広島生活春夏秋冬vol.4 一年目・7月編|訪問営業と七夕肉弾戦! ボーナスを溶かす追徴課税にヤサイニンニクアブラカラメ

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一日一食

最高気温が体温を超える日が続く。溶けてしまいそう。ホンマにもう勘弁してくれよ。一体いつまで暑さが続くのか。二週間予報を見ると、ずっと体温超えだった。涼しくなる望みがない。暑さ寒さも彼岸までと云うけれども、果たして本当にこの暑さは和らぐだろうか。

札幌の夏は気持ち良かった。札幌に行って夏が好きになった。札幌というより、北大のおかげか。あの大自然キャンパスが夏を好きにさせた。緑のカーテンが暑さを遮断する。木漏れ日がきらめく。川のせせらぎに身をゆだねる。ストレスなんかとは無縁の世界。あの緑が恋しい。北大、いい大学だったなぁ。

せめて夏だけは札幌に帰りたい。来年の7~8月は札幌でテレワークしたい。ついでに春と秋も札幌に帰りたい。新緑から紅葉の季節を全身で浴びて清々しくなりたい。冬だけは広島の方がいい。札幌で雪だるまにはなりたくない。

広島生活に目を転じる。

暑い。暑すぎてどうにもならない。咀嚼と消化が億劫で仕方がない。食事するのにも意外とエネルギーが要る。特に昼食。食後はもれなく眠たくなる。牛は凄い。これを日に何度もやっている。しかも全然眠そうじゃない。私は丑年だが、牛には敵わない。もう少し牛をリスペクトしなければならない。チー牛だなんだと言っていられない。今のままではいけないと思っている。だからこそ、いまのままではいけないと思っている。

食事が嫌なら、食べなければいいじゃない。

そうか、食べなければいいのか。
無理に食べなくてもいい。食べない方が楽かもしれない。しかめ面で食べたら食べ物が可哀そう。どうせ食われるなら旨そうに食われたいだろう。そうか、分かった。昼食を抜いて一日一食にする。

平日に昼食を抜いたら周りから変人扱いされる。会社は横並びが貴ばれる場所。自ら進んで出る杭になって、目を付けられるリスクを背負うのはやめておく。人体実験を試みるのは週末。土日、試しに昼食を食べずに過ごした。

11時ごろからお腹がすき始める。胃腸が「メシの時間だぞ」と合図する。無視して淡々と本を読み続ける。胃腸も目を見開いただろう。今日は出番ナシなのか、と。空腹のピークは14時。胃腸が「メシだメシだ、なんか食え!!!」とわめき散らす。無視する。15時過ぎには空腹感が失せた。一周回ってお腹いっぱいになった。さすがに一日一度ぐらいは食うかと、18時からご飯を食べ始める。爆食いを予想していたが、普段と変わらぬボリュームで満足できた。

一日一食にしたらどうなったか。

昼過ぎから『欲』が消失した。食欲をはじめ、性欲や睡眠欲など、三大欲求と無縁になった。心の波がどこまでも凪いでいた。これが解脱の境地なのかもしれない。本なんか読んでも駄目だったんだな。一日一食にすれば解脱できた。血糖値が落ちていたのもあるだろう。気を失いそうなほど脳内が澄み渡っていた。ハッキリ言って、気持ちが良かった。平和すぎて、微笑みの国の住人になった。

要は、だ。我が欲望の支配因子は「「食事」」だったわけだ。昼食なんかとるから眠たくなる。食べすぎだから”彼女が欲しい”だなんだとみっともなく騒く。冷静に考えろ。彼女なんか、できるわけ無いだろう。100mを9秒台で走れるか? マラソンを1時間台で走れるか? 無理だろう。だったら彼女も無理だ。そろそろ現実を見た方がいい。諦めて他の方面へ精を出すべきではないか。

一日一食で欲望が消えた。唯一、増進した欲がある。創造欲。コイツだけは増した。モノを作りたい。研究したい。新たなる世界観を拓きたい。文字を打つ手が止まらなくなった。直観の冴え渡ること、バイカルハナウドのごとし。今まで以上に訳の分からぬ詭弁論術を振り回せる。無敵になった。

チー牛

プロンプト:吉野家でチーズ牛丼をこれ以上なく幸せそうに食べる、スーツ姿のスーパーエリートサラリーマン

SHUCDECの弊社。福利厚生の一環として、SHUCDフレックス制度(Flex System)を採用している。いつ来ていつ帰っても構わない。裁量労働制の一歩手前といったところ。月間就業時間さえ足りていれば、人事部のポニョから詰められることは無い。

広島市は120万人都市。人口規模の割に電車の車両数が少ない。7時台の電車は人で混み合う。混雑しすぎて、天井に人が突き刺さっている。窓にしがみついて乗っている人さえいる。ちゃんと運賃を払っているのかちょっと気になる。SHUCDFSを使えば出勤時間帯をスライド可能。ガラガラの電車に乗って、悠々と、社長よりも社長出勤できる。

行きはいいんだ、行きは。問題は帰り。ちょっと信じられないほど混み合う。弊社の最寄り駅から弊社員が大量乗車。電車がワッサワッサ揺れる。いかにも大船に乗った気分だ。

SDUCDFSなら帰宅時間もズレるはず。なのに、ズレない。人が分散しない。我々間接職種の人間は分散する。工場勤務の作業員さんら生産部門の人間は分散しない。我々は普段、別の場所で働いている。帰りの電車で合流して満員電車ラプソディーを奏でる。乗車率は300%超。息もできない。帰宅だけでストレスがたまりまくる。

今まで3か月間耐えてきたが、とうとう我慢できなくなった。帰宅ラッシュのストレスに限界がきた。

満員電車が嫌だから広島に帰ってきた。なのにココでも満員ってどういうことだよ。電車に乗るぐらいなら、走って帰った方がいい。最寄り駅のひとつ前で下車。家まで4km。ナイアガラの滝のごとき汗を流しながら帰路を駆けた。それでもストレスは収まらない。こういう時は、食に走るのが良い。

家の最寄りに吉野家がある。牛丼提供のリアルタイムアタックに挑戦するアスリート集団。どこぞのブロガー曰く、最速20秒で出てくるらしい。なんか、猛烈にチーズ牛丼を食べたくなってきた。チー牛になりたい。いや、そうじゃない。なりたくはない、チー牛を食いたい。チー牛になる。いやいや、ならないんだって。チー牛を食うぞ。絶対に食らう。

吉野家の のれん をくぐろうと試みる。店舗が暗い。今日は休業日。ダメだ、入れない。そうかといって、チー牛熱はそう簡単には収まらない。どころか、加速度的に上がっていく。脳が熱暴走を起こし始めた。検討に検討を重ね、検討を加速する。チー牛を食うか、チー牛に食われるか。食われるぐらいならまだ食らう方がいい。ゆめマートで牛肉と玉ねぎと、隠し味のショウガを買った。

すき焼きのタレに牛肉を放り込む。タレがスプラッシュ。たちまちコンロがキャンプファイヤー。チー牛が吠えている、夕日に向かって。そりゃそうだ。今から食われるのだから。暴れても無駄だぞ。お前はもう、死んでいる。慌てて消火。火事だけはまずい。玉ねぎをぶち込む。蓋をして5分待つ。開けると、もう出来上がっていた。美味しそうなチー牛の燻製が完成した。

チーズを振りかけ、幾何学的模様を作る。エッシャーのだまし絵でも作ろうか。みるみるうちにチーズが溶けていく。耽美な芸術的構想が10秒で崩れた。袋に手を入れ、チーズをひと掴み。ドサッとかける。思い残すことの無きように。DeepLで”チー牛”と入れたら、ブリカス英語でTibetan antelope(チベットかもしか)と出た。チー牛って、カモシカのことだったのか。博士号を取っても知らないことばかり。

チー牛を食らう。噛んで噛んで、何度も噛みしめる。満員電車で絞り取られた気力が急速充電される。頭の中にチー牛が一匹、また一匹と増えていく。旨くて旨くてたまらない。チー牛は旨い。もうバカにはできない。チー牛が一匹。チー牛が二匹。チー牛が三匹… 眠くなってきた。落ちかかる瞼をこする。チー牛を完食。ああ、美味しかった。

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