研究室生活春夏秋冬vol.59 D2・1月|最終決戦に向けて気炎を上げる。広島での新生活準備を加速する

初滑り

口笛でWham!のラストクリスマスを吹きながらルンルン気分で通学していた。毎日クリスマス気分で歩けばクルシミマスな気分から逃れられる。早く博士論文発表会を終えてしまいたい。全てから解き放たれて楽になりたい。公聴会は1/31。コイツが終われば本当に楽になるはず。頭を騙せるならナンボでも口笛を吹く。ラストクリスマスだろうが波乗りジョニーだろうがピューピュー吹きまくって気分を変えてやる。

ラストクリスマスを吹き終えた。次はマライアキャリーのAll I want for Christmas is youに切り替える。前奏を終えた瞬間から何だかめちゃくちゃ楽しくなってきた。その場で盆踊りでも始めてしまいそうなテンションになった。さすがに盆踊りでは通学に時間がかかりすぎる。踊るのではなく、スキップを始めた。ダウンジャケットのフードをかぶって、スポーツサングラスとマフラーをした27歳理系男子大学院生(工学)がスキップしている。狂気以外の何ものでもない。楽しいから、やめようにもやめられなかった。

右手に曲がろうとした瞬間、凍結したツルツル路面に足元をとられた。ズルっと滑って尻もちをつく。とっさに柔道の受け身を取った。何事もなかったかのように立ち上がる。あー、危なかった。もう少しでこける所だった。修士号を持っていなかったら尻もちをついていた。修士号があるおかげで助かった。肩やふくらはぎに雪が付いている。まぁ、おそらくは気のせいだろう。

立ち上がってスキップを再開。私のクリスマスは滑ったぐらいで終わりはしない。

マライアキャリーの歌を吹き続ける。十歩ぐらいスキップしたところで再び足元をとられた。今度は先ほどとは反対側から尻もちをつく。とっさに柔道の受け身を取って起き上がる。あ~、危なかった。もう少しでこける所だった。学士号を持っていなければ尻もちをついていただろう。学士号があるおかげで助かった。背中にビッシリと雪が付いている。まぁ、気のせいだろう、、、と済ませられぬほどビチャビチャになった。

今年のウィンターシーズンで初めてこけた。初すべりは仏滅の今日23日。膝小僧にいたであろう仏様が泣きわめている。痛いなぁ。しばらくスキップはお預けにしようかな。マライアキャリーを吹き直す気力がない。今後はハミング程度にとどめておこうと思う。

入居先決定

会社から内定者全員へ連絡があった。入社準備案内のメールだ。社員証作成用写真の提出や個人情報入力などが求められた。いよいよ自分も会社員になるんだな。楽しく働かせてもらえたら嬉しいわ。懲役40年だなんて思いたくない。せめてマインドセットをポジティヴにして執行猶予40年に変えたい。

会社が用意してくれた書類の文面がたどたどしいこと、初期のGoogle翻訳のごとし。ちょっと何を言っているのか分からない。日本語なのに日本語に見えない。書類を生成型Claude AIにぶん投げた。日本語を日本語翻訳してもらってようやく意味を把握できた。入社書類ですら分かりにくいって、B to Cメーカーにとって致命傷だぞ。お客さんに渡す書類の日本語は大丈夫なのか心配になる。

書類の中には借り上げ社宅の案内もあった。家賃の8割を会社が負担してくださるそう。やったぜ。貧乏生活から脱却できる。家賃を低額に収められて、貯金や借金返済が捗るだろう。

ガッツポーズを作ったのも束の間、ある衝撃的な文言に目が留まった。大卒以上の家賃補助期間は「3年9か月間」らしい。

入社四年目の1月以降、家賃が全額実費負担へと切り替わる。四年目までに手取りが家賃補助分以上に増えてくれているならば文句はない。もしも増えていなければ、純粋に可処分所得が減って大変な思いをするだろう。こういう所でZ世代にお金をケチらぬ方がいいと思う。より好待遇な会社への転職が頭にチラつく人が現れても不思議ではない。人材定着を狙うなら、せめて10年は社宅補助してあげてもらいたい。さすがに4年弱は短すぎる。

会社と契約を締結している不動産会社のサイトへ登録した。希望条件を入力して物件をいくつか紹介してもらう形式だった。家は、会社から近すぎず遠すぎない距離がいい。広島都心との距離感も大切。ランニングコースへ隣接していれば嬉しい。何より、サンフレッチェの新スタジアムへ徒歩圏内であることが最重要。可能ならば、ゴキブリが出てきたくても出てこられぬ築浅物件だと最高。自分で支払う家賃は2万円以内に収まっていてほしい。40代専業主婦希望の婚活女性みたいに多くの条件を付けてしまった。果たして希望に沿った物件はヒットしてくれるのだろうか。

あった。奇跡のような物件が見つかった。

立地はそこそこいい。広島都心の紙屋町まで徒歩圏内だ。家から走って1分で河川敷のランニングコース。好きなだけ走ってくれと言われているようなもの。建設されてからまだ数年しか経っていない。近所で一番高い建物みたい。これならゴキブリも容易に出てこられないだろう。自らの家賃負担分は月1.5万円。JR駅から少々遠いからか人気が低め。ランナーの自分からしてみれば通勤に何の支障もない距離。

不動産屋さんに連絡して物件をおさえた。新居が決まった。引っ越しに向けて本格的に準備を進めていこう。

大型ごみ処分

弊社はSHUCDYC (スーパー・ハイパー・ウルトラ・超・どんだけ・優良カンパニー) 。引っ越しにかかる負担を全額負担してくれる。家具の運送は単身パックで。コンテナ一箱に収まりきる分の荷物なら何でも運んでくれるらしい。引っ越しにお金がかからないとなったらスペイン旅行にも行けたかもしれない。まぁ、もういいや。スペインよりも広島の方がよっぽどえぇとこじゃけぇのぉ。

この八年間で荷物がずいぶんと増えた。本と家具が山のようにある。持って行く必要があるものは少数。一生読まなかったり使わなかったりしそうなものが多い。不要なものを広島まで運んでも仕方がない。引っ越しが良い機会だ。このタイミングで家財整理に着手した。

この八年間、特に疑念をさしはさまずに敷き布団を使ってきた。よく考えてみよう。これ、ひょっとして要らないのではないか。敷いても体へのダメージは軽減されない。あったら部屋の使用可能面積が減って邪魔。マットレスさえあれば十分だろう。マットレスにシーツを敷いたら立派な即席ベッドができ上がる。

座椅子も要らない。デスクチェアでこと足りている。ちゃぶ台も複数のクッションも不要。こんなものを揃えたところで家に誰も来なくて役立たなかった。空気清浄機は久々に使ったら壊れていたので処分。乗馬用ブーツも底が腐っていたから要らない。

こんな調子で物を次から次へと処分。大型ごみの日にまとめて出してしまった。掃除後、家の中がスッキリとした。余計なものをこんなにたくさん買い込んでいた自分のアホさ加減には唖然とさせられた。不要なものを買わなければ、お金を貯められて何度か海外にも旅行できただろうに。買わずに済ませられるものをなるべく買わずに済ませるのが今後の人生の課題。いま無くても問題のない家財を購入しようと企まぬよう気を付けたい。

引越後、新居へ洗濯機を導入しようかと思っていた。やはりやめておく。洗濯機はいらない。今と同様、コインランドリーで何とかできなくはないだろう。人間はハングリー精神を失った瞬間に終わる。洗濯機無し生活は、己の飢餓感を掻き立てる最高の起爆剤になりうる。洗濯機無しで我慢できなくなったら買おう。我慢できなくなるまでは買わない。

あと24時間

公聴会まで24時間を切った。明日31日午後の最終審査会を乗り越えればおしまい。

緊張はしない。驚くほど落ち着いている。なんせ、終われば抑圧から解き放たれるのだから。スライドを一枚話し終えるたびに修了が一歩、また一歩と近付いていく。明日は嬉しすぎて笑顔でプレゼンしていることだろう。笑いすぎて腹筋が崩壊せぬよう注意したい。腹筋を鍛えてから大学に行ったら良い具合に脱力して話せるかな。早口にもできるだけ気をつけたい。早く終えてしまいたい気持ちをなだめて、審査員の方が聴き取りやすいようゆっくり喋っていこう。

公聴会はただのお楽しみイベント。新博士爆誕のお披露目会。なるべく穏やかに終演させたいところ。予備審査会のような大炎上は勘弁してほしい。公聴会での火種は無いはず。……無いよね?きっと無いはずだと信じたい。指導教員の言うことは本当かどうか分からないが、博士論文は一部だけ印刷して会場へ持って行けばいいらしい。念のため二部持って行こう。それで怒られたら今度こそ責任を指導教員になすり付けてやる。

2025年1月31日。大嫌いになった研究へ永遠の別れを告げる。研究なんてもう二度とやらないだろう。研究を好きなままでいたかった。あまりに嫌な出来事がたくさん起こりすぎて、好きでいるのはどうしても難しかった。幸い、理系大学院生からは研究職が人気らしい。自分が研究をやらずとも代わりにやってくれそうな人材はごまんと居る。自分は研究以外の世界で身を立てていく。これからの人生は自分のやりたいことだけをやる。好きな仕事を好きな場所で、好きな人とやりたい放題やる。会社にとらわれる必要すら無い。一人の方が良ければ退社して個人事業主になればいい。

博士課程とは、己の生き方を選ぶ時間。何へ重きを置き、何に価値を見出すかをじっくりと考える時間だった。公聴会はそのフィナーレにあたる。自分の人生が進みゆく方向を全世界に向けて宣言するわけだ。そこには失敗も不出来もクソもない。宣言しさえすれば100点満点だ。

公聴会は人生で一度だけ。楽しまなければ損だと思う。教授陣11名と研究室メンバーの醸し出す至高の雰囲気を全身で味わい尽くしたい。

公聴会

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