北大と国研で研究している化学系大学院生かめ (D2)です。北大の総合理系へ入学後、工学部の化学系コースへ進学し、大学院修士課程・博士課程ともに化学系の専攻に進みました。
理系受験生の方なら一度は『工学部と理学部のどちらへ行こうかなぁ…』と迷ったことがあるのではないでしょうか?私自身、北大一年次の2月末、進路振り分けさえる時に迷いました。どちらも魅力的な選択肢。工学部にも理学部にも心が惹かれてしまう。一方で、学部生になる前は学部の実態が分かりませんでした。工学部/理学部がそれぞれどのような組織なのかいまいちピンと来ていなかったのです。これでは自身の趣向に合わせた学部選びができません。結果的には工学部へ行って正解だったけれども、理学部へ行って学部選びに失敗する可能性もあったわけです。
そこでこの記事では、学生8年目の先輩として、工学部と理学部のどちらへ行くか迷っている人へ進路選びのコツを解説します。農学部と理学部のどちらへ行くか迷っている人にも役立つ内容なので、進路選びでお困りの方はぜひ最後までご覧いただければ幸いです。
それでは早速始めましょう!
『役に立つ』を突き詰めたいなら工学部がオススメ
工学部では【実学】を学びます。実学とは、ズバリ『役に立つ』学問。世の役に立つ学問を学ぶのが工学部。世の役に立つ知見を生み出すのが工学系の大学院。機械系の知見はロケットや自動車、建設機器を作るときに役立ちます。土木系の知見はインフラ整備をする際に必要。材料・化学系の知見は新素材を開発するのに不可欠。情報系の知見はAIの深層学習を後押ししてくれるでしょう。このように、工学部に行けばどの学科・コースでも『役に立つ』がセットで付き纏います。如何なる研究をするにも『何の役に立つか?』と考え、研究の社会的意義を主張していかねばなりません。
工学部は『役に立つ』を突き詰めたい方にオススメ。世の『役に立つ』ことへ喜びを感じられる人が幸せになれます。”生まれてきた限りは社会へ貢献せねばならぬ”と使命感を持っている人にも向いているでしょう。いずれにせよ、『役に立つ』へ惹かれるならば工学部へ行って決して後悔しません。工学部へ行けば、世の中の役に立つ知見を得、社会へ有益な人材として企業なりアカデミアなりへ羽ばたいていけます。引く手は数多。就職率は全学部のなかでトップクラスを誇ります。
『面白い』を突き詰めたいなら理学部がオススメ
理学部では【科学 (サイエンス) 】を学びます。科学とは、実益度外視で自然界の摂理や根本原理を発見する営み。一つの学問を四年かけて学ぶのが理学部。学んだ知識を下敷きに、実験や理論計算等を通じて新たな原理を見つけ出すのが理学系大学院。物理学科では物理を、化学科では化学を徹底的に学びます。高校で習った基礎事項から出発し、物理なら量子力学、化学なら量子化学や有機化学までひと通りカバー。分厚い教科書を何冊も購入します。来る日も来る日も演習講義が続く。膨大な数の演習の果てには、一つの学問の基礎を体系的に理解できた快感が待っているのです。そこからはもう面白くてたまりません。「知りたい!もっと探求したい」という知的好奇心に後押しされて大学院の森の中へ…
理学部は『面白い』を突き詰めたい方にオススメ。自分の知的好奇心を満たすために研究したい方が幸せな気持ちを味わえる組織です。理学部では、役に立つか/否かなどあまり気にせず研究が行われています。自分が面白さを見出せるのならどのような研究でもやって構いません。理学部の方は「この研究が役に立つかどうかは50年後になったら分かるさ♪」と思っていらっしゃいます。工学部の方がすぐ役に立つことを志向しているのに対し、理学系の方は将来役に立つことを目指しているのです。どちらが良い/悪いの話ではありません。社会の発展にはどちらの学問も不可欠。理学系の人間ばかりでは現代文明を進歩させられません。工学系の人間ばかりだと、学問の基礎がゆらぎ、将来のイノベーションのタネが枯れるでしょう。
工学部にするか、理学部にするかは、皆さんがどちらの価値観に共感するかでお選びください。生きているうちに役立ちたいなら工学部へ、最悪、死んでから役立つことになっても構わないなら理学部へ進学しましょう。
私が工学部を選んだ理由
私は北大二年次に工学部へ進学しました。以降、博士二年生まで七年間、工学系の組織に身を置いています。私が工学部を選んだのは、自身の好奇心を原動力にズンズン突き進んでいけば、やがて世の中との接点が失われてしまうのではないかと危惧したからです。理学部へ進みたい気持ちはあったけれども、理学部・理学系大学院修了後の進路を考えたとき、自分へ行き場所はあるのだろうかと不安でした。
私は猪突猛進な気質。一度”こうだ”と決めたが最後、行き止まりに達するか/エネルギーが枯渇するかするまで進み続けます。何事にも興味を持つ性格でもある。空を見れば「なぜ青いのだろう?」と考え、花火を見たら「なぜ色が付いて見えるのだろう?」と不思議に思い、徹底的に調べちゃうのです。自分の知的好奇心を大切にしたい。なぜ?なぜ?と自らに問い続け、各種現象を支えている原理を発見したときニンマリ笑みを浮かべます。
そう、私は完全に理学部寄りの性格。役に立つかどうかなんか知らん。自身の研究が今後何百年間、全く役に立たずとも構わない。科学を突き詰めて学び、研究し、知的好奇心を満たせればそれでOK。それ以上の幸せってこの世にあるのだろうか、とさえ考えていました。仮に工学部へ進学し、『役に立つ』の枠にはまれば、ただでさえ狭い視野が益々狭くなってしまうでしょう。そんな窮屈な思いをするために大学へ通うことになるのは嫌。
今後のことを考えたとき、”果たして理学部へ行って大丈夫だろうか”と自問せざるを得ませんでした。理学部はサイエンスを学ぶ場所。就職は二の次。社会との接点は工学部ほど沢山はありません。理学部へ行くと、自分は性格上、世捨て人のような人材になるでしょう。修士課程はもちろん、博士課程まで進学し、大学教員のポジションを掴むために博士研究員 (ポストドクター) として研究するはず。アカデミックポジションの倍率は100倍以上。公募に手を挙げたからといって採用される確率はごく僅か。一生採用されない可能性もある。世界中の研究者と椅子取りゲームを演じ続け、気が付いたら年齢は40歳に。その頃にはもう企業への就職は無理。アカデミアへの就職も厳しいでしょう。どこにも行き場がなくなり、大好きな研究さえ続けられなくなる悲壮な未来が。であればまだ、社会との接点が多そうな工学部へ行った方が世捨て人にならずに済むだろうと考え、工学部へ行きました。
学部二・三年次は『役に立つ』講義ばかりでつまらなかったです。知的好奇心が圧殺されていくような感覚があり、面白くなく、脳裏に何度も 転 学 部 の三文字がよぎったぐらい。我慢して四年次まで通い続けて研究室配属。好奇心にとどめを刺されるかと思いきや、好奇心を活かして『役に立つ』を突き詰める新鮮な営みが始まりました。こういう道もあるのだな…と驚愕。研究の場では『役に立つ』と『面白さ』とが両立するようです。両者は互いに共鳴し、その相互作用でもって新たな発想を生み出してくれます。工学系へ行くからといって知的好奇心が不必要なわけではありませんでした。
逆に理学系でも、『役に立つ』を切り口に新たな研究が始まる場合があるかもしれません。進路選びは、『面白さ』と『役に立つ』をそれぞれどの程度大切にしたいかで判断なさると良いでしょう^ ^
選んだ学部が合わなければ修士課程進学時に所属を変えよう
ここまで、進路選びのコツを解説してきました。工学部と理学部とで迷ったときは上記の話を思い出して下さい。一度入った学部がもし合わなければ、大学院進学時に所属を変えてしまいましょう。無理して通い続ける必要はありません。修士進学時に意中の専攻へ出願し、試験を受け、合格して希望を叶えて下さい。
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