こんにちは。札幌と筑波で蓄電池材料研究を行う現役北大院生のかめ (M2)です。
博士進学希望者を対象とした大学独自のフェローシップへM1のクリスマスイブに内定した経験がございます。
この記事では、そのフェローシップに関するアレコレをQ&A形式で解説します。
他の大学のフェローシップも似通った制度だと思うので、北大の院生だけではなく、他大院の学生にもある程度参考になる内容です。

それではさっそく始めましょう!
正式名称は?


私が内定したフェローシップは、北海道大学アンビシャス博士人材フェローシップ(情報・AI)という少々長いお名前です。
北大の中央図書館前には下半身を切断されたクラーク博士が鎮座しており、そのクラーク博士が札幌を離れる際に吐いた名台詞が本フェローシップの名称に使われております。
末尾に”情報・AI”とついているため、一見すると情報系だけの支援なのか?と思われがちです。
しかし、自身の研究が情報と少しでも関りがあるなら何の問題もなく申請でき、私みたいな電池材料系の学生も支援の対象となっていました。
申請書にも
- 研究成果の実用化・社会実装に向けた構想・アイディア
- 自身の専門分野と情報・AI との融合による社会貢献に向けた研究計画
といった項目がそれぞれ数行程度設けられております。
だから、情報分野との関連性をアピールできれば、どの分野の大学院生にも採択可能性があるという事であります。
本フェローシップ (FSと略します)への応募を決めたのは申請締め切りの3日前。それまではFSの存在を知りながらもスルーしてしまっていました。
というのも、私は当初



自分は情報系じゃないから応募できないよな…
と考えており、応募する/しないの前に”自分とは関係がない”と考えていたのです。
しかし、我が愛する指導教員から



かめちゃん、アレ (FS) には応募しないの?かめちゃんの研究分野は情報とかあんまり関係ないけど、そんなの良い感じにこじつけて書いちゃえばいいんだよ~笑
とアドバイスを貰い、そこでようやく”自分にも応募資格があるんだ!”と気付かされた訳であります。
そこから先は大学受験直前期ばりの集中力を発揮し、かなり駄文ながら申請書の項目を全速力で書き上げたのでございます。
我が指導教員がFSへの申請を提案してくれたのは、FSの財源が本予算ではなく補正予算の方に組み込まれていたからみたいです。
補正予算のため継続的な支援ではなく、もしかしたら来年度はFSの募集自体がなくなる可能性がありましたので、「募集がかかっているうちに最低限の生きる糧を確保しておいた方が何かと得策じゃないか」と仰っていました。
私のような例もありますから、理系/文系問わず、大学院に通っていらっしゃる方は応募する前から申請を諦めないで欲しいです。
情報科学の発展に伴いあらゆる分野とIT技術がリンクすると言われているため、裏を返せばどのような分野の研究者さんでも今回のような支援策に応募できるチャンスがあるということですから。
支援内容はどんな感じ?


FSの支援内容は以下の通り⇩
- 月15万円の研究奨励金(雑所得のため課税対象)
- 年40万円の研究費 (非課税です)
- 博士在学中の有償 (給与付き)インターンシップ
- 博士取得後のキャリアパス支援
私が把握していない内容もあるかもしれませんが、主だったものとしては以上4つの支援策です。
これを見て(えっ?ショボくない?)と考えるか(やった!お金がもらえる!!)と取るかは人それぞれ異なる気がします。
ちなみに私の場合は後者であり、FSの存在を知るまでは”学振を取れなかったらJASSOの第一種奨学金とTA&RAで生きて行こう”と考えていただけに、(国からお金を出して頂けるのはめちゃくちゃありがたいわ…)と、北大から霞が関の方角へ再三お辞儀した次第であります。
少しだけ欲を言わせてもらうなら、もうちょっとだけ生活費が欲しいですね。
博士学生は”学生”ではなく高度知的労働者なので15万円なら時給換算で最低賃金を余裕で下回っているし、もし学生扱いを譲らないならせめて月々の研究奨励金を非課税にしてもらいたいと思うのです…
また、個人的には博士在学中の有償インターンシップ制度がかなり嬉しい内容でした。
というのも、私は博士号取得後、一般企業へ就職しようと考えており、
- FS運営側が学生と企業をマッチングしてくれればインターン参加までの手間を省けるから
- インターン先で企業の人に気に入られ、早期に就職先を決められそうな気がするから
など、将来の不安が解消されるという点でインターン制度に魅力を感じたのです。
殿様商売である学振DCと対照的に、FSは国の”高度知的人材を増やしていきたい”という明確な意図を感じられる内容です。
財源が税金という事なので、FSに内定した時、(博士取得後は国へ貢献できるよう頑張ろう…!)と身が引き締まる思いでした。
申請当時の研究実績はどのぐらい?


私が本FSに申請したM1の11月末での研究実績は以下の通りとなっています⇩
- 論文2報:筆頭 1報, 3rd 1報
- 学会5回:国内 4回 (うち全国2回), 国際 1回
FSの申請にあたり、研究実績をどれだけ見られていたのかは正直イマイチ分かりません。
ただ、研究実績欄はスカスカよりも何か書けた方が良いでしょうから、今度FSに申し込む方は申請時に少しでも多く実績を書き記せるよう、この記事を読んだ直後から意欲的に研究活動を行って下さい。
応募倍率は?


驚くなかれ、我が専攻ではジャスト1倍 (3人申請、3人採択)でありました。
私としてはもっと熾烈な争いになると覚悟していただけに、年内に採択通知が来て拍子抜けしたものでした。
また、私の専攻のひと学年上は、博士課程への進学者が一人もいない状況でした。
したがってFSの申請倍率は0倍であり、なんと採用枠が余った形でございます。
東大や京大などの研究ガチ勢大学ならば、こうしたFSの募集に希望者が殺到すると考えられます。
しかし、北大は両大学と比較して博士に行く人間の割合がかなり低く、その割に支援予定人数が多いため、支援策を受けたい学生がほぼ確実にサポートを受けられる天国のような環境となっています^^
学振DCとどちらが厚遇なの?


学振とFSを比較すると、金銭的に厚遇なのは間違いなく学振の方でございます。
- 学振DC:研究奨励金月間20万円+研究費年間100万円以上 = 年額340万円以上
- FS:研究奨励金月間15万円+研究費年間40万円 = 年額220万円
このように、一年では120万円以上、3年間では360万円以上の差が両者についてしまうのです。
加えて、FSで得られるのは雑所得であるため確定申告をせねばならず、ただでさえ忙しい研究生活に余計なひと手間が加わります。
もし授業料や家賃を経費で落とせたり青色申告を利用したりするならFSの方が納税額が低くなるかもしれませんが、”手元に残る金額”という観点から鑑みれば学振の圧勝だと考えられます。
なお、FSによる支援を選んだ場合、博士課程入学後のRA雇用が確約された状態で入学できます。
そのため、もし授業料免除申請に不採択でも、支払う授業料は実質ゼロ (立替払い, のち支給)となっています。
風の噂によりますと、学振に採択されたら授業料免除やRAの申請ができなくなる大学があるようです。
国公立大の授業料は年間約53万円ですから、授業料非免除の学振DC採用者は240-53=187万円の中で一年間生活をやりくりする必要があるわけで、自由に使える金額はFSと大差ない状態となっちゃうため、「学振が必ずしも厚遇である」とは言えない場合があるようです。
他の奨学金との併用は可能?


FSの場合、可能であります。
この記事でたびたび話題にあげている学振ではJASSOの奨学金との併給は不可な一方、FSの募集要項には”可能”とハッキリ明言されているのです。
そのため、もしJASSOの奨学金返済が全額免除となったケースでは月々の収入が27万円、半額免除でも月額21万円の収入となるわけです。
コレで博士学生の暮らしぶりは随分と改善するでしょうし、私ももし学振に落ちていたら奨学金との合わせ技で生きて行く予定でした。
なお、JASSOの奨学金に関して言えば、博士課程では返済免除となる可能性が修士課程より高くなります。
半額・全額合わせて45%の人間が免除対象となりますので、修士で返済免除のチャンスを逃した方でも十分免除のチャンスがあるといえます。
今後の無慈悲なルール改訂により、ひょっとしたらFS&JASSOの奨学金の併給が不可になるかもしれません (既にその予兆がチラチラと垣間見えています)。
しかし私としましては、折角学振とは別の制度をわざわざ設けたのでありますから、(学振とFSが相互に良い影響を及ぼし合い、最終的には学振とJASSOの併給がOKになる方向へ進んで貰いたいなぁ)と願っています。
というのも、現在の博士学生に対する支援策は学振を上限(天井)として設計されているため、学振の一人頭の支援金額が向上しなければ、他の支援策の支給金額も向上していかないと思うのです。
数十年前と今とでは物価が全然違うのだから時代に合わせて支給金額も増額してもらいたいし、他の奨学金との併給がダメでも学振にはせめて副業 (バイト)をOKにして欲しいです。



今の東京で果たして月20万円で研究やって行けますか?って話です。家賃と授業料を払ったら、もう後にはほとんど何も残りませんよ…
フェローシップだけで生きて行けそう?


本FSはJASSO第一種奨学金との併給が可能ですが、もし奨学金を受け取らなくてもFSだけでどうにか食いつないで行ける計算となります。
簡単に胸算用をしてみると⇓
- 家賃+通信費&水道光熱費:月6.5万円
- 食費:月最大3万円
- 書籍代:月1万円
- その他雑費:月1~2万円
となり、私の出費は支援額15万円の範囲内に余裕で収まっていますから、税金や保険料を差し引いてもギリギリやっていける計算です。
また、私の指導教員は太っ腹なので大学外の出張では生活費として1万円/weekを支給してくれますし、博士課程に入ったら人件費としてさらに支給額を上乗せしてくれるそうだから、もし学振に落ちてもFSだけで十分やっていけそうな感じです。
もしかすると月3万円以上の貯金ができるかもしれません。その場合、M1の8月から始めたつみたてNISAを引き続きやっていくつもりです。
学振DCには応募したの?


学振に採用されずとも生きていけることが分かり、学振採択に向けて鼻息荒く頑張らずとも良くなってしまった状態です。
しかし、私は学振に向けて申請書を書き、M2のGW明けにソレを出してしまわなくちゃならないのでした。
確かに必ずしも学振に採択される必要はありません。しかし、学振に受かるため申請書を書く過程で今後の研究ビジョンを描きたいのです。
そして、もし学振に採択されればJASSOの奨学金返済免除申請の際に学振採択ポイントが加算されるので、タダで応募できるものに応募しない手はないだろうという訳であります。
私の同期で博士進学する4名のうち1人は、学振DC1に受かりそうなほど優秀なヤツです (註:予想通り、私だけでなくそいつもDC1に内定しました)。
彼は修士の奨学金返済免除レースにも参加しており、彼だけ学振採択ポイントが入って私に入らないとなりますと彼に返済免除レースを勝ち抜かれてしまうのです。
私は修士課程へ入学して以来、200万円をゲットするためだけに高いモチベーションを維持して暮らしてきました。
もしここで彼に200万を持って行かれたら絶望でしばらく立ち直れないと思うので、奨学金レースに勝つため学振に挑まなくてはならないのです。


もし学振に採択されたら、バイト禁止やらなんやらのしがらみを嫌い、内定を辞退する可能性がございます。
別に私はアカデミアに残る気は毛頭ないし、”学振”という経歴を私以上に欲している方へ譲る方べきだとすら考えています。
最後に
私がクリスマスイブに内定をもらった北大独自のフェローシップに関するQ&Aはこれにて完結となります。
この記事が北大の院生や他大学の院生の役に立つことを願いまして、本記事を締めくくることにいたします。


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