歓迎会
SHUCDECの部署配属からはや二ヶ月。会社での仕事にもぼちぼち慣れてきた。
仕事は大学院での研究とは別種の難しさがある。
会社ではチームプレーが求められる。SHUCDECのキャスト全員で商品リリースに向け踊っていく。先輩社員からは「アウトプット量の積分値が大事だ」と言われた。完成するまで懐にしまい込んでおくのではなく、20%や40%の出来でもチームに共有する。先輩キャストの力を借りて仕上げる。早きこと弾道ミサイルの如く、静かなること冬のミンミンゼミの如し。もちろん、私が先輩キャストの手助けをすることもある。化学的メカニズムの観点からの製品開発アドバイスを行っている。
会社員生活に馴染んできた。胸元に輝くSHUCDECのバッジを誇らしげに見つめる。広島のリーディングカンパニーの社員。誇らしい。胸を張り、背筋を伸ばす。日差しに照らされると乱反射する。眩しい。眩しくて外した(外したんかい)。途端に力が出てこなくなる。やっぱりつける。眩しくてまた外す。
ま、そんなことはどうでもいいのだけれども(じゃあ書くな)。
私の配属を祝って、チーム内歓迎会を催していただいた。広島駅南口の某居酒屋にて。
このお店、なんか入ったことあるなぁと思って見まわした。そうだ。先月、新人研修メンバーと一緒に飲みに行った店だ。ここは唐揚げとエビフライに定評がある。厚さ1センチもの極厚サクサク衣と、1ミリの極薄具材の奏でるハーモニーが印象深い。薄いからといってバカにしてはならない。薄いからこそご利益がある。噛めば噛むほど味が染み出る。衣の味しかしない。はい、どうもありがとうございます。
先月はSHUCDEC関連で二度の飲み会に出陣した。正直言って、二度ともあまり楽しめなかった。愚痴の多さとジェネレーションギャップに辟易させられた。飲み会への苦手意識Cが灯る。今回の飲み会も、実はあまり行きたくはなかった。主賓である以上は行かねばならぬ。心の中のリトル札幌デンドライトに「飲み会も仕事のうちだぞ」と言い聞かせて。
今回の飲み会は面白かった。上司から色々な むにゃむにゃ を教えてもらえた。商品開発の全体像や仕事の醍醐味について、じっくり話を伺い、勉強した。
私は年上の話を聞くのが好き。どれだけ聞いていても苦にならない。相手を喋らせるスキルがあるのだろうか。上司は気持ちよさそうに喋ってくれた。こちらもふんふんと、右から左に流して、また右に戻しながら多くの知識を得られる。相手もコチラも大満足。一石二鳥。コケコッコーだった。
飲み屋さんから出る直前、「かめちゃん?」と声をかけられた。回れ右すると、中学高校時代の同級生Tくんがいた。こんなところで出会うとは。驚きすぎて目がスッポンポーンと飛び出した。Tくんに両目玉を元に戻してもらう。
どうやらTくんもSHUCDEC勤めらしい。彼は三年目。修士を出て弊社に就職した。私は一年目。博士を飛び出して弊社に入った。八年間で描いてきた軌跡は違えど、交差し、合流し、ひょんなことで巡り会う。運命のルーレットは予期せぬ目を出す。これだから、人生は面白い。
Tくんから「今度ガルバ(註:ガールズ・バー)行こうや!」と誘われた。あのさ、合コンも行ったことないヤツに何を言っているんだ君は。お金を払って女の子の相手をして、機嫌を取って何が楽しいんだ。第一、女子相手に何を喋ったらいいか分からない。どう転んでもホテルになんか誘えない。せいぜい博士課程に誘うぐらいだろう。いつでも北大の某ラボを紹介してやるぞ。きっと先生も歓迎してくれるはず。
メチャクチャ楽しい飲み会だった。いつもこういう回ならいいんだけれども。
ストライキ
弊社は労働組合を持っている。毎年春、労組が徒党を組み、経営層へ殴り込みをかける。
「給料を上げんかゴラァーッ!」
『あぁ? クビにするぞボケが!』
「やれるならやってみろや。工場全部止まるぞオラーッ!!」
『それは困るんじゃボケ。話せば分かる』
「問答無用じゃー!!!」
『にゃぁぁぁぁぁ!!!』
テレビ番組ではテーブルを挟んで穏便に話し合うシーンが流れる。いかにも平和に片付けているぜとSHUCDECぶりを発揮している。実は、裏ではこうした血なまぐさい、仁義なき戦いが繰り広げられている。五・一五事件を想起しただろうか。会社のイヌたる我々は、撃たれるのか、あるいは撃つ側なのか。
財布の中でストライキが起きた。キャッシュカードが使えなくなった。五月に中国ろうきんで作ったばかり。一年生よりもピカピカな新品。財布にスタメン入りしてからまだ二カ月しか経っていない。二か月って、何日よ。60日で壊れるとは何たること。
何度も使っていたなら分かる。当該キャッシュカードはまだ一度しか使っていない。二度目の現金引き出しを行おうとしたら、ATMが「読みとれませーん(変なもん入れるな)」と吐き出してきた。最初はATMの方が壊れているのかと思った。別のATMで試すも、やはり変なもん入れるなと吐き出された。
キャッシュカードよ、きみはいつから異物になった。いつから働くのをやめたのか。FIREでもしたつもりなのか。まだ数百万円しか貯まっていないぞ。そんなのでどうやってFIREするんだ。家計の方が火の車になるぞ、FIREだけに。うるさい、黙れ。これから世界はますます混沌としていく。右肩上がりの株式市場も、上がり続けるか予断を許さない。FIREするにはもっとお金が要るはず。数百万円では心もとない。今ならまだ許してやる。帰ってこい。働け。キャッシュカードよ、仕事に戻れ。
一週間後に再度ATMチャレンジ。また、変なもん入れるなと吐き出された。どうやら本気でFIREしたらしい。使用者側に何の断りもなく。退職代行でも使ったのか。そんなにモームリだったのか。まだ一度しか使っていないのに? 管理職の気持ちが痛いほどよく分かった。無断で飛ばれるって、こんなにも辛いものなんだな。自分が会社を辞めるときにはモームリなど使わないでおく。モームリって対面で伝える。ウルサイって言われるのがオチだろうけれども。
さぁ、困った。お金を引き出せない。
私の給与は北海道銀行に振り込まれる。給与が振り込まれるたび、道銀から労金へことら送金する。移したお金を労金キャッシュカードで引き出す。道銀・労金・自分を頂点にした夏の大三角形。キャッシュカードが使えないとなれば話は変わる。点と点を線で結べない。完璧なエコシステムが崩れてしまう。どうしようか。どうしようもない。反語で悦にひたっている場合じゃない。
とりあえず発行元の中国ろうきんにチクる。「コイツ、退職代行使いやがりました」と。魂の抜けたキャッシュカードを窓口へ。『まぁ…… 大変ご迷惑をおかけしました』とペコペコ謝られた。謝るのはお姉さんの方じゃない。キャッシュカードに頭を下げさせてくれ。一日しか働いていないのに、何の断りもなく飛ぶなど言語道断。次やったら、今度こそ許さないからな。
一週間後、キャッシュカードが戻ってきた。留置所から書留で強制送還されてきた。ヤツの反省文も入っていた。「ぼくがわるかったです。ごめんなさい(テヘッ)」てへっ、じゃないんだよ。勘弁してくれよ。まぁ、いいや。不問に処す。ATMで動作確認。なんと、また変なもん入れるなとなった。一度も使っていないのに壊れてんのか!? キャッシュカードを前後逆に入れていた。ごめん、それは自分が悪かった。
コメント