【英国留学体験記】週刊オックスフォード総集編|希望で胸を膨らませた北大博士留学生が夢破れて帰国するまでの一部始終

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決別、そして再生へ

オックスフォードを彷徨っていたある日、喜多川泰さんの『運転者』という一冊の本が、私の思考を根底から覆した。本当のプラス思考とは、起きてしまった不運を無理やり肯定することではない。「何が起きてもプラスに変えてやる」と、自ら運命の舵を取る能動的な姿勢のことだ。それは、受動的に状況を受け入れるのではない。主体的に現実を解釈し直す力のこと。この言葉が、私の心に深く突き刺さった。私も現状をプラス思考で捉えてみよう。

オックスフォードで研究を進展させられるなどと期待しない。期待するから裏切られ、傷つく。ならば、初めから何も期待しなければいい。自分の心をこれ以上すり減らさないための防衛策をとる。この諦観は、不思議と心を軽くした。もう何も怖いものはなかった。

留学先での窮状について、大学の指導教員とオンラインで相談した。「もう無理そうなら帰ってきてもいい。逃げだとは思わない」と言っていただいた。先生の一言で気分が晴れた。いつの間にか自分で塞いでいた道が、音を立てて拓けた。そうだ。私には「帰国」という選択肢があった。自分自身で自らの可能性を無意識のうちに封じ込めていただけだった。

途中で投げ出すのは恥ではないか。私の内なる武士道が叫ぶ。しかし、ここで耐え続ける意味が無い。ただ傷口を広げるだけの自傷行為に他ならない。払った学費。費やした時間。膨大なサンクコストを前に心は揺れた。だが、私は心を決めた。このまま朽ち果てることこそが真の恥辱であると。

12月29日、オックスフォードを離れる。それは、怒りにも似た、熱く燃え上がるようなエネルギーだった。失われた時間を取り戻すかのように、私の内側で何かが激しく脈打ち始めた。

【終章】打倒・オックスフォード

不本意な形で、私の留学は幕を閉じた。結局、実験ノートは白紙のまま。期待していた学術的な成果は何一つ得られなかった。費やした準備と多額の資金がただの藻屑と化した。その事実は、帰国する飛行機の中で空虚な手帳を眺めるたびに私を打ちのめした。

悔しい。腸が煮えくり返るほどに。そして、どうしようもなく虚しい。こんな結末のために私は犠牲を払ってきたのか。寝食を忘れ、友人との時間も断ち、ただひたすらに研究と貯蓄に明け暮れた。あの努力は、一体何だったのか。報われることのない努力に意味はあったのか。報われないなら頑張らなければよかった。答えの出ない問いが頭の中をぐるぐると回り続ける。

感傷に浸っている暇はない。私はオックスフォードを許さない。決して忘れやしない。彼らが私から奪ったのは、純粋に何かを信じる心そのものだった。私の純粋な憧れを土足で踏みにじった。希望を嘲笑い、絶望の淵に突き落とした。オックスフォードで起こったすべてを、死ぬまで記憶に刻み続けるだろう。燃えるような屈辱こそが、私が灰燼の中から掴み取った、唯一にして黄金の収穫だ。

これからの私の旗印は一つ。「打倒・オックスフォード」。

私の戦場は、もはやオックスフォードの石畳の上にはない。世界中の研究室、学会、そして論文の中にある。研究者として、一人の人間として、彼らを見返すほどの存在になってみせる。いつの日か、「あなたの知見を学ばせてほしい」と、彼らの方から頭を下げさせる。その光景を夢想するとき、私の心には歓喜ともいえるほどの闘志がみなぎる。復讐を終える日まで歩みを止めない。歯が折れそうになるほどの屈辱を燃料に、執念だけで突っ走っていく。

オックスフォードの美しい街並みは、もう憧れの対象として私の目に映ることはない。あの歴史ある石畳の一歩一歩が、私の魂に刻み込まれた恥辱の記憶を呼び覚ますだろう。そして、痛みと怒りの記憶こそが、私を未来へと駆り立てる、最強にして最高の動力となるだろう。美しい街よ、さらば。君は私の挫折の記念碑であり、そして再生の揺りかごとなった。

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