中堅メーカー開発部署・悲哀あるある10選

北大博士課程を一年飛び級で修了し、地元の民間企業へUターン就職した。入社先は業界では中堅ポジションを占めており、個性的な製品を作る企業としてユーザーからの評判が高く、自分も良い製品を作りたいなと思って選んだ。

中堅どころのメーカーに入ると、内部はなかなかファンタスティックだった。大学で研究していたときと比べて、良い意味でも悪い意味でも労働環境が変わった。

どちらかというとネガティブ寄りに変わった。希望していたのとは違う仕事を与えられ、順応を試みたものの難しく、結局一年半で退社して別業界の大手企業に転職した。この一年半は、人生で最も辛い時間だった。

この記事では、中堅メーカーの開発部署社員として経験した悲哀を10個記していく。これから中堅企業へ就職しようと考えている方は、この記事を読み「本当に中堅企業でやっていくのか」と自らに問うてから入社していただきたい。大手に行く道もあるなか、あえて中堅を選ぶ理由を確固たるものにしてもらいたいと思っている。

目次

①最大手が業界標準や規格を主導し、それに従う立場

会社の影響力は、その企業の業績規模で決まる。売上が多い会社ほど多くの企業を巻き込んで活動しているから”エラい”ということになっている。

この世の中は弱肉強食である。力こそパワーで、影響力の大きな企業が言うことが正義になる。つまり、最大手企業の作る製品が業界のスタンダードなのだ。規格をはじめ、製品の開発プロセスや製造方法まで最大手のモノが主流である。大手が右と言ったら右だし、やっぱ左かな~と動いたら、我々も左側にシフトする。

中堅企業は最大手に規模で劣る。業界初の製品を生み出す力は残されておらず、最大手の製品をベンチマークに製品開発していく。優秀な人材は大手に集まるから、中堅企業は開発力でも大手に後れを取っており、ベンチマーク試験をすればするほど「大手ってすごいなぁ」「絶対勝てんやん…」と絶望させられる。

②最大手の特許を回避しながら開発していく

最大手は時代の先を見据えて技術のタネを育てている。この先確実に使うであろう技術には手厚く投資し、役立つかどうかは分からんけれどもなんか面白そうな技術にはそこそこ投資する。

研究活動のアウトプットが論文なら、開発業務の成果は特許で出力される。まだこの世にない新技術をその企業の占有技術とし、他社が容易にマネできないよう参入障壁を築き上げるのだ。最大手企業は、製品に使われる技術を特許群として出願しており、同じような製品を作れないよう徹底的に対策を施している。

中堅企業は最大手に規模で劣り、財政的な余裕でも後れを取る。未来を見据えた技術開発などほとんど行えず、量産開発メインで仕事を進めていく。既存の技術を組み合わせて、何とか新しい製品を作れないか模索するのだ。

模索するのはいいんだけれども、製品として成立させるにあたって最大手の特許群が立ちはだかる。我々が使いたい技術を彼らが特許にしてしまっているから、何か違う方法で製品開発しなければならなくなるのだ。最大手の特許群は網目が細かく、回避するのが難儀である。彼らの特許のスキをつけないかとか、彼らが特許でカバーしていない領域はないかとか、レッドオーシャンの中でブルーオーシャンを探しながら仕事していくわけである。窮屈なこと、12時間耐久・国際線エコノミーシートのごとし。

③利益率が低く、給与は安い

どの業界もそうだと思うが、最大手企業ほど利益率が高く、企業規模が小さくなるにつれ利益率が下がっていく。利益が多いほど研究や設備に投資ができ、投資が更なる利益を生み出し、それを繰り返す。逆もしかり。

特に製造業は規模の経済がモノを言う。モノを作るなら、製造量は多ければ多いほど安く作れる。個性派学生より量産型大学生を作る方が容易いように、製品も同じようなモノなら大量生産する方が安くつく。

製造業は、技術の蓄積がモノを言う業態である。何十年も前から技術を洗練させてきて、検討には検討を、改善には改善を重ね、もう無理ですと言ってもまだカイゼンを進め、ついには限界を迎えてエクスタシーに達してもまだ先を追い求める。ドSにもほどがある。

これだけドSな業界であるため、先行者優位の法則が働く。一度優位に立った企業は、これから先も優勢なのだ。富める者はますます富み、貧しい者は小銭まで抜かれていく。

企業にとって人件費は利益を圧迫する難物である。労働者にはなるべく安い給与で働いてもらいたいと思っている。

中堅企業はバランスシートが常にカツカツである。人件費を極力まで削って企業の安定性を確保しようと試みる。当然、給与は低く、ボーナスだって大手と比べ物にならない。給与が低いと頑張る気が失せる。SNSで最大手の給与が流れてくるのを見るたび「オレらはこれだけしか貰えないのかよ」とため息をつきたくなる。

④設備投資が渋く、社内で十分な検証ができない

お金がないということは、お金がないということである。シンジローが今のままではいけないと思っていても、どうすることもできないのだ。懐の余裕のなさは、給与はもちろん、業務にも悪影響を及ぼす。

中堅企業は未来にお金を回す余裕がない。いまを生きるので精一杯の、将来計画などこれっぽっちも考えていないバンドマンみたいな様相である。いや、バンドマンはバンドマンなりに人生を楽しんでいるから、まだバンドマンの方がマシかもしれない。

では、『いま』へ潤沢に投資できているかと言ったら、そのようなこともないわけで。開発費用は削減に削減を重ね、請求額の3割以下しか認められないケースさえある。ある仕事をするのにお金が10必要なのに3しかもらえなければ、アウトプットは3、良くても5程度にとどまる。

中堅企業は、むかし導入した設備を大切に使っている。この世は諸行無常で、いかなるモノでも必ず壊れる。どれだけ大切に扱っていても、耐用年数を超えれば挙動が怪しくなり、間もなくゲームセットとなる。間髪入れずに設備更新できればいい。中堅企業にはお金に余裕がなく、使わずに済ませられる方法を考えろと言われる。

実験設備を直すより、実験を外部委託する方が安くつくため、サプライヤーさんやサプライヤーさんのサプライヤーさんに実験を依頼する。社内で十分な検証を行えず、技術ではなく書類が蓄積されていく。

⑤最大手企業より柔軟かといったら、そういうわけでもない

ここに一つのコップがある。なるべく多くの水を入れるにはどうすればいいか。最大手企業なら、もっと大きなコップを買ってくる。あるいはバケツやゴムプールを用意する。中堅企業は、最初のコップの表面張力ギリギリまで水を入れ、案の定こぼれてビシャビシャになる。

中堅企業には経営規模的に余裕がない。ただでさえ最大手に後れを取っているのに、開発で失敗していたらもっと差をつけられるから、失敗を許容する余裕がないのだ。それゆえ、なるべく堅実な手法でもって開発を進めるようになる。

一般的に、組織は小さいほど小回りが利くと思われている。確かにそういう一面もあるだろう。だが、ことメーカーに限れば違う。組織が小さければ小さいほど、過去の成功事例を踏襲しようとする。もう絶対に失敗できないから、成功するのが分かっている方法にすがりたくなるのだ。

最大手が全方位戦略でどのような時代が来ても対応できるようにしている傍らで、我々中堅社員は過去の成功を信じて、過去に成功した技術をさらに尖らせようと試みている。時代が我々に味方するケースもあれば、逆行する悲惨な場合もある。悲惨な方のくじを引いたとして、時代に適応する余力などないわけで、社会の構造変化の荒波に呑み込まれて沈没する運命にある。

⑥独自技術を求められるも、基礎研究に割ける工数がない

小さな会社は大きな会社のマネをしてもダメ。開発力も特許網も違う以上、独自の製品で勝負する必要がある。メーカー各社は個性を発揮して、その会社ならではの製品を作って、自らの生存理由を声高に主張するのだ。

独自なモノを作るにはオリジナルな技術が必要で、それを培うための資金投資が求められる。大手メーカーが「採算が取れない」と諦めたニッチな技術を、長い時間をかけて熟成させることで手の内化していく。コスパとかタコパとか言っていられない、生き残れるか否かが懸かっているのだから。

悲しいかな、中堅企業はお金に余裕がなく、ニッチ技術への資金集中が難しい。もし独自技術の先行開発プロジェクトを立ち上げようものなら、量産開発部門から「こっちにお金を回してくれ!」と訴えられる。お金に加えて人の数にも余裕がなく、独自技術を磨く基礎研究に工数を回せない。

このような悪循環の結果、中堅企業は存分に個性を発揮させられないまま製品をリリースする。大衆受けを狙って発売するも、大手企業の土俵で勝負するわけなので、明らかに分が悪い。分が悪いと分かっていても挑まねばならず、販売力やブランド力で勝てなくて、ますます劣勢に追い込まれていく。

⑦サプライヤーからの供給優先度が低く、部材調達で後回しに

完成品メーカーは部品をサプライヤーさんからの供給で賄っている。オーダーメイドの製品もあれば、既製品を取り寄せる場合もある。

サプライヤー側の立場に立って考えてみよう。大量発注してくれる企業と、少量発注する企業なら、どちらの方がありがたいだろうか。もちろん、たくさん発注してもらえた方が嬉しい。たくさん儲けられるし、長期にわたって需要を計算できるからだ。少量発注の場合、その企業だけにしか卸さない製品を作らねばならぬことも多く、製造に手間がかかる。

サプライヤーさんも商売だから、たくさん買ってくれる企業を大事にする。中堅企業の発注量は大手と比べれば誤差みたいなもので、供給の優先順位はおのずと下がる。

平時はやっていける。在庫が回っている限り、自分たちの序列を意識する場面はあまりない。半導体不足や原材料高騰のときは困る。サプライヤー側の生産能力が逼迫し、大手の注文から順に捌かれていく。回転寿司で、狙っていたサーモンが毎周スッと持っていかれるイメージである。ネギトロの方が好きな方はネギトロをイメージしていただきたい。ちなみに私は普通に中トロが好き。

部材が届かなければ製品は作れないから、社内はてんやわんやになる。開発は代替材料を血眼で探し始めるし、購買は毎朝サプライヤーさんに電話をかけて入荷時期を探るし、営業は顧客先に出向いて納期延長のお願いに奔走している。全社総出で走り回った末にサプライヤーさんから返ってくる一言が「大口のお客様へのご提供が落ち着きましたら対応いたします」なのだから、もう笑うしかない。

⑧なかなか専門性を深められない

大手メーカーの開発部署は分業体制が整っている。設計のプロは設計を何年もかけて掘り下げ、評価のベテランは実験室に棲みついて朝から晩までデータを積み上げている。各人が自分のポジションに腰を据えて専門性を磨ける環境で、うちの会社とは月とスッポンどころか、スッポンとすっぽんぽんぐらいかけ離れている。

中堅企業では、一人が幅広い工程を受け持つ。朝は製品コンセプトを考え、昼になれば試作品の評価データとにらめっこし、夕方には量産ラインの工程設計に取りかかる。ゴールキーパーがゴールキックして、ペナルティエリアを飛び出して前線でヘディングシュートを狙う形である。しかも観客席に座っている上司が「おい、なんで点取れないんだ!」と怒鳴っている。采配したの、あなたじゃなかったでしたっけ?

この生活をしばらく続けると、何となく仕事ができるようになる。なるのだが、どの分野もサワリの部分で止まったまま、仕事の幅が広がっていく。もう少し深掘りしたいなと思ったところで、別の仕事が飛び込んでくる。飛び込んでくるのは彼女だけにしてほしい。彼女が欲しかったなぁ、ずっと一人だもんなぁ。

転職活動を始めて面接に臨むと「ご専門は?」と聞かれる。「幅広く経験しました」と答えたとき、面接官の表情に陰りが生じる。向こうも分かっているし、こちらも分かっている。全部分かった上で、誰も触れない。阿吽の呼吸、ここに極まれり。

⑨優秀な人材が大手に流れ、人手不足で常に納期に追われる

中堅企業の給与は安い。大手と同じ業務をこなし、場合によっては大手より守備範囲が広いのに、年収ベースで数百万円の差をつけられている。ボーナス支給月にはSNSから距離をおいた方がいい。それでもスマホが気になる方は、川に放り投げておくと良い。使いたくなったら川底から拾って、アップルストアに持って行って買い替えればいい。

中堅企業で3年ほど実務経験を積んだ人材は十分な実務経験を積んでいる。大手よりカオスな環境でもまれている分、成長速度が段違いである。三年目の終わりには、もはや大手の選考を突破できる実力が備わっており、ちょうど一人前として計算できるようになったあたりで退職する。私は新卒一年半で退職し、年収200万アップのキャリアアップを果たした。仕事を教えてくれた先輩や上司よりも多く貰うことになり、何だか申し訳なくもなくもない。

抜けた人の仕事は、残ったメンバーが背負う。引き継ぎ期間は一応あるが、中堅企業の引き継ぎとは「ファイルサーバーのここにデータが入っています」と言われてフォルダのパスをメモする作業のこと。開いてみると、命名規則のないExcelファイルが200個並んでいる。最新版_Final_v3_確定_修正済み.xlsxとか、最終版_Climax_v11_共有.xlsxとか書いてあり、どれを見ればいいのか分からない。

負荷が増えると耐えられなくなって辞め、辞めた分の仕事が降ってきて、また辞める。そのうち中間層がみんな抜けて、若手とベテランがメインのひょうたん型組織が完成する。ありがとうございます。中間層の先輩がいないと、入社2年目の若手が新人を指導する羽目になる。先輩もあんまり分からないし、後輩はもっと分からないから、「いやー、難しいっすね」と二人で確認し合って一日が終わる。

⑩そして、振り出しに戻る

中堅企業の悲哀は一本のチェーンでつながっている。

規模が小さいから利益が薄い。薄利なせいで投資は回らない。投資が不十分なために大手の後追いとなり、価格競争に巻き込まれて体力を削られ、いつまでも規模を拡大しない。大手がゴールに向かってコマを進めている横で、我々はすごろくで毎ターン振り出しに戻っている。

ただ、中堅メーカーが全部こうかといえば、そうでもない。規模は小さいながらも業界内で独自のポジションを築いている会社はある。あるのだが、入社前にそれを外から見抜くのが難しい。

私も一社目には「個性的な製品を作っていて面白そうだな」と惹かれて入社した。いざフタを開けてみれば悲哀のフルコースが待っていた。前菜からデザートまで一品も欠けることなく提供された。コースとしての完成度はSSSで、そこは褒めてやりたい。嬉しくはないけれども。

中堅メーカーへの就職を考えている方は、以上10点の悲哀をよく理解してから入社してほしい。大手に行ける選択肢があるなかで、あえて中堅を選ぶなら、本当に後悔しないか何週間か考えたうえで飛び込んだ方がいい。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

カテゴリー

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次