研究室生活春夏秋冬vol.60 D2・2月|博士 (無敵の人) 爆誕。八年間の札幌旅を終え、故郷の広島へ堂々凱旋

本屋の定点観測

私の趣味のひとつは読書。読書関連でもう一つ趣味がある。それは、本屋の定点観測。ひとつの本屋へ毎週通う。商品陳列の仕方や売れ行きをボーっと眺めるのが好きだった。本に囲まれるだけで癒される。ひょっとして変態なのだろうか。変態である自覚は100%。

私が通ってきたのは大通にある「丸善ジュンク堂書店」。北大入学以来八年間、道外出張時を除いて毎週通ってきた。どこにどんな本が並んでいるかを隅から隅まで把握済み。書店員よりも書店員している。アルバイトさせてもらおうかと思っていたぐらい。

丸善ジュンク堂は雰囲気がいい。店内は静か。余計なBGMは流されていない。エスカレーターの繰り返しアナウンスもない。表紙を通路側に向けて陳列されている本は知的なものが多い。訪れる人へ本を買う気にさせる雰囲気が漂う。毎週何時間滞在しても飽きない良さがあった。私の家の近くからだったら、札幌駅前の紀伊国屋や三省堂書店の方が近い。紀伊国屋はまだしも、三省堂はダメだ。店内が話し声とBGMであまりに騒々しい。本をパラパラめくって流し読みする気にもならぬほどうるさかった。書店は静粛性が第一。ブックオフみたいな賑やかさは求めていない。

24日。愛してやまない丸善ジュンク堂書店へ最後の定点観測に行ってきた。ここを訪れるのも今日限り。来週からは地元・広島の本屋さんへ通い始める。広島では相性の合う本屋を見つけられるだろうか。店内に暴走族が走り回っていそうで怖い。アイツら、今でも広島駅の前を平気でブンブンやっているからな。書店の中でもブンブンやっていて不思議ではなかろう。

本屋へ行けば気力が湧き出る。逆に行かなければ気力が湧いてこない。我が行動力の源泉は書店にあり。書店はガソリン。理系男子大学生にとってのラーメン二郎みたいなものだ。家から最寄りの書店までやや遠い。通勤経路沿いにはないみたい。週末に遠出して向かうしかないだろう。不便になりそうだな。まぁ、書店があるだけまだマシか。

下宿よさらば

スクロールできます

26日、下宿を引き払った。三辺140cmの段ボールが6個。衣装ケース2つ。サバ缶24匹。マットレス一羽。27インチディスプレイ一頭。そして、ガッキーの可愛い顔写真を貼って帰るたびに抱きついていた七か月前に買った冷蔵庫がひとつ。これ等を特殊運搬コンテナに収納して札幌から広島まで運んでもらう。引っ越し屋のおっちゃんらに尋ねたところ、輸送は陸上輸送だそう。貨物列車にどんぶらこー、どんぶらこーと揺られながら、山へ洗濯に行ったおばあちゃんが桃と一緒に見つけてくれるのを待つそうだ。これは令和一の難事業じゃないか。果たして自分の荷物は広島まで届くのだろうか。

このアパートに引っ越してきたのは四年前。北大進学時にエアコンのないアパートへ入居した。夏があまりに暑すぎて耐えきれなかった。エアコンのある部屋に住みたくなって、修士進学時に引っ越しした。

家を移る際、引っ越し業者は使わなかった。業者へ頼もうにもお金がなくて依頼できず、ひとりで搬出と運び入れを済ませた。元のアパートから自転車を使ってトランクルームへ荷物を搬出。新居入居日にトランクルームから荷物を出して今のアパートへ担いできた。家と仮倉庫の間は1km。その間を80往復はした。夜を徹しての作業を、搬出・運び入れでそれぞれ一週間ずつ行った。あんなに大変な思いはもう二度と御免。次からは引っ越しで業者を使おうと決めた。
幸い、今回の引っ越し代は内定先が払ってくれた。さすがは我らがSHUCDYC (スーパー・ハイパー・ウルトラ・超・どんだけ・優良カンパニー)。大相撲に出たら余裕で15連勝するほどの太っ腹を見せてくれた。

がらんどうになった部屋の中央で正座する。目を瞑って静かに学生生活へ思いを馳せようとした。ものの10秒で足がしびれてきた。仕方なしにあお向けで寝転ぶ。頭を起こして四方を見渡した。「この部屋、こんなに広かったんだな」と驚いた。物が何もないと住空間が広大に感じる。声が壁や天井によく響く。大学生活の残響に耳を傾け、その余韻に心の琴線を震わせた。

退去点検を終えて下宿を出る。玄関で振り返って「あばよ!」と下宿に挨拶。何だか急に寂しくなってきた。ホームシックか?この家から離れたくないのか?いや、違う。博士課程が終わる実感が湧いてきたらしい。学位記を受け取るまでこの感情にはならぬかと思っていた。予想は外れた。修了式の一か月も前に博士課程早期修了の現実感が出てきた。

博士(工学)、か。名前負けして博士(笑)にならぬよう鍛錬しなくちゃな。

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