【大学院】研究力向上に「詰め将棋」が効果抜群な3つの理由

研究していると、頭が良くなりたいと思う瞬間が一日に37回くらい訪れます。3日がかりの実験が最後のステップで吹っ飛んだときに5回、論文の論理構成を組み直しても組み直しても破綻するときに12回、教授の質問に一ミリも答えられず沈黙だけが研究室に響いたときに15回。あと残りの5回はだいたい深夜のラボで、疲れ果てた脳みそがストライキを起こして何も考えてくれなくなった瞬間です。

研究に必要な論理的思考力を鍛えたいけれど、具体的にどうすればいいのか分からないという方は、実はけっこう多いのではないでしょうか。

私は北大博士課程を一年短縮修了し、大企業の開発部門で仕事しています。大学院に在籍していた頃、趣味で5〜9手の詰将棋をちまちま解いていました。

詰将棋はあくまで暇つぶしのつもりだったのですが、振り返ってみると、詰将棋は研究力の底上げにもがっつり効いていたようです。限られた条件の中で最適解をひねり出す思考プロセスが、実験の設計や論文の組み立てにそのまま活きていました。詰将棋の恩恵に気づいてからはより本格的に取り組むようになりまして、結果的に博士課程を一年短縮して修了できるだけの思考の幅と深さを手に入れられたと感じています。将棋盤の前で唸っていた時間が学位につながったと思うと、人生なにが功を奏すか分からないものですね。

詰将棋で鍛えられるのは論理的思考力だけではありません。問題解決能力や創造的な発想力まで、研究者にとって喉から手が出るほどほしいスキルがまとめて磨かれます。

今回の記事では、詰将棋が研究力向上になぜ効果抜群なのかを掘り下げていきます。研究に行き詰まっている学生さんや若手研究者の方に、何かしらのヒントを届けられたら嬉しいです。

かめ

それでは早速始めましょう!

目次

詰め将棋とは

詰将棋は、将棋の駒と盤を使った一人用パズルです。問題として示された駒の配置から出発して、相手の王様を逃げ場のない状態、いわゆる詰みに追い込む手順を見つけ出すのがゴールになります。友達がいなくても遊べるのが最高ですね。研究者向きです。ありがとうございます。

通常の将棋では両者が自由に駒を動かすため、勝負が決まるまでに無数の展開が考えられます。一方で詰将棋には、相手がどれだけ最善を尽くしても必ず詰みに至る唯一の正解手順が存在しています。解く側は、膨大な可能性の中からたった一本の正解ルートを探し当てなければなりません。

難易度は詰みまでの手数で大きく変わります。初級にあたる3手詰めなら、攻め側が2回、守り側が1回動いて終了です。中級以上になると7手詰め、9手詰めと手数が伸びていき、守り側が繰り出すあらゆる応手に対して漏れなく詰みを実現する手順を読み切らなければなりません。

ちなみに、絶対王者の藤井聡太さんは、20手超えの詰将棋をものの数秒で解いてしまうそうです。同じ人間の脳みそが入っているとは到底思えません。私なんか9手で頭から煙が出ます。藤井さんの脳と私の脳を比べたら、スーパーコンピュータとそろばんくらいの差があるのではないでしょうか。

研究力向上に詰め将棋が効果抜群な3つの理由

さて、詰め将棋が研究に及ぼす好影響について述べます。詰め将棋をオススメする理由は三つ⇩

  • 思考が柔軟になる
  • 空間的思考力が高まる
  • 脳内で思考を多様な形で場合分けできるようになる

以下で一つずつ解説します。

思考が柔軟になる

詰将棋をやっていると、ときどきカッコいい手が降ってくる瞬間があります。ここで飛車をバーンと捨てれば一気に詰むんじゃないかと、まだ解けてもいないのに心の中でガッツポーズをしたくなるような美しい一手です。脳内ではもう勝利のファンファーレが鳴り響いています。

ところが、いざ先の手順を読み進めてみると、相手のたった一手であっさり全壊して不詰みになったりする。さっきまで天才だと思っていた自分が一瞬で凡人に引き戻される、あの落差がとにかく辛いのです。脳内のファンファーレは一瞬でお通夜のBGMに切り替わります。

ここからが詰将棋の良い所。不詰みだとわかったら、さっきまで自画自賛していた美しい手順への未練を断ち切って、まったく別のルートを一から考え直さなければなりません。同じ筋にしがみついていても絶対に正解にはたどり着けませんから、半ば強制的に頭が切り替わるわけです。しかも詰将棋は一手ごとに成否がはっきり見えるので、ダメなら即撤退して次の手順を試せます。試行錯誤を高速で何度も繰り返しているうちに、一つの考えに固執しない思考の柔軟さが自然と染みついていくでしょう

研究でもまったく同じことが起こりますよね。魅力的な仮説を思いついてワクワクしながら実験してみたら、データが仮説をフルボッコにしてくるなんて日常茶飯事です。

私も博士課程の頃、完璧だと信じていた実験条件が三日連続で全滅しました。そのときは、ラボの天井を見つめて宇宙の真理について考え始めてしまいました。でも天井に答えは書いてないんですよね、残念ながら。答えは現象の中に隠れているのだから。

大事なのは、仮説への愛着をきっぱり捨てて別の切り口から問題を捉え直せるかどうかです。ときには問題設定そのものを丸ごと作り変える大胆さが必要になることもあるでしょう。

詰将棋で何度も味わう、渾身の手順があっさり崩壊する経験は、研究における仮説検証の厳しさを盤の上で疑似体験させてくれます。どんなに美しい仮説でも、検証を通らなければ事実にはなりません。頭では理解していても体感として腹落ちさせるのは意外と難しいことですが、詰将棋なら何百回でもその悔しさを味わえます。おトクですね。おトク…なのか?

空間的思考力が高まる

詰将棋では、盤上の駒がどこに利いていて互いにどんな位置関係にあるのかを、頭の中で立体的に把握しなければなりません。一つの駒を動かせば利きの範囲が変わり、別の駒との関係性も連鎖的にずれていきます。頭の中に三次元の地図を広げるような感覚が必要で、慣れないうちは脳が筋肉痛になったのかと思うほど疲れます。でも、この脳の筋トレが研究にめちゃくちゃ効くのです。

研究においては、複数の実験結果の相互関係を整理する場面がたびたび訪れます。データ同士の関連性を立体的に見渡しながら、関連度合いの強さに応じて論文に載せる順番を組み替えなければなりません。

実験データって平面的に並べるだけだとどうしても関係性が見えづらくて、頭の中で立体的に配置し直してようやく全体像がつかめるんですよね。詰将棋で培った空間把握能力は、複雑に入り組んだデータの関係性を整理して論理展開を組み立てる際に、かなり頼もしい武器になってくれます

詰将棋で特に鍛えられるのは、盤上の死角を見抜く力です。一見なんの役にも立たなさそうな場所にぽつんと置かれた駒が、数手先でまさかの決定打になるなんてことが割とあります。マジかよって思いますよね。マジなんですよ。目の前にずっとあったのに見落としていた駒が、実は詰みのキーアイテムだったわけです。

研究のデータ解析でも、ずっと注目していなかった変数が実は結果を大きく左右していたり、まるで関係ないと思っていた二つのデータ列に強い相関が潜んでいたりして、盲点からの発見がブレイクスルーの引き金になることがあります。ずっと無視していたデータ列をふと眺め直したら論文のストーリーが一気に完成した、なんて経験をお持ちの方もいるのではないでしょうか。詰将棋は、目の前にあるのに見えていないものに気づく感覚を繰り返し訓練させてくれます。

脳内で思考を多様な形で場合分けできるようになる

詰将棋の真髄は、あらゆる可能性を網羅的に検討する思考プロセスにあります。たった一つの正解手順を見つけるために、ときには数十、数百もの分岐を全部頭の中だけで整理する過酷な頭脳トレーニング。紙に書き出すのは反則です。脳のメモリをフル稼働させるしかない。初めて7手詰めに挑戦したときは、3分岐目くらいで最初の分岐を忘れてしまい、自分の記憶力のなさに絶望しました。

不思議なもので、詰将棋を続けていると、脳内の整理棚がどんどん増設されていくんですよね。今までは3分岐目までしか覚えていられなかったのに、5分岐でも7分岐でも自在に行ったり来たりできるようになる。主要な手順と枝分かれした派生手順を明確に区別しながら、効率よく検討を進められるようになります

研究における仮説検証のプロセスも構造としてはまったく同じです。主たる要因と二次的な要因をはっきり切り分けたうえで、主要因子を軸に据えながら副因子の組み入れを検討していけば、無駄のない検証計画が立てられます。幾重にもおよぶ分岐パターンを想定できれば、仮説構築はそれだけ高品質でロバスト性の高いモノになるでしょう。

私は研究所へ出張実験に行く際、現地での貴重な時間を一秒たりとも無駄にしたくなかったので、事前に大量の研究プランを用意していました。メインの実験が失敗した場合のプランB、プランBも転けたときのプランC、さらにプランCが爆死したときの最終防衛ラインまで。大量の分岐を効率よく組み上げられたのは、詰将棋で鍛えた思考の場合分け力のおかげだったと今でも確信しています。

さらに、詰将棋をやり込んでいくと、自分の思考のクセが嫌というほど見えてきます。似たような局面で何度も同じ間違いを繰り返してしまい、またお前かと自分の脳にツッコミを入れる羽目になるのです。でも、この繰り返しの失敗こそが宝でして、自分が陥りやすい思考パターンを特定して意識的に修正する訓練になります。

研究者って、実験結果を眺めるときに自分の予測や期待に引きずられがちですよね。こうなるはずだという思い込みがフィルターになって、都合の悪いデータを無意識にスルーしてしまう危険は常にあります。

詰将棋で客観的な自己分析力を培っておけば、思い込みに足をすくわれることなく冷静に論理を積み上げていく姿勢が身につくでしょう。少なくとも、またお前かと自分にツッコめるだけの客観性は確実に手に入ります。損はしません。

まとめ

詰将棋は、研究者に必要な総合的思考力を鍛えてくれる優れたツールです。通学中の電車の中でもできますし、寝る前の布団の中でも解けますし、短い時間でも効果的なトレーニングを積めるのが嬉しいポイントですね。なにより、研究に疲れた脳のリフレッシュにもなります。リフレッシュのつもりが別の方向で脳を酷使しているだけじゃないかという説もありますが、気にしないことにしましょう。気のせいです。

詰将棋に興味が湧いた方は、ぜひ日本将棋連盟のサイトから挑戦してみてください。毎日10〜20分ほど、かんたんな問題からコツコツ取り組むのがおすすめです。最初は3手詰めからスタートして、慣れてきたら5手、7手、9手とレベルを上げていきましょう。

9手が解けるようになる頃には、研究の思考力も確実にレベルアップしているはずです。ただし、詰将棋が楽しくなりすぎて研究時間が減ってしまったら本末転倒ですから、そこだけはご注意ください。

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