人間がAIに世界を明け渡したあと、私たちに残るものの話

後輩のAさん

先輩、お久しぶりです!

かめ

久しぶり。まだこの時間でも、研究室に人がたくさん残っているんだね

後輩のAさん

はい、最近は割と夜型が常態化してます

かめ

相変わらずだなあ、エアコンの音だけが元気なのも変わらない

後輩のAさん

それ、在籍年数が長い人ほど言いますよね

かめ

たぶん研究内容より正確に記憶してる

後輩のAさん

博士号を取ると、そういう能力も強化されるんですか

かめ

不要な記憶ほど高精度で残る仕様らしい

後輩のAさん

それはそれで怖いですね

かめ

怖い話なら、今の研究を取り巻く環境も、少し怖くなってきてる気がするぞ

後輩のAさん

えっ、どういう意味ですか?

かめ

最近ね、この部屋でやってきたこと(研究)が、いつまで人間がやる前提で続くのかなって、ふと考えることがあるんだ

後輩のAさん

ちょっと何を言っているか分かりません

かめ

軽い雑談のつもりなんだけど、博士号を取ると雑談の重心がずれるらしい

後輩のAさん

かめ

でもね、これからAさんが研究の道に進むなら、研究が好きかどうかとか、才能があるかどうかとかより前に、必ず考えておかなきゃいけないことがある

後輩のAさん

どんな話ですか?

かめ

ちょっと信じられないほどに””ヤツ””が強くなってきたって話

後輩のAさん

ヤツって、、、AIですか?
AIに勝てる人と勝てない人がいる、みたいな話?

かめ

半分正解
AIに勝てない人がいるのは合っている。一方で、AIに勝てる人なんて、もういないんだよ

後輩のAさん

…否定はできないです
私だって、勝てない側ですし

かめ

安心していい、今日は脅しにきたわけじゃない。博士課程を出て会社員をやってみて、世の中の見え方がどう変わったかを話していくよ

後輩のAさん

それなら聞きたいです、どうせ今日は実験も回ってませんし

かめ

分かった。じゃあ、ゆっくり話そうか。まずは、一番誤解されやすい所から

後輩のAさん

誤解されやすいところ?

かめ

これからの時代、人間は「物事を決めたり判断したりする」のが仕事になるって言われているじゃん。あれ、嘘だから。そのワケを話していく

目次

人間にしかできない仕事なんてない

かめ

問題の核心は、AIが特定のタスクで人間に勝つか、どうかじゃない

後輩のAさん

というと?

かめ

人間とAIの間には、そもそも前提条件が違いすぎる。能力の優劣以前に、構造が非対称なんだ

後輩のAさん

構造的非対称性、ですか

かめ

そう
AIは分野横断の知識を同時に保持できるし、疲労しないし、注意力も劣化しない。時間制約もなく、睡眠も休憩も不要。知的作業を連続で積み上げる能力が、原理的に人間とは別物なんだ

後輩のAさん

確かに、人間はそこまで持ちませんね
私なんて、勉強したらすぐ疲れちゃうし

かめ

僕だってそうだよ。歳をとって、ますます集中力が落ちてきた。まだ新卒一年目なのに、すでに会社での8時間業務が辛いもん笑

後輩のAさん

先輩、もう おじいちゃん じゃないですか!
おじいちゃん、げんきでちゅか~^ ^?

かめ

うるさいなぁ
話を戻すね。人間は、知識量も処理速度も時間も有限だよな。しかも、組織で働くと、内部で必ず摩擦が生じるようになっている。会議、報告、稟議、承認、調整、スタンプラリー。こんな感じで、知的作業そのものとは無関係なコストをたくさん背負っている

後輩のAさん

研究室でも会社でも同じですね

かめ

人とAIの差はね、努力でどうにかなるものじゃない。時間が経てば経つほど、累積して拡大していくものなんだ

後輩のAさん

でも、だからこそ役割分担するんじゃないですか?
考えるのはAI、決めるのは人間、みたいな

かめ

そこが、一番よくある誤解。判断や意思決定を 独立したスキル だと思っているのが間違いなんだ

後輩のAさん

どういうことですか?

かめ

判断っていうのは、情報収集→仮説生成→比較→検証→反証可能性の検討…みたいに長い思考プロセスの『最終出力』にすぎない。思考を経て、その果てに判断がある。つまり、僕たちが思考を手放した途端、判断までできなくなってしまうんだよ

後輩のAさん

てことは、、、

かめ

考えない人間は、判断能力を維持できない。考えず、判断するだけなんて、原理的にはできないようになっている。最初はAIの出力を理解しているつもりでも、徐々にブラックボックス化して、最後は「よく分からないけど承認する人」になる

後輩のAさん

それ、かなり現実的なシナリオですね

かめ

現場を知らない管理職が形骸化していくのと同じじゃないかな。判断の根拠を説明できない責任者は、最も脆弱な存在になる

後輩のAさん

じゃあ、「決めるだけの人間」って、長くは生き残れないかもしれませんね

かめ

残れない。役割分担は過渡期の現象であって、安定解ではない

後輩のAさん

それでも、人間にしかできない仕事は残るって言われますよね

かめ

それはね、本質的制約と時間的制約を混同している。いま人の手に残さている仕事の多くは、コスト、精度、例外処理、導入速度の問題で人間がやっているだけ

後輩のAさん

AIができないから、じゃない

かめ

そう。人間にしかできない仕事は、人間にしかできない”とされている”仕事。AI技術が成熟したら、人間の聖域もAIに奪われる可能性がある

後輩のAさん

博士に進もうとしてる立場からすると、かなり厳しい現実です。研究ポジションだって、これからどうなるか分かりませんね。大学教員っていう職業が、これから先、ずっとあり続けるのかどうか…

かめ

厳しいけど、これは悲観論じゃない
幻想を前提にキャリアを考える方が、よほど危険なんだ

後輩のAさん

努力すれば逃げ切れるとか、人間は最後に判断者として残れるとか、みたいな考え方を見直すべきかもしれません

かめ

そういう前提が、構造的に成立するのかを、一度疑ってみる必要があるね

後輩のAさん

なるほど…

かめ

これが、最初に押さえておきたかった土台の話
ここを曖昧にしたまま次に進むと、全部ズレるからね

かめ

それじゃあ、次の話に進もうか

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