初任給明細発行
会社員の醍醐味は給与の高さ。アカデミアより数段上の待遇に恵まれ、余裕をもって働ける。
博士時代は本当にひどかった。額面で月給20万円だった。税金と社会保険料を差し引いたら、手取りは16万円と少し。生きていくだけで青息吐息。創造性を膨らませた研究などできるはずもない。昇給はない。頑張るモチベーションも無い。あまりに給与が低すぎて、もう嫌になって、大学院を飛び級して離れた。
弊社のD卒初任給は30万円弱。諸々を差し引かれても23万円は残る。しかも、弊社には借り上げ社宅制度がある。家賃の8割を弊社に負担してもらえる。手取りから家賃を引いた額を数えてみる。博士時代は10万円。会社員になったら21.5万円。可処分所得が大幅に増えた。弊社、万歳。一生ついていきます。
給料日の2日前、初任給の明細が発行された。検討に検討を重ね、検討を加速した結果、明細の公開は見送らせていただく。その代わり、明細を文字起こししたものを以下に示そう↓
支給金
・給与:98,980円
・通勤手当:28,520円
☆赴帰任費用:70,100円
計 190,600円
控除金
・所得税:2,700円
・雇用保険料:701円
・社宅料:14,900円
・共済会費:200円
計 18,501円
手取り
179,099円
弊社の給与計算は毎月10日締め。よって、今月は10日間働いた計算になる。研修を受けているだけで勤務扱いしてくれる。弊社は神。クールでセクシーな現人神。さすがに初月から28.5万円満額はもらえないか。満額支給は来月から。一か月後の給料日が待ち遠しい。
弊社は太っ腹にもほどがある。赴帰任費用で7万円もくれた。札幌から広島までの移動にかかったお金を概算で振り込んでくれたらしい。内定式の時は10万円くれた。今回は7万円。釣った魚にエサはやらぬということか。まぁ、いいだろう。移動に7万円もかかっていないし。弊社が太っ腹である事実に何ら変わりはない。
控除欄を眺める。社会保険料控除が見当たらない。ひょっとして、社長が代わりに払ってくれた? あるいは、来月の給与振り込み時に差し引かれるのだろうか。怖いな。10万円ほどゴソッと持っていかれるんじゃないか。今月の保険料は無かったことにしてもらえないかな。今月だけと言わず、来月も、再来月も、社会保険料の請求はナシでお願いしたい。
初任給、振り込み!

給与明細発行から二日後、初任給が振り込まれた。
明細を眺めたときにまず興奮。口座への入金を確認して再フィーバー。串カツの二度漬けはご法度。初任給の二度漬けは大歓迎。三度目も来い。弊社よ、もう一度振り込んでくれ。一度と言わず、二度振り込んでください。給料はナンボもらってもいいモノですからねぇ。金は力なり。力は、パワーなり。
初任給支給は二度目(ん?)。二年前の4月、学振特別研究員として19.5万円受け取ったのが最初。あの時よりも入金額こそ少ない。可処分所得は、会社員になってからの方が段違いに多い。生活余裕度に差がありすぎる。楽すぎる。笑けてくる。今までどれほど大変な生活をしていたのだろう。会社員さんって、こんなに給与をもらえるのに文句を言っているの? 現状、不満のひとつも出てこないのだけれども。居酒屋で愚痴を述べ立てる会社員さん。あなた方を全員、博士課程にぶち込んでやりたい。この世の地獄を経験させてやる。あそこを経験した後ならば、どこの会社もパラダイスに感じるはず。
お金の余裕は気持ちの余裕につながる。それは、日々の笑顔と活力をもたらす。大学院時代の困窮ぶりを思い出す。おぞましくなった。月二十万円でよく二年も生きられたな。あの頃にはもう戻れない。飢えとみすぼらしさから解き放たれた。博士新卒に怖いものはない。
会社の同じ教室には、初任給振り込みを知ってはしゃぐ同期がいた。そうか。コイツらにとっては初めての初任給か。きっと嬉しいんだろうな。「何に使ってやろうか…」と思っているんだろうな。さぞかし無敵感でいっぱいだろう。いいぞ、いいぞ。私の代わりに経済を回してくれ。ローンを組んで車を買いなさい。一軒家も建てなさい。結婚式も挙げなさい。若いころにお金を使わなくてどうするの。世間の偉いおじさんたちが皆こう言っているのだから。
私はどうするか。二度目の初任給の使い道は特にない。
マイカーにはなかなか手が伸びない。自分に運転させたら、広島が地獄絵図になる。家? どこかへ定住したい気持ちは無いんだよなぁ。これだけ混沌としたご時世に35年ローンを組むなど考えられない。結婚式? 相手もいないのに、一人で挙げてどうするの。浮いたお金で借金返済する。それから貯金か投資に回す。欲しいものはない。無駄遣いをしようにもできない。親へのプレゼントは、最初の初任給をもらったとき済ませた。親が還暦を迎えたときに何か買ってあげようかな。
初任給で浮かれていたら、重大インシデントに気が付いた。なんと、給与が「北海道銀行」の口座に振り込まれていた。事前に中国労働金庫で口座を作っていた。給与振込先に労金を指定したつもりだった。指定したのは、夢の中で、だった。頭の中のゆめタウンでの出来事だった。現実世界での指定振込先は道銀のまま。どうしようか。頭を抱える。
広島に道銀のATMはない。口座から現金を引き出せない。初任給を使うには、クレカ経由で道銀の口座に手を突っ込むしかない。広島では現金に頼らぬ生活を営まざるをえない。屋台でメシを買えない。散髪屋も、スーパーも、お好み焼き屋も行ける場所が限られてくる。不便極まりない。もう、マジで勘弁してくれ。不便は学生時代に終わったはずなのに。自業自得だ。もうどうしようもない。不便を受け入れる。また頑張るしかない。
8月末、北海道マラソンに出る。札幌へ行く。そのとき、道銀からお金を下す。給与振込先も8月に変えよう。8月までは我慢だ。クレカ一枚で耐え凌ごう。これからの4カ月間は不便を楽しみたい。あえて自分に猛烈な束縛条件を設ける。制約のもとで創造力を働かせる。どれだけ自由にふるまえるか、天照大御神から試されていると思って。自分を鍛える格好の機会。最大限、有効に使いたい。

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