いぼの音
むか~しむかし、何億年も昔、おじいさんとおばさんが暮らしていた。おじいさんは山へ洗濯に行き、と見せかけて洗濯ものを抱えてキャバクラに行き、おばさんは川へ洗濯に行き、と見せかけてコチラもウィンドサーフィンに出かけた。双方洗濯をしなかったものだから、洗濯物がたまりにたまって、部屋中にあふれかえってしまった。
数週間もの睨み合いのすえ、屋根の下でディベート大会が勃発した。おじいさんは「山で洗濯なんかできるかボケ」と顔を真っ赤にした。おばさんは「だったら一緒に川へ行ってくれ」とブチぎれた。どっからどう見てもおじいさん側の分が悪いように思えるが、おじいさんにもおじいさんなりにプライドがあるらしく、苦しいながらになかなか頑張っている。頑張れ。
議論は一昼夜を通して行われた。双方ヒートアップしたちょうどその時、上流からどんぶらこ、どんぶらことコロンブスの卵が流れてきた。その色は諸説あって、おじいさん側は桃色クローバーZだったと証言し、おばさん側はSM∀Pだったと言い残している。
ま、そんなのはどっちでも構わないのだけれども、卵を視界にとらえた瞬間、おじいさんのアタマに天啓が降ってきた。ああ、洗濯機を買えばいいのではないだろうか。同時におばさんにも天啓が降ってきた。乾燥機を買えば干さずに済むのではないだろうか。おじいさんとおばさんは互いに見つめ合い、内なる欲望が悪魔合体した。その結果、この世の中にドラム型洗濯機なるものが誕生した。
初代ドラム型洗濯機は三内丸山遺跡から発掘され、縄文土器として日本史教科書に載せられている。ドラム型洗濯機は年次改良され、いまやパナソニックや日立が電駆ベースの便利家電として商売に用いている。
これが、かの有名な七夕伝説のあらましである。
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服を洗うのはしごく面倒臭い。服にTiO2系光触媒をつけられないかと何度思ったか分からない。
とはいえ服を洗わなければ臭い。臭い臭いも好きのうちと言うけれども、臭いものはどうやったって臭い。では、どちらの臭いなら許せるのか。面倒臭い方の臭いか、ただ臭い方の臭いか。そもそも、ちゃんとした服を着るからいけないのであって、服なんか着なければいいのではないか。
皆さんは織姫と彦星をご存じだろうか。毎年七夕の夜に夜空界隈を賑わせており、華金カップルの元祖と言われている。織姫の名はベガといい、彦星側はアルタイルとおっしゃる。
宇宙規模の遠距離恋愛は何億年も続き、その過程でドラム型洗濯機を始め、ロータリーエンジンや全自動寿司握り機など数多の発明物が地球にもたらされた。これだけ長く付き合ってもまだ籍を入れていないらしく、彦星側もさすがに「今のままではいけないと思っている。だからこそ、今のままではいけないと思っている」と考え始めたそうな。
一年や二年の付き合いならまだしも、億年単位で付き合うとなれば、さすがに関係がマンネリ化する。たまには7/7以外にも会ってみればいいのに。オリオンがサソリに追いかけられている間、ゴールドコーストあたりで会えば見つからないだろう。両者とも週刊誌記者を警戒しているらしく、堂々と会える日にしか会わないと決めている。えらい。
織姫と彦星の密会は、白鳥座のデネブが仲介する。デネブは基本的に中立の立場だが、たま~に賄賂を貰うことがあり、その時に限って片方の肩を持つ。2021年は、彦星側からアムステルダム産のゾンビタバコが差しだされた。それがものすごく気持ち良かったらしく、白鳥は「また吸わせてくれ」と懇願した。もちろんタダで吸わせてやるわけにはいかないから、毎年彦星側の肩を持つ約束を取り付け、無制限ゾンビタバコ交換ぽんぽこりん条約を締結した。
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本当に唐突で申し訳ないが、急に素麵が食べたくなった。もうちょっとスムーズに話をつないだらどうなのかと思うが、でもやっぱり素麺を食べたくなった。
夏といえばカルピスで、カルピスといえば白く、白いといったらコンクリートで、コンクリートは硬く、硬いといったら枕で、枕はやっぱり柔らかく、春はあけぼの・夏は夜、夜の夏といったら素麺だなぁと思った。白い恋人と素麺のどちらにしようか、何夜も検討に検討を重ねた。しまいには素麺のことなんか忘れてニッカウィスキーをがぶ飲みしていた。検討加速の結果、心の中のリトルドラム型洗濯機が「やっぱそうめんっしょ!」と叫んだ。
素麺とは何か。大阪道頓堀で日々議論が交わされている。素麺とはあまりに多義的な存在のため、カレーライスの器抜きとか、食パンまん以上ウルトラマン未満とか、顎を削りすぎて三菱鉛筆にスポンサー契約を申し込まれた港区女子とか言われている。
夏といえば、素麺である。春までパンを食べていた人でも、夏になったら素麺に切り替える。日本人は素麺が大好きなので、毎食素麺を食べてしまう。朝、慌ただしくて忙しいときは素麺にバターを塗ってトーストする。学校では、素麺でスクランブルエッグを挟んだ素麺サンドが売られている。
素麺にも食べ方は様々ある。一般的には乾麺を口の中でふやかすスタイルが知られている。茹でて麺つゆにつけて味わう県もあるし、茹でて茹でて茹でまくって溶かしてスープとして嗜む地域もある。中には、竹を割ってピタゴラスイッチを組んで水と一緒にそうめんを流し、あー、素麺が流れているなぁ、今年の素麺はほんと綺麗だなぁと眺めて済ませる家もある。
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勤務中から素麺が食べたくてムズムズしてきた。穴という穴から過去に食べた素麺が顔を覗かせ、もう今晩は絶対に素麺だな、髪を下ろした有村架純は可愛すぎるだろ、とか思いながらパソコンでミスタイプを繰り返した。
定時のチャイムと同時にノートパソコンを閉じ、電源を切っていなかったのと指を挟んで本当に痛くてすぐに開いた。焦りは万病のもとである。心清らかに、しっとりとした手つきで、やっぱ満島ひかりは可愛すぎるわと三度頷いて閉じた。
退勤後、指をさすりながら、ほふく前進でスーパーへ。今年はどの素麵をかじろうか。どうせならかじりごたえのあるやつがいい。とはいえ太すぎると噛めないし、わざわざ茹でなきゃいけなくなる。素麺は簡単に食べられるからいいのであって、茹でるなど考えられないって。
素麺には二大派閥がある。揖保乃糸と、揖保乃糸じゃない方である。
揖保乃糸はローランドの好物である。広島の隣の隣の兵庫で製造されていて、品質の高さは皇族も認めるところ。博士課程でイギリス留学に赴いたときも現地スーパーでIbono-itoが売られていた。麺が妙にカラフルだったけれども、ひょっとしてアレはパッチものだったのか。揖保乃糸じゃない方は様々あり、秋田ではきりたんぽ、名古屋ではきしめん、高松ではうどんと呼ばれている。
私は普通にラーメンが好きなのだが、今日はどうしても素麺を食べたい。素麺は素麺でも、素麺を食べたい。ここは揖保乃糸かなぁ。やっぱりつけ麺にしようかなぁ。こんにゃく、美味しそうだなぁ。あっちのアジフライも捨てがたいなぁ。え、マジでどれにしようか。そもそも何を買いに来たんだっけ。
一度スーパーを出て状況整理した。途端にお尻が痛くなってきた。さすってみるとコリコリする。デコピンしてみると、文明開化の音がした。いぼだ。とうとうこんなものができる歳になったか。もうあと10年ぐらい先だと思っていた。
せめてペアーズでM&Aが成約するまで待ってもらいたかった。そうかといってチョキッと切るわけにもいかないし、友達以上恋人未満の距離感を保って接していかなければならない。
いぼの方はいぼなりに私が好きらしく、座るたび激痛で「いぼ~!(*≧∀≦*)」と存在をアピールしてくる。全然可愛くないし、構ってちゃんにもほどがある。お前はもう28歳なんだぞ。こっちはまだ28歳なんだけどな。いぼなんか要らないから白血球をくれよ。
あ~、本当に素麺食べたい。間違えて十割蕎麦を買って帰ってしまった。マジで何を考えているんだ。
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