博士課程に進学した当時、私の研究室には博士課程の先輩が一人もいませんでした。というより、そもそも博士号を取った人自体がいなかったのです。研究室ができて十年ほど経っていましたが、その間、一度も博士を輩出していませんでした。
だから、進学の準備はすべて自力。博士課程への進み方も、学振DC1の申請方法も、ひとつひとつネットで調べながら覚えていくしかありませんでした。
もちろん、誰かに聞ける環境もなく、完全に手探りです。進学してからも情報が少なくて苦労の連続でした。好きだったはずの研究が、次第に苦しく感じるようになっていき、「もう限界だ」と思ったこともあります。
最後の方は、苦しさを振り切るようにして飛び級修了を目指していました。今思えば、あの頃の自分はただ必死に出口を探していたんだと思います。
そんな経験をしたからこそ、今はっきり言えることがあります。博士課程に進むなら、先輩博士学生のいる研究室を選んでください。
博士課程は、孤独と不安の連続です。そこを先に歩いている先輩がいるかどうかで、修了までの難易度は本当に変わります。心も体も壊さずに最後まで走り抜けたいなら、先輩のいるラボを選ぶのが一番です。
この記事では、博士課程へ進むなら先輩博士学生のいる研究室がいい理由を、私自身の体験を交えながらお話ししていきます。進学先を迷っている方にとって、少しでも参考になれば嬉しいです。
それでは、さっそく本題に入りましょう。
かめそれでは早速始めましょう!
良い研究環境である可能性が高いから


博士課程はだいたい三年間です。「たった三年」と思うかもしれませんが、やってみるとかなり長い。短距離走のように全力で走り続けるには息がもたず、かといって立ち止まることもできません。だからこそ、研究環境の良さがすごく大事になります。
どうせやるなら、壊れかけの装置よりも最先端の機器を使って研究したいですよね。放任されるよりも、必要なときにちゃんとアドバイスがもらえる方がいい。そう思うのは当然です。
博士課程の先輩がいるということは、その人が「この研究室でD進したい」と思えた理由があるということです。研究環境が整っていたのかもしれませんし、先生との相性が良かったのかもしれません。あるいはラボの実績や雰囲気に惹かれたのかもしれません。いずれにせよ、何かしらの魅力がある研究室だからこそ、先輩はそこに残ったわけです。
つまり、博士先輩のいるラボは「大ハズレ」ではない。あなたが同じ場所でD進しても、きっと似たように満足できる可能性が高いです。
逆に、先輩のいない研究室はリスクが大きいです。アカハラやセクハラ、ネグレクトなど、嫌な思いをして途中で辞めてしまうケースもあります。
そんな悲しい結末を避けるためにも、まずは「博士先輩がいるかどうか」を確認してみてください。それだけで、進学先選びの失敗をかなり減らせます。
何かあったとき相談できるから


博士課程の先輩がいるありがたさは、いざというときにこそ感じます。
研究がうまく進まないとき。人間関係がぎくしゃくしてしまったとき。博士課程修了後の進路に迷ったとき。──そんなとき、先輩の存在は本当に心強いです。
先輩がいれば、自分と同じような悩みを経験した人から、実体験に基づくアドバイスをもらえます。「どう乗り越えたのか」「どんな風に考えればいいのか」などなど、生の体験談は、ネットの情報や先生の助言とは違ったリアルさがあるでしょう。
困ったことが起きてもすぐ相談できる環境があると、心の安定にもつながりますし、メンタルの消耗もかなり防げますね。
私はというと、博士課程のあいだ、ほとんどの時間をひとりで過ごしました。博士の先輩もおらず、修士の先輩にもあまり頼れなかったんです。コロナ禍の影響で通学が制限され、研究室で人と話すことすらできませんでした。論文の読み方も書き方も、研究の進め方も、全部自分で試行錯誤。誰かに相談できれば一瞬で解決したようなことに、何日も悩んでいました。正直、かなりしんどかったです。
一方で、博士課程の先輩を持つ別研究室の同期は、楽しそうに研究を進めていました。壁にぶつかっても相談できる相手がいるから、行き詰まっても前を向ける。その様子を見て、何度も羨ましく思いました。「ああ、自分にも先輩がいてくれたら…」と、心の底から思ったものです。
みなさんには同じ苦労をしてほしくありません。ぜひ、先輩のいる研究室を選んでください。
研究室に博士学生を修了させるノウハウが蓄積されているから


博士課程の先輩がいる研究室には、「博士課程を修了するためのノウハウ」が自然と蓄積されていきます。先輩が自分の経験を後輩に伝え、後輩がさらに次の世代に引き継いでいく。そうやってラボ全体に“博士課程を生き抜く知恵”が受け継がれていくんです。
このノウハウは、ネットではまず見つかりません。学振の申請書の書き方、論文投稿のタイミング、修了審査のコツ──そういったリアルな経験則は、先輩から直接教わるしかないんです。そして、知見の積み重ねこそが「強いラボ」をつくります。
ノウハウが蓄積されるのは学生同士だけではありません。博士学生を何人も育ててきた教員は、指導の勘どころをつかんでいます。学生がどんなときに悩み、どんな助言を求めているかをよく分かっている。だから、適切なタイミングで背中を押してくれるんです。
反対に、私のいた研究室では博士号取得者が一人もいませんでした。指導教員にとっても、私が初めての博士学生だったのです。
そのせいか、正直いって、博士課程の進め方を教わることはほとんどありませんでした。困ってSOSを出しても反応がなく、誰にも頼れず、精神的に追い詰められていきました。当時は本当にギリギリで、今思えばよく持ちこたえたと思います。
博士課程でも、学振DCの申請でも、先に道を切り開いた人がいるかどうかで状況は大きく変わります。道を知る人がいる研究室は、間違いなく歩きやすいです。
だからこそ、みなさんには博士学生の先輩がいるラボを強くおすすめします。楽をしようという話ではなく、「無駄な苦労を減らす」ために。その違いが、博士生活の明暗を分けると思います。
最後に
ここまで、博士課程の先輩がいる研究室をおすすめする理由についてお話ししてきました。私自身、先輩のいない環境で博士課程を過ごしたからこそ、先輩の存在がどれほど大きいものかを痛感しています。
博士課程の三年間は、想像以上に長く、濃く、そして孤独です。実験がうまくいかない日もあれば、論文が通らず落ち込む夜もあります。
そんなとき、少し先を歩く先輩がそばにいるだけで、心の持ちようは全く違ってきます。「この人も同じ壁を越えてきたんだ」と思えることが、どれほど励みになるか。そのありがたみは、実際に体験した人にしかわからないでしょう。
博士課程の先輩がいる研究室では、研究環境が整っていることが多く、アカハラやネグレクトといった深刻な問題も起きにくい傾向があります。それに、先輩が築いてきたノウハウが蓄積されているため、研究や学振申請などもスムーズに進みやすいです。先輩からの具体的なアドバイスはもちろん、教員側の指導も経験に裏打ちされています。こうした「積み重ねのある環境」は、博士課程を乗り越えるうえで大きな支えになります。
私は、先輩のいない中で孤独に研究していたころ、何度も思いました。「ああ、誰かに話を聞いてもらえたら」「ちょっと相談できる先輩がいたら」──その一言を言える相手がいなかったことで、どれほど無駄な苦労をしたか知れません。
だからこそ、これから博士課程を目指すみなさんには、私のような遠回りをしてほしくないのです。
博士課程の進学先を選ぶとき、研究テーマや指導教員の実績だけでなく、「博士先輩がいるかどうか」にも注目してみてください。



研究というのは、たとえひとりでやっていても、結局は人とのつながりで支えられています。先輩が残したノート、助言の一言、雑談の中での何気ない気づき。先人による小さな積み重ねが、後輩を導き、研究室という生き物を育てていくのだと思います
博士課程に進むあなたが、誰かの「次の先輩」になる日が来るかもしれません。そのとき、今度はあなたが誰かを助け、励ます番です。助けの連鎖が続く限り、きっとどんなラボでも温かい場所になっていくはずです



















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