北海道大学に入学したみなさん、おめでとうございます。これから4年間、あるいは6年間、もしかすると気づいたら博士課程で9年目なんて方もいるかもしれませんが、とにかく北大での日々が始まります。
せっかく北大に来たのだから、北大でしか味わえない読書体験をしてほしいと思い、この記事を書きました。北大にゆかりのある本、北海道を深く知るための本、そして大学生として読んでおくべき本を7冊選んでいます。全部読めとは言いませんが、一冊でも手に取ってもらえたら幸いです。
ちなみに、今回紹介する7冊は、すべて北大の図書館で借りることができます。お金をかけずに読めるので、気になった本があれば、まず図書館で探してみてください。
かめそれでは早速始めましょう!
七帝柔道記(増田俊也)
1冊目からいきなり、北大を舞台にした本です。著者の増田俊也さんが北大柔道部で過ごした日々を描いた自伝的小説で、旧七帝大の柔道部だけに受け継がれてきた寝技中心の柔道がテーマになっています。
実は私も、受験生時代に七帝柔道記を読みました。こんな情熱的なキャンパスライフもあるのかと胸を熱くしたものです。ところが入学後、武道場を出入りする柔道部の先輩たちを見て即座に悟りました。あまりにデカすぎる。自分が入る場所ではないと。本で読む分には最高に面白いのですが、現実の柔道部員は迫力が違いました。
北大生が七帝柔道記を読むべき一番の理由は、自分が毎日通っているキャンパスがそのまま物語の舞台になっていることです。小説に出てくる場所を実際に歩ける贅沢は、北大に在籍している今しか味わえません。
気に入った方は、同じ著者の「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」もぜひ。日本柔道史の闇に切り込んだノンフィクションの傑作です。
札幌学(岩中祥史)
北大で4年以上過ごすなら、札幌で4年以上暮らすことにもなります。せっかくなら、自分が住んでいる街のことをもっと知ってみませんか。
札幌学は、札幌の街の成り立ちや文化、風土をコンパクトにまとめた一冊です。なぜ札幌の道路はあんなに碁盤の目なのか、なぜ大通公園はあの位置にあるのかといった、住んでいると当たり前すぎて考えもしない疑問に次々と答えてくれます。道外出身の方はもちろん、道内出身の方でも新しい発見があるはずです。
私は学生時代を通して何度も札幌学を読み返しました。結果どうなったかというと、札幌が好きになりすぎて、道民の友人よりも北海道に詳しくなりました。現在は地元に戻って働いていますが、早期リタイアして札幌に移住するのが密かな夢です。一冊の本が人生の目標を作ってしまうこともあるので、気をつけてください。
札幌を超えて北海道全体の歴史にも興味が広がったら、「北海道の歴史がわかる本」(桑原真人・川上淳)がおすすめです。北海道の通史をざっと押さえるのに最適な入門書です。
塩狩峠(三浦綾子)
北海道を舞台にした小説の中でも、とりわけ多くの人に読み継がれてきた作品です。明治時代、旭川の塩狩峠で実際に起きた鉄道事故をもとに書かれた小説で、暴走した列車から乗客を救うために自らの命を投げ出した青年の生涯が描かれています。
三浦綾子さんの文章は、静かで、丁寧で、どこかに強い芯があります。物語の大半は主人公の青年が信仰と向き合いながら成長していく日々を描いていて、クライマックスの場面はわずか数ページです。けれど、長い積み重ねがあるからこそ、最後の数ページが深く刺さる構成になっています。
北海道にいる間にぜひ、塩狩峠を読んでから現地を通ってみてください。旭川から電車で30分ほどの距離です。
北海道周遊旅行で稚内の宗谷岬に向かった際、電車で塩狩を通り過ぎました。塩狩近辺は、かなり険しい地形でした。あの場所で自分の命をかけて人々を救った方がいたのだと思うと、車窓からの景色に立体感が生まれ、感慨深かったです。
三浦綾子さんの作品をもっと読みたくなったら、「氷点」をどうぞ。旭川が舞台の代表作で、原罪をテーマに北海道の風景の中で描いた長編です。
アイヌ神謡集(知里幸恵)
北海道には、和人が開拓に入るよりもはるか昔から、アイヌの人々が育んできた文化があります。北海道で4年以上暮らすのであれば、アイヌ文化の一端に触れておくことには大きな意味があるはずです。
アイヌ神謡集は、アイヌの人々が語り継いできた神謡を収めた本。フクロウやキツネといった動物が神として一人称で語っていくスタイルで、「自然のあらゆるものに魂が宿る」と考えるアイヌのアニミズム的世界観が息づいています。
アイヌ神謡集は、知里幸恵さんの遺作です。1〜2時間あれば読み切れる薄い本ですが、読み終えたあとに北海道の山や川を眺める目がふっと変わる、不思議な力を秘めた一冊です。
アイヌの文化や歴史にもっと踏み込みたくなった方には、「アイヌの碑」(萱野茂)をおすすめします。アイヌ初の国会議員となった萱野茂さんの自伝で、アイヌの人々が近現代をどう生きてきたのかを知ることができます。
また、白老町にある民族共生象徴空間・ウポポイにも足を運んでみてください。アイヌ文化を体感できる国立の施設で、札幌から特急で約1時間の距離です。本で知った世界を、自分の目と耳で確かめに行ってみてください。
武士道(新渡戸稲造)
新渡戸稲造と聞いて、五千円札の人だとすぐ思い浮かぶ方は多いと思います。ただ、新渡戸稲造が札幌農学校の卒業生であり、北大の前身にあたる学校で学んだ人物だと知っている方は、意外と少ないかもしれません。
武士道は、日本人の精神性や倫理観が分かりやすく記された本。なぜ日本人は礼節を重んじるのかとか、なぜ名誉のために命をかけるのかといった、日本人が当たり前だと思っている価値観を説明しています。読んでいくうちに、自分自身の考え方を見つめ直すきっかけにもなる一冊です。
私は博士課程のとき、イギリスへ留学する機会がありました。渡航前と留学中には特に念入りに武士道を読み込みました。おかげで、現地で日本のことを尋ねられたとき、武士道の考え方に基づいて自分の言葉で日本を語ることができたのです。
武士道は、北大から海外に出る機会がある方に、特に強くおすすめしたい一冊です。日本が誇る武士道精神を胸に秘め、世界に羽ばたいてください。
武士道が面白かった方は、新渡戸稲造と同期の内村鑑三が書いた「代表的日本人」もぜひ。西郷隆盛や二宮尊徳ら5人の日本人を英語で世界に紹介した本で、武士道とはまた違った切り口から明治の日本人の気骨に触れられます。
雪(中谷宇吉郎)
「雪は天から送られた手紙である」との一節を、どこかで聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
『雪』は、世界で初めて人工雪の製作に成功した物理学者・中谷宇吉郎さんの代表作。中谷さんは北大理学部の教授として長年研究を続けた方で、北大構内には顕彰碑が建っています。
雪の結晶はなぜあの形になるのか。中谷さんはその問いに、観察し、仮説を立て、実験で確かめるという愚直な手順で挑んでいきます。一つの問いをとことん追いかける面白さが、飾らない文章を通してまっすぐに伝わってくる本です。
札幌は豪雪地帯で、冬になると連日これでもかと雪が降ります。自分も最初は「雪なんて全部一緒だろう」と思っていました。ところが本作を読んでから雪を眺めると、サラサラと乾いたものやベチャッと湿ったものなど、雪にもちゃんと個性があることに気づくようになったのです。だからといって、冬の過酷さが和らぐわけではありませんでしたが。辛いものは、どう転んでも辛い。
中谷宇吉郎さんの思考にもっと触れたい方には、「科学の方法」をおすすめします。研究の進め方や科学的な考え方を平易な言葉で語った本で、卒論や修論に取りかかる前に読むと研究への向き合い方が変わります。
カラマーゾフの兄弟(ドストエフスキー)
最後の一冊は北大とまったく関係ありません。ロシア文学の金字塔であり、大学生が読むべき本のリストには必ずと言っていいほど名前が挙がる、ドストエフスキーの代表作です。
カラマーゾフの兄弟は、父親殺しの疑惑をめぐって三兄弟の運命が交錯する物語で、信仰、理性、本能、自由意志といった人間存在の根本的な問いがこれでもかと詰め込まれています。正直に言うと、長いです。気軽にとは到底言えない分量です。読んでいるうちに気絶したくなるでしょう。
でも、比較的時間に余裕のある大学生活の間に読んでおかないと、社会人になってからはまず手に取れません。大人になると忙しくて本を読む時間がないし、第一、目が悪くて小さい文字が見えなくなるのです。
カラマーゾフを読み終えたとき、自分の中の何かが変わったと感じる方は多いと思います。何がどう変わるかは人によって違いますが、読む前の自分には戻れない、と思わせるだけの力がある小説です。
私は修士課程のときにカラマーゾフを読みました。読み終えてから、人間観察の解像度が二段階ほど上がった感覚がありました。世の中には自分の想像もできない考え方をする人がいて、善悪も正義も一筋縄ではいかない。カラマーゾフを読んでしまうと、もう普通の小説では満足できなくなります。
劇薬みたいな本ですが、大学生のうちに浴びておく価値はあります。北大生であるうちにぜひ。
カラマーゾフを読破できた方なら、「罪と罰」も十分いけます。むしろカラマーゾフより短いので、先に罪と罰から入ってもいいかもしれません。ドストエフスキーの沼は深いですから、大学生のうちに浸かっておきましょう。
最後に
以上、北大生が在学中に読んでおくべき本を7冊紹介しました。
繰り返しになりますが、全部読む必要はありません。ただ、北大に通っている今だからこそ響く本が、7冊の中にきっと1冊はあるはずです。最初に記しましたが、今回ご紹介した本はすべて北大の図書館で借りられるので、まずは気になったものから手に取ってみてください。

















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