深夜2時、蛍光灯に照らされた研究室で実験データとにらめっこしている大学院生の皆さん。あるいは、査読者からの厳しいコメントに頭を抱えている皆さん。あるいは、ゼミ発表が明日に迫っているのにスライドが3枚しかできていない皆さん。お疲れさまです。
大学院生の脳は、常に全力疾走を強いられています。実験の設計から論文の執筆、先行研究の読み込みから研究室でのディスカッションまで、知的体力の消耗が激しい毎日でしょう。そんな日々を過ごしていると、ふとした瞬間に思うわけです。もっと頭の回転を速くしたい、と。
今回ご紹介するのは、大学院生の認知機能をじわじわと底上げしてくれる意外なトレーニング方法です。新幹線の座席ポケットでも、喫茶店のテーブルの上でも、スマホの中でも、どこにでも転がっているあのパズル。そう、ナンプレです。
数字パズルと聞いて画面を閉じかけた方、少しだけお待ちください。ナンプレには、研究活動で求められる認知機能をまとめて強化できるポテンシャルが眠っています。ナンプレが皆さんの潜在的可能性を引き出してくれる理由を説明するので、5分だけお時間をください。
そもそもナンプレとは

ナンプレの正式名称は「ナンバープレース」で、日本国外では「Sudoku」の名前で親しまれています。ルールは極めてシンプルです。
9×9のマス目に、1から9までの数字を配置していきます。守るべき条件は3つだけで、
- 縦の列に同じ数字を入れないこと
- 横の列に同じ数字を入れないこと
- 3×3のブロック内に同じ数字を入れないこと
以上です。ルール説明が10秒で終わるパズルなんて、なかなかないでしょう? ねっ、面白そうでしょ? ねっ? ねっ?
ところが、制約が3つしかないのに、そこから生まれる論理の奥行きは相当なものです。ナンプレは答えは必ず1つに定まるようにできていて、勘や運に頼る余地はほとんどありません。与えられたヒントから筋道を立てて、論理的思考でもって唯一の正解にたどり着くのです。
大学院生にナンプレをオススメする3つの理由

ナンプレは老若男女が楽しめる万人向けのパズルですが、大学院生にとっては特に嬉しい効果があります。ここからは、大学院生にナンプレをオススメする3つの理由をお伝えしていきます。
推論速度が爆発的に上がる
ナンプレを解くとき、頭の中では絶えず推論が走っています。
まず、ある列にすでに1、2、3、4が埋まっていれば、残りの空欄には5から9のどれかが入ると分かる。次に、同じブロック内の制約を重ね合わせると、候補がさらに絞られていく。こうした推論の連鎖を繰り返していくうちに、脳は条件から結論をすばやく導き出す回路を太くしていくわけです。
研究生活において、推論の瞬発力は思いのほか重要です。たとえば、実験データにいつもと違う値が出たとき、即座に原因の仮説を立てられるかどうかで、対応のスピードがまるで変わってきます。論文の査読コメントを受け取ったときも同じで、指摘の背景にある意図を素早く読み取れると、修正作業が格段にスムーズになるでしょう。
実験がうまくいかない場面を想像してみてください。試薬の濃度、反応温度、撹拌速度、測定条件など、考えられる要因は山のようにあります。そこから原因として怪しいものを素早くピックアップし、一つずつ検証していく力が推論力です。
ナンプレで毎日のように条件分岐の推論を繰り返していると、こうした思考の瞬発力が自然と磨かれていきます。9×9のマス目の中で鍛えた推論力が、研究室の実験台の上で思いがけず役に立つ日が来るのです。
楽しいから集中が途切れない
集中力を高めたいなら苦行に耐えろ、という精神論を説くつもりはありません。安心してください。ナンプレって、メチャクチャ楽しいんです。
ナンプレの面白いところは、解き進めるほど夢中になれる点にあります。1つの数字が確定すると、連鎖的に次の数字の候補が見えてきて、芋づる式に正解が分かっていくのです。最後の方はバッサバッサと次から次へと数字が埋まっていく。もうね、快感なんですよ。麻薬みたいな中毒性です。一度味わうと、なかなか抜け出せません。自分自身、気がついたらつい気持ち良くなっちゃって、何問も難問も解いてしまっていました。
ナンプレで引き出される集中力には、大きな特長があります。嫌いな作業を歯を食いしばって続けるときの集中とは、性質が根本的に異なるのです。パズルの面白さに引き込まれた状態で発揮される集中は、ストレスが少なく、心地よい緊張感と達成感を伴います。
楽しみながら集中する経験を積み重ねると、研究活動にも良い影響が出てきます。論文を読むにせよ、データ分析するにせよ、研究には高い集中力を維持することが不可欠ですが、ナンプレで培った集中力は、研究のさまざまな場面で下支えしてくれるでしょう。
ワーキングメモリが底上げされる
ナンプレを解いている最中、脳内ではかなり忙しい情報処理が行われています。あるマスでは候補が2と4の2択まで絞り込まれていて、同時に別の列ではまだ3と5と8が未使用であることを覚えておかなくてはなりません。そのうえで新しい数字が確定するたびに、頭の中の情報を丸ごと更新していく必要があります。
ナンプレで行う記憶処理は、単語帳の中身をそのまま頭に入れるような丸暗記とは質的に異なります。情報をただ覚えるだけでなく、状況が変わるたびに記憶の中身を書き換え、ほかの情報との整合性を確認し続ける。いわば動的な記憶処理を絶えず行っているわけです。こうした高度な情報処理を繰り返すことで、ワーキングメモリの容量は着実に鍛えられていきます。
研究活動では、ワーキングメモリの強さがものを言う場面が数えきれないほどあります。
先行研究調査にAIを活用する大学院生は増えていますが、AIが要約してくれた内容を自分の研究テーマに引きつけて咀嚼する作業は自分の頭でやるしかありません。複数の論文から得た知見を頭の中で並べ、論文同士の関連性や矛盾点を整理し、自分の研究との接点を見極めていく作業は、まさに動的な記憶処理の連続です。
複数の実験データを比較検討する場面でも、ワーキングメモリの強化は大きなアドバンテージになります。ワーキングメモリが大きければ、異なる条件下で得られた実験結果を頭の中に並べて保持し、データ間の微妙な差異やトレンドを見抜いていくことができるでしょう。ナンプレで動的な記憶処理能力を鍛えておけば、研究速度の圧倒的向上はもう約束されたようなものです。
最後に
大学院生活は、知的な挑戦が絶え間なく押し寄せる日々です。研究の合間にほんの少しだけ時間をつくって、ナンプレに手を伸ばしてみてください。今日解いた1問が、明日の研究をほんの少しだけ軽くしてくれるかもしれません。
最後に、ナンプレの問題集のリンクを置いておきます。大きくて見やすいと評判の一冊で、目が疲れがちな大学院生にはぴったりです。研究室のデスクに1冊忍ばせておくと、実験の待ち時間がちょっとした脳トレタイムに変わりますよ。


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