面接の形式
今回の企業との面接は、私の博士就活において最初にして最後の面接。企業へメールで応募した所、『ぜひ来てください』と最終面接への招待を受けたのです。面接はTeamsにて実施。就活生の私一名に対し、人事の方&技術部長&総務部長の計三名により行われました。時間はおよそ四十分。圧迫感は一切なく、終始和やかな雰囲気での面接でした。
人事の方から質問
おはようございま~す
おはようございます。北海道大学大学院博士後期課程一年のかめです。本日は面接、どうぞよろしくお願い致します
よろしくお願い致します。本日は私と技術本部長、および総務部長の三名で面接させていただきます
はい、お願いします
早速ですが面接を始めちゃいましょう。まずはウォーミングアップとして、かめさんがこれまで取り組んできた研究について教えて下さい
分かりました。あの、、、画面共有しても宜しいでしょうか?
はい、構いませんよ~
ありがとうございます
~設定に苦慮しながらパソコンの画面を共有~
画面、映っておりますでしょうか?
はい、見えていますよ~
ありがとうございます。それでは説明します。私が行ってきたのは、リチウムイオン電池 (Lithium-ion Battery, LIB)のエネルギー密度を高めるための研究です。
LIBは現在、様々なポータブルデバイスに用いられています。しかし、近年の盛んな研究開発により、LIBは容量拡張の限界を迎えつつあります。今後LIBを電気自動車や再生可能エネルギーの電力貯蔵源とするためにはLIBのエネルギー密度を高める必要があり、それには新しい蓄電池材料の設計や開発が不可欠です
その材料として着目したのが電解液と負極になります。電解液には、現行LIBに用いられているものより3倍以上濃度の高い高濃度電解液 (Highly-Concentrated Electrolytes, HCE)を適用しました。通常の電解液中において、溶媒はリチウムイオン (Li⁺)と配位しているものもあれば配位していないものもあります。しかしHCE中では、液中に存在するほぼ全ての溶媒がLi⁺と配位しています。そのためHCEは揮発しにくく、高い還元分解耐性を有し、高い端子電圧を実現させられることからエネルギー密度の向上に繋がります
また、負極にはリチウム (Li)を用いました。Liは低い密度や電極電位、高い理論容量を持ちます。しかし充放電反応の際、析出形態が凸凹としたものになりがちです。凹凸な形態は充放電のたびに益々凸凹となってしまいます。Liはやがて正極と負極を短絡させるほど成長し、ショートや発火事故に至る可能性があります。そこで私はLiを電池に適用するため、HCE中でのLi析出メカニズムを調査してきました。
以上が研究概要になります
ありがとうございます。それでは何点か質問させていただきます。
まずはじめに、この研究の目指す最終的なゴールって何なのでしょう?
私の目指す究極のゴールは、Liを電極上で平滑に析出させることです。
現在のLIBは電解液中のLi⁺を電極内へ挿入して充電状態を作っています。しかし、それだと挿入可能な範囲だけでしか電極を充電できず、容量の拡張に限界があります。もしも電極上にLiを析出させられたら、Li⁺挿入よりも理論上、10倍以上の容量を持つ電池を作られるはずなのです。それにはLiの平滑な析出を実現させる必要があり、どうしたら平滑に析出させられるかを検討してきました。
これまで私を含め、世界中の研究者がこの問題を解決しようと試みてきました。残念なことに、未だ誰もLiの平滑な実現を達成できていません。私自身、平滑析出の成功には至っていません。そこで発想を転換し、「どうして凸凹に析出するのか」を主眼に研究しております
なるほど、よく分かりました。それでかめさんの研究の進捗は今の所、いかがですか?
私の用いている電解液系では「どうして凸凹に析出するのか」が明らかになりました。析出物表面をX線や電子線で分析し、析出物表面に形成される表面皮膜の厚さが析出形態に影響を及ぼすことが明らかになっております
研究成果は論文か何かに載せて出版なさったのですか?
そうですね。既に論文として出版済みです
そうですか。
研究課題を一つ解決なさったかめさんは今、どのような研究をしているのでしょうか?
現在は、析出現象の大元となる「電解液中でのLi⁺の拡散現象」に焦点を当てて研究しています。
電極表面でLi⁺が析出反応に用いられると、電極近傍と電極から少し離れた所 (バルク)との間に濃度差が生じます。電極近傍の方がバルクよりも低濃度になるのです。液中のLi⁺はこの濃度差を駆動力に、バルクから電極の方向へと拡散していきます。このように、液中でのLi⁺拡散現象は、析出現象を支配する重要なものであると考えられます。よって、Li析出形態の謎に迫るためには、まずこの拡散現象自体を深く理解せねばなりません。
私は拡散現象を視覚的に捉えるべく、”レーザー干渉法”という手法を用いています。干渉法で得られたデータを解析して液中での拡散のしやすさを分析したり、得られた物性値を用いて濃度分布のシミュレーションを行って測定値の妥当性を評価したりしています
実験とシミュレーションを両方ともやられているということですね
そうです。シミュレーションは博士課程に入ってから始めました。
記号だらけの難しい式を見て最初は(どうしたら使いこなせるんだろう…)と困っていました。夏季休暇中に時間を取ってしっかり理論計算の勉強を行った所、休暇明けには自分が望むシミュレーションができるようになりました
シミュレーションはどのようにして使いこなせるようになったのですか?
式の背後にある現象の根本原理をまず理解しようと努めました。使いたい理論式の導出から一つずつ丁寧に追っていき、自ら式を導出することで式の成り立ちを深く理解でき、使いこなせるようになったのです。最初は私の指導教員に教えを乞おうとしました。ですが、指導教員さえ式の意味がサッパリ分からず、結局は自分で頑張らざるを得ませんでした
そうなんですね。分かりました。
かめさんは現在博士一年生ですが、「来年修了する」ということで宜しいでしょうか?
はい、そうです。博士課程を一年繰り上げ、二年で修了しようと考えております
このようなことを聴くのは失礼かと存じますけど、、、修了できそうですか?
修了自体は問題なくできそうです。
私の指導教員曰く、私の専攻を早期修了するにあたり、博士課程在籍中に筆頭論文を四~五報出す必要があるそうです。博士一年次の2月現在、私は在籍中に筆頭論文を二報出版済みです。残りの二~三報のうち一報は投稿中、一報は執筆中、そして残りの一報は構想中のため、来年の3月までに論文を三報出版できそうな目星を付けられています。
なるほど、分かりました。
では、私からは最後の質問です。単純な好奇心でお聞きしたいのですが、かめさんが研究対象に電池をお選びになったそもそもの経緯は何なのでしょうか?
私が電池を研究しようと思ったのは、電池がまるで人間関係のようだなぁと感じたからです
…と申しますと?
電池は正極と負極、そして電解液の三つから成り立ちます。これ等のうち、仮にどれか一つが突出した性能を持っていたとします。しかし、他の二つがそれに準ずる性能を持っていなければ、最も優れた材料が満足に特性を発揮できません。いくら優れた材料を用いても、電池全体としてのパフォーマンス向上には至らないのが現実です。電池材料研究をする際、如何に優れた材料を作るかはもちろん非常に重要。それ以上に大切なのが、『電池の部材同士で如何に調和を取らせ合うか』ということ。一つ一つの部材の力は大して凄くなかろうとも、組み合わせ次第で従来の電池よりもはるかに優れた電池になる場合がある…コレは、北大の一年次に受けた化学の講義で電池研究者から聞いた話です
今のような内容の話を講義で聞いた際、(電池ってまるで人間関係のようだなぁ)といたく感動してしまいました。一つ一つのパーツで最高性能を目指すのではなく、電池全体の調和でもって総合性能の引き上げに挑戦するのです。人間でも同じだと思います。突出した能力の持ち主が集団の中に居たとしても、その人がやりたい放題やってしまうと組織は存分に力を発揮できません。能力のある個人が組織に最適化された方法で出力することで組織としての成果が最大化されるはず。電池に関して考えれば考えるほど人間味を感じ、魅力を覚えてきました
電池の魅力に憑りつかれて以来、「電池の研究ができる学部・学科に行こう!」と気持ちが高まってきました。一年次はもちろん、二・三年次も気を抜かずに勉強を頑張りました。そして三年次の研究室配属の際、第一志望の研究室に配属されました。自分の望み通りに蓄電池材料の研究を行えて、私はとても幸せです^ ^
電池の研究が役に立つか/立たないかは正直、あまり考えていませんでした。面白そうだから電池の研究に着手し、ふと顔を上げたら”めちゃくちゃ役立ちそうじゃないか”と気づかされた次第です
よ~~く分かりました。私からは以上です。次に技術本部長、よろしくお願いします
お願いします!
(とりあえず第一ステージは突破、かな)
コメント