23. 課題設定力を育てられる
にゃん研究テーマって、先生から渡されるものじゃないの?



研究室配属されたての頃はそうだよ。博士課程まで来ると、自分で次に何を調べるか考えるんだよ



何が分かっていないかを調べるの?



にゃん。論文を読んで既知と未知の領域を線引きして、未知のエリアに行くための方法を考える。また、本当に行くべきなのかも考える



誰も知らないことなら、何でもいい?



それだと、『先生が味噌汁を飲んで来た日はなぜ機嫌が良いのか』も研究テーマになる



面白そうじゃん、考えてみようよ



嫌だよ、面倒くさい
24. 仮説ベースで検証する力が手に入る



実験って、とりあえず色々やってみたらいいんじゃないの? 考えるな、感じろ、みたいな



先に頭を働かせた方がいい。研究って膨大な量のパラメータがあって、イチイチ実験していたらキリがない



たとえば、温度の違いが原因かもと思ったら、温度を変えて結果がどう動くか確かめる。予想通りなら仮説を支える材料が増え、外れたらまた考え直す。期待値が高そうなものから順に試すんだ



何か月かかけて作った仮説でも、データと合わなければ手放すの?



そうだよ



愛着わかないの?



愛着を持つと、危ないんよ。「本当はこの子、いい子なんです」とか言って、データをチェリーピッキングするようになる



愛がないなぁ…



それとこれとは別なんだよ
25. AIを使って仕事する訓練を積める



AIって、研究でも使うの?



使う、使う。論文を読ませて内容を教えてもらったり、プログラムコードを書かせたり、調べ物をさせたりする



じゃあさ、全部AIにやってもらえばいいじゃん



それをやると、肝心なところで火傷する。最近のAIはかなり性能が良くなってきたけど、まだ時々ウソをつく。もっともらしい顔でハルシネーションを起こすから厄介なんだよね



誰かさんみたいだね



こっちを見るな



AIが出したものは、全部確認するの?
AIは、優秀な助手?



確認はするね。AIの出力内容を読んで、違和感がないか確かめる。本当は実験もやってくれたら助かるんだけどね…



それだとあなたの存在意義がないじゃん



怖いこと言わないでよ
26. AIへ的確に指示を出せるようになる



AIをずっと使っていたら、指示の出し方もうまくなるのかな



なるよ。いくら最先端のAIでも、いい感じにまとめてみたいなテキトーなプロンプトでは、欲しいものが出てこない。自分の意志をある程度伝えて、道筋まで立ててあげれば、彼らは爆速老け顔プレッシングアンパンマンで作業を進めてくれる



そっかぁ
あなたが博士課程の学生だったときも、AIってあったんだよね?



ちょうど自分がD進した年にChatGPTが出てきたんよ。あれは本当に衝撃だったな。高三の大学受験で国立一本で受験して落ちて、浪人が決まった瞬間ぐらい衝撃だった



めちゃめちゃ驚いてんじゃん。じゃあ、博士課程の間にみっちり使い込んで、AIマスターになった感じか



研究ではAIにお世話になった。論文を英語に直すときなんか、ほとんど全部AIが翻訳してくれたもんね。博士論文だって英語はClaudeが書いてくれた



AIネイティブ世代として研究したおかげで、研究にAIを使うのは当然っていう感覚がある。収入が少ないなか、毎月何千円もAIに課金して使っていたよ



研究室時代から使っていたら、会社員になってもAIを使いこなせそうだね



そう思う。会社に入って周りを見ると、AIを使いこなせている人と使いこなせていない人の間でアウトプットの量・質が全く違っている。若いうちにAIを使えるようになっておくと、これからの時代に役立つかもね
プロンプトはね、具体的であればあるほどいいよ
27. 手先が器用になる



実験系の博士って、手先も器用になるの?



なるよ。小さい試料をピンセットでつかんだり、細い配線をつないだり、狭い場所に部品を取り付けたりするからね。不器用な人でも、じき器用になる



最初からできた?



最初は酷かった。自分は手先が不器用だから、細かい作業ができずに癇癪を立ててすぐイライラしていた。ときどき奇声をあげていたもん、「もう無理!!」って



博士課程で三年過ごして、どうなった?



だいぶ器用になったねぇ。電極間距離600 µmの実験セルを、目視で±10 µm単位でアジャストできるようになった



神じゃん。目の分解能、どうなってんの
器用さは、日常生活でも役立つの?



まぁ、多少は。カニを食べるときとか



なんだ、ショボいな



うるさいなぁ
28. 科学リテラシーが育つ



博士課程まで行っちゃうと、科学系ニュースの見方も変わるのかな?



変わるよ。○○に効果があることが分かった、みたいな記事を見つけても、なぜ効果があるのか確かめるまでは信じないもん



疑り深いなぁ
もっと素直になった方がいいと思う
やけんモテんと思う



ほんと、ひと言多いな
科学的な成果を訴えてきたとき、何人を対象にした実験なのかとか、何と比較してどれぐらい差が出たのか、そもそもどうやって測ったのかと考える。元論文があれば、読みに行くこともある



コーヒーを飲む人は長生きします! ってニュースを見たら?



ホンマかいなと思いながら、一日に何杯飲んだのかや、比較年齢群は揃っているのか、運動習慣の違いは見ているのか、と色々考える。研究をやっていると、データと結論を慎重につなげる癖がつくから、結論に飛びつくのも慎重になる



そっか~
ニュースって大げさに伝えることが多いから、博士課程で科学リテラシーが鍛えられたら、将来役に立つかもね



ちゃんと修了できたらね



怖いこと言わないでよ



にゃん
29. 事実と意見を分けて考えられるようになる



研究を続けると、考え方も変わるんだろうね



そうだね。データと解釈をちゃんと分けるようになるね



どういうこと?



たとえば、実験して何かの数値が下がったとする。数値が下がったのは測定事実。んで、その原因をこう考えます、という部分は、自分の解釈だよね。原因まで事実と思い込みたくなるところをグッと堪えて、切り分けて考える



原因の部分も事実かどうか確かめるために、追加実験する感じか



そうそう



じゃあ、LINEの返信が遅いから嫌われたと思う、は?



返信が遅いところまでは事実で、
返信が遅いから嫌われた、は解釈



博士学生に恋愛相談したら、大変そうだわ



追加データをお願いします



やっぱ面倒だわ
30. 相手の主張を聞くと、反射的に根拠を探すようになる



誰かに「これは絶対こうだよ!」って言われたら信じる?



まず理由を尋ねる。なんでそう思うの? って



嫌なやつだなぁ



研究室では、むしろ私の方が普通だよ。「原因はこれだと思う」と言ったら、何でそう思うのかセットで聞かれるもん。答えられなければ、詰められる



何年も研究室で過ごすと、プライベートでも主張に根拠を探すようになるのか



なっちゃったね。友達が、この店が町で一番うまいって言ったら、何店舗食べて、なんで美味いと思ったのか聞きたくなるもん。ま、さすがに聞かないけどさ



聞くでしょ?



…聞くときもある
31. 質問上手になる



質問って、上手い・下手があるの?



あるねぇ。何が分からないのか分からないような曖昧な質問から、核心をつく火の玉ストレートな質問まで様々ある



博士課程では研究で「なぜ?」とたくさん考えるから、自然と質問も上手くなるんだろうね



どんな研究も、ひとつの問いから始まる。仮説と仮説を結ぶのも問いだし、問いの質に応じて到達点の高さが変わってくる。良い研究をしようともがく過程で、良い問い方ができるようになるんだよ



じゃあ、何か質問したらなんでも答えてくれる?



いいよ。何が聞きたいの?



生きる意味って、何だと思います?



それは私も気になっている
32. 抽象と具象を行き来できるようになる



研究って、実験結果を眺めて考えるだけ?



実験結果を見たら、なぜそうなったのかを理論で考える。その理論が合っているなら、次に何が起こるか予想して、また実験する。抽象と具象を行き来するんだよ



実験して、考えて、また実験して?



そう



食べて、祈って、恋をして?



それは名作映画なんよ



行ったり来たりしてるなぁ



三年間、ずっとそんな感じ
33. 一つの出来事に、複数の解釈を思いつけるようになる



実験で何か結果が出たら、原因は一個に絞るの?



最初は何個か候補を出すよ
試料由来の誤差かもしれないし、温度のせいかもしれないし。あるいは、装置の機嫌の問題かもしれない。常に、あらゆる可能性を想定しておく



犯人候補を並べるんだ



うん。そのあと、一個ずつ確かめる。温度が怪しいと思って調べたら、温度は関係なかった、みたいなこともある。容疑者、釈放だね



おめでとうございます



ありがとうございます
で、次に別の被疑者を取り調べする



なんか、刑事ドラマみたいになってきたぞ。犯人が見つかったら、どうするの?



もちろん逮捕する。んで、拷問する。徹底的に取り調べる



かわいそう。やめてあげなよ



容赦すると後で仕返しされるから、徹底的にやりこめる
34. 考えを改めることに前向きになれる



何か月も信じていた仮説が間違っていたら、へこまない?



へこむよ。終わった、と思う。文字通り、目の前が真っ暗になる



辛いねぇ…



ただ、間違っていたと分かったら、次に進めるじゃん。軌道修正できるのは嬉しいよ。間違ったまま進む方が、あとで大変だからね



昨日まですがりついていた信仰を、今日捨ててもいいの? ねぇ、本当にいいの? 神さまを捨てるの?



捨てるよ。新しいデータが出たなら、主張もデータに応じて変えなきゃね



にゃんこ…
昨日までラーメン派だったけど、今日からは寿司だ! 寿司しか勝たん! みたいな感じ?



なんかちょっと違う気もしなくはないけど、だいたいそんな感じ
35. 教科書に書いてあることを疑えるようになる



教科書に書いてあることって、全部正しいんでしょ?



学部生の頃は、自分もそんな感覚だったよ。でも研究を始めると、教科書では説明できない現象に出会う



教科書と実験結果がケンカするの?



する、する
教科書にはこう書いてあるのに、自分のデータは違う。そうなると、実験をやり直して、論文を調べて、それでも同じ結果が出るなら、自分の目の前で起きている現象をちゃんと考えなきゃいけない



教科書より、自分の実験結果を信じるの?



何度やっても再現するなら、実験結果を信じるよ。教科書って、これまでに分かっていることを人間がまとめた本だからね。研究が進めば、説明が書き換わることもある



小学生の頃は教科書に落書きしたら怒られたのに、博士課程に行くと内容にケチをつけ始めるんだ



言い方、ひねくれすぎだろ
36. 別の分野で学んだことを、自分の仕事に持ち込めるようになる



博士課程って、自分の専門だけ勉強していればいいの?



他分野の論文も読むよ。別の分野で面白い測定法や解析法を見つけたら、自分の研究にも使えんかな~って考える



よそのウチから道具を借りてくるの?



そんな感じ。医学系の画像解析手法を材料研究に応用するとか、物理で使われている考え方を化学へ持ってくるとか



学問に国境なし、専門分野にも国境なし



使えそうなものを見つけたら、とりあえず自分の研究畑に連れて帰る。で、尋問する



また拷問だ



尋問だって

















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