果について解説します。

  • 実験一辺倒な研究に限界を感じつつある方
  • 実験&シミュレーションの両刀使いを目指している方

こうした方々にピッタリな内容なので是非最後までご覧ください。

かめ

それでは早速始めましょう!

目次

実験値が妥当なものなのか否か、揺るぎない証拠とともに提示できるように

実験マシーンだった自分はこれまで、実験で得られた値の妥当性を己の体力で確かめてきました。一種類の実験を数十回、時には百回以上も繰り返し実施して傾向を調べ、そのデータ数を根拠に”正当ですよ”と論文内や指導教員へ説明してきたのです。私の実験は、実験セルの特性上、いつも少しバラバラなデータが得られてしまいます。『如何なる根拠でもって”その”データを妥当とするか』の判断がすごく難しい。理論計算など知らない脳筋100%のM2までの私は、何十個もあるデータの中央値でもって妥当なデータと定めてきました。データの散らかり具合が良い感じに正規分布してくれるため、中央値を取れば妥当なデータとしても問題ないというわけです。

しかしこの方法で妥当性を検証するにはめちゃくちゃ体力が必要となります。朝から晩まで来る日も来る日も実験し続けなきゃ終わりません。今後歳を重ねるにつれどんどん体力がなくなっていく。同じ方法で妥当性を担保するには流石に限界がありました。それに加え、抽出した中央値の妥当性に関して、説得力のある説明を行えません。ひょっとすると外れ値として除外したものの方が”妥当”なデータな可能性もあるでしょう。

実験値の理論計算ができるようになったおかげで上記2つの懸念を拭い去えました。アホみたいに実験せずとも理論値に近しい傾向が見られたらその時点で”妥当だ”と結論付けられるように。実験量の大幅な削減と体力の温存に成功しました。おかげで余裕が生じ、他の種類の実験を次々と積み重ねられるようにもなりました。。また、実験値と理論値を同時に提示できるようになったおかげで実験値の確からしさが格段に上昇。だって”理論”値ですからね。ゆるぎない値と測定で得られた値が近けりゃ”妥当”と見ても構わないでしょう。

実験で生じる様々な現象の『根本原理』を理解できた

お恥ずかしながら、私は論文に載せられるような詳しいシミュレーションを行うまで、実験で生じる現象の根本原理を理解していませんでした。原理を理解せずとも理解している”風”に繕って根本の理解から逃げてきたのです。

これまではすべて理解したつもりで偉そうにふんぞり返っていた。しかし、いざ理論計算にチャレンジしたとき、「この公式ってどういう意味だ…?」とパタリと手が止まってしまったのです。そこでようやく自分の無理解に気付かされました。研究を始めてから4年目になってこんな致命的なミスに思い至るとは。

シミュレーションでは、複雑な式をゴチャゴチャいじって実験の諸現象を再現します。ただテキトーにいじるだけではダメ。理論式の深い理解は大前提。初期条件・境界条件を何度も微修正してようやく現象の再現へと至ります。つまり現象の本質を分かっていないと理論計算は不可能なのです。根本原理をおさえてようやくシミュレーションを使いこなせるわけです。

現象の根本原理に精通すれば論文の書き方が変わります。分かった風に取り繕う定性的なフンワリとした文章を書かずに済み、より具体的・定量的な表現でもってカッチリとした文章を書けるのです。論文の編集者や査読者からも (あ、コイツはちゃんと分かっているな)と認めてもらえる可能性が高まる。論文のアクセプト率を高める一助に自ずとなってくるわけです。また、学会での質疑応答を極度に怖がらずとも済む。幹となる本質さえ押さえておけば枝葉の質問へ楽に対処可能。必ず覚えておかなきゃならない事項って案外少ないものなのです。枝葉の対策にあくせくする前にまずは本質の理解に集中せねばなりませんでした。

実験→理論に加え、理論→実験の順にも研究を組み立てられるように

これまでは①実験をやり、②測定値の妥当性を検証するためシミュレーションを行うという順で研究を組み立ててきました。実験が基軸。理論計算はその補助。理論計算をやっていくうちに理論式で遊んでみたくなりました。極端な条件を設定してシミュレーションを行ってみたのです。すると通常の設定値では見られない変な理論値が算出されました。ソレがあまりに面白くって次から次へと計算を実施。

何日も何日も理論式で遊びまくっていたら、ふと

かめ

この条件で実験をやったら果たしてどうなるのだろうか…?

と気になって体中がムズムズしてきました。これまでは実験に着想を得て理論計算を行ってきたけれども、今回はその真逆。理論計算に着想を得て実験をやってみたくなったのです。実験者の眼と計算者の眼の両方を手に入れた結果、研究構想力が一気に倍まで跳ね上がりました。ある観点からはできそうな実験がもう残されていないように見えたとしても、別角度から眺めれば至る所に実験のタネがあったわけです。大学の先生方が次々と研究を展開していけるのにはこんな秘密があったのです。私は実験者としても計算者としても幼稚園児レベル。両方ともさらに経験値を蓄積すれば視野が広くなって楽しくなるのだろうなと感じました。

【おまけ】論文のビッグジャーナルへの投稿を視野に入れられるように

海外のビッグジャーナルから出された論文を最近よく読んでいます。実験だけ、シミュレーションだけといったケースは非常に稀なようです。ビッグジャーナルにアクセプトされる論文は実験とシミュレーションのコンビネーションで研究のインパクトを引き上げています。実験だけ切り取ってみてもかなりすごいことをやっている。そんな最先端な機器で得られたデータに理論計算の強力な裏付けがある。どこからも文句の付けられない完璧な研究に仕上がるわけです。

もし実験と計算を両方とも扱えたら、ビッグジャーナルへのアクセプトが見えてくるでしょう。研究者志望の方はぜひ両方の習得に挑戦してみて下さい。

最後に

実験バカの自分が理論計算をもできるようになった結果は以上です。まとめると、

  1. 測定値の妥当性を理論値で裏付けられるように。実験量の低減と体力の大幅な節約に成功した
  2. 実験で生じる諸現象の”そもそもの原理”を理解できた。本質をつかみ、論文の書き方をガラリと変えられるように
  3. 実験ドリブンな研究に加え、計算ドリブンな研究もできるように。視野が一気に倍まで広がり研究がますます楽しくなった

このような形になります。

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