ニンニク襲来
年末年始の十連休が明け、とうとう出勤日がやってきた。わざわざ律儀に来なくてもいいのに、ちゃんと6日に「おい、仕事だぞ」と言ってきやがった。
もう6日になってしまったのか。まだ3日ぐらいかと思っていた。2日と3日が箱根駅伝の日ならば、一生、箱根駅伝をやっておいてほしい。選手にはホント申し訳ないと思う。いや、別にちっとも申し訳ないとは思っていないんだけれども、ずっと箱根をやっていてくれたら、ずっと正月のままでいられる気がする。
忘却曲線を発見したエビングハウスはTwitterにて「労働者の労働意欲は2の休暇日数乗に反比例する」と述べた。土日の二連休を経れば1/2^2 (=1/4) に、三連休だと1/2^3 (=1/8) となる。これは私の感覚とも一致している。実際、休めば休むほど、休暇明けに頑張る気が失せる。一日休むだけでも1/2になるのに、まして十連休ともなれば、勤労意欲は1/2^10まで低下する。
十連休が始まる前は「やったー、十連休だ!!!」と発狂していた。耐えがたきを耐え、忍びがたきをしのび、ようやく手にした長期連休。骨休めどころか、脳髄まで休めてやる。ついでに心臓も休ませてやろう。それだと死ぬから、勘弁しておく。
いざ十連休を終えてみれば、長く休んだのを心から後悔した。通勤リュックを背負いたくない。もはや重すぎて背負えない。社給PCの電源ボタンを押したくもない。そもそもクビに社員証をぶら下げたくない。Teamsチャットで「業務開始します」と打ちたくない。ちょっと、本当にどうなっているのだろうか。労働意欲が微塵もわかなくて困る。
会社員界隈には『サザエさんシンドローム』なる用語がある。長く会社に勤めていると高確率で発症する生活習慣病のことだ。サザエさんシンドロームを患ったが最後、どうも サザエさん のことを愛してやまなくなってしまうらしい。寝入るときはもちろん、勉強中や通勤中でも、サザエさんのエンディングソングが脳内をヘビーローテーションする。
このあいだ、広島市内を徘徊していたら、大型テレビジョンに一期生のAKBメンバーが再結集してヘビロテを踊る映像が流れた。マジか、と思った。どうしてあの人たちは、あんな歳になっても(失礼)まだ全盛期と同じルックスを保っているのか。かつての推しだった大島優子さんは、15年以上前からちっとも変わっていない。私が博士課程で顔年齢を20歳重ねたあいだ、芸能界の最前線で戦っていた彼女はむしろ若返っている。乗馬クラブの美魔女なんかよりよっぽど綺麗なのではないか(失礼)。あと、つくづく思うんだけれども、サザエさんなんかより大島優子さんの方が何百倍もいいだろう。
・・・・・・・
会社に行きたくない自分から魂が抜け出て、抜け殻の身体を引きずってJR駅まで向かわせた。魂を身体に戻し、列車へ乗り込む。車内でアニマル浜口の動画を見て気合いを入れるも、どうにも気持ちが入らない。
現実逃避にネコ動画を眺めた。困った時はネコの手も借りたい。ネコを見ているうちに口角が30度上がり、何だかもう全部どうでもよくなってきた。真面目に仕事しようとするから辛くなる。最低限の出力で そつなく こなせば、力を使いすぎることは無い。愛くるしいネコに薫陶を受け、前向きで朗らかな気持ちで会社の通用門を通ることができた。
オフィスでぽんぽこりんの業務を進めていく。肩に力が入りかけたら、大島優子さんの顔をしたネコ(怖い)を思い浮かべて脱力する。落ち着け、落ち着け。サラリーマン生活は100m走じゃないんだ。ゴールが見えないウルトラマラソンなのだ。勢い余って突っ走るな。淡々息切れしないペースで刻んでいこう。仕事を進めていくうちに前向きになってきて、エビングハウスの勤労意欲曲線が少しずつ上昇してきた。
途中、先輩に呼び出され、作業のお手伝いで研究所へ向かった。ラボでも ぽんぽこりん の業務をしながら、休憩のたびに雑談を交わす。仕事の話をしていたはずが、何かの拍子にニンニクの話になった。
ニンニクは臭いけれども、食べると元気が湧き出る。腹を下す代償として底知れぬパワーを出せる。聞けば、ニンニクを食べない人は、競馬をやらぬ人と同じぐらい損しているらしい。そうなのか~、競馬ってニンニクだったのか。だから馬券を買うとき、あんなにもアドレナリンが出るのか。馬券を外した瞬間、眉間にシワがギューッと寄るのもそのせいだったのか。
乗馬を十年やっていても競馬がニンニクだとは気づかなかった。さすがは先輩、何でもご存じだ。勉強になります。
先輩はよくペペロンチーノを作るのだそう。パスタは水と油で構成されているが、そこに大粒のニンニクを投下することで、食材に魔法がかかるのだとか、かからないのだとか。ハリー・ポッターで喩えたらクルーシオだという。食べたが最後、腹を激しく下してトイレから出られなる。アカンやないか。運よく秘密の部屋から出られても、口が臭すぎて翌日は会社に行けなくなる。
先輩はペペロンチーノ一皿にニンニクを一個お使いになる。自分で自分に杖先を向けて磔の呪文を放つ魔法使いは先輩ぐらいだろう。どうしてそんな辛い思いをしてまでニンニクをお召し上がりになるのか。先輩に尋ねたところ、会社に行く気持ちを高めるためにニンニクの手を借りているのだとか。そうか、先輩も会社に行くのがしんどいんだな。行くか行かないか、検討に検討を重ね、検討を加速し、最後のひと押しにニンニクの力を借りているのだ。
私も先輩を見習おうと思う。先輩のマネをすることで、先輩と同じぐらい仕事ができるようになるはず。
コメント