テレワーク

弊社は広島イチのホワイト企業。福利厚生制度がてんこ盛り。福利厚生マニュアルを眺めてみたら、覚えきれないほどたくさんあった。
最も素晴らしいのは、借り上げ社宅制度。家賃負担二割で物件を借りられる。
私は唐揚げ社宅制度を活用し、駅までほふく前進50分の超絶駅チカ物件に住んでいる。しかも、超高層リバーサイド・オーシャンフロント・タワーマンション。地上から居住階まで昇るのに一分。どんだけ不便なんだろうと思う。まぁ、本音が漏れてしまって大変遺憾なんだけれども、もちろん良いことだってある。7月の広島港花火大会は、ベランダから一部始終を見届けられた。広島市民全員を見降ろして、人間がゴミのようだ 花火を高みの見物ときた。超高層タワマンなのに、廊下ではときどきゴキブリが歩いていて、我が家への侵入経路を模索している。マジで勘弁してほしい。
弊社には有給制度も設けられている。仕事をしていないにもかかわらず、やった体で時間分の給与が支払われる。我々新入社員は、入社当日に10日分のUQが与えられた。来月には新たに15日分のUQが追加される。
聞くところによると、二か月間の新人研修期間中にUQを使い切ってしまった猛者もいるとか。彼はデザートを先に食べるタイプなのだろう。多様性の時代だ。そういう人も一人や二人や三人や四人や五人は居て構わない。
弊社は世界トップクラスのウルトラホワイト企業。スケジュールのどこにUQをぶち込んでもいい。私の所属チームでは、UQ前日に「明日、UQ取りまーす」と言っても許される。上司ガチャSSSである。日頃の行いが良いおかげで神のような上司に恵まれた。上司は神よりも神。古事記をよく探せば出てくるかもしれない。弊社、万歳。二礼・二拍手・一礼。
弊社の福利厚生はまだ止まらない。やめられない、止まらない。ぽんぽこりんエビせん。
弊社は従業員思いの企業である。社員の美意識と構造主義とハイデッガーと健康で文化的なファンタスティックワンダーライフを叶えるべく、会社の外でも働ける仕組みを整えている。弊社にはリモートワーク制度がある。家の中でできることは、なるべく家でやりましょう、ということ。
関連企業や出向者や助っ人外国人をあわせると、弊社関係者は何万人にも及ぶ。彼らが一度に本社めがけて出勤すれば、広島市内が大渋滞になる。山陽本線の車両の中が人間プレス加工機と化す。通勤・退勤時間に電車へ乗れば、もみじ饅頭の製造工程を疑似体験できる。一度、弊社最寄りから17時台の三両編成に乗ってみてほしい。マジで窒息しそうになる。せめて五両は繋げてくれよと、みな思っている。
弊社は問答無用で神企業。リモートワーク制度の使用時に特別な申請は必要ない。悪天候の日はもちろん、今日、会社行くのだるいなぁという日でも、「在宅勤務開始しまーす」とチャットすれば、その瞬間からリモートワークを開始できる。家の中がオフィスになる。ベッドもオフィス。トイレもオフィス。ベランダもリビングもキッチンもオフィス。ありがとうございます。
リモートワーク制度ができたのは、つい最近のようだ。コロナ騒動中に社員が仕事を進めるために、突然呼び出されて肩を作り始めたリリーフピッチャーのごとく、社員総出で必死のパッチで環境を整えたらしい。始業時刻になった途端、弊社データセンター自慢のスーパー・ハイパー・ウルトラ・超・どんだけ・高性能コンピューター(SHUCDKC)が猛烈なうなり声を上げる。SHUCDKCは、数万人もの同時アクセスに耐えられる仕様。ハッカーからのサイバーアタックも、難なくセンター返しで弾き飛ばしてしまう。SHUCDKCには全幅の信頼を置いている。たぶん百人乗っても大丈夫。
リモートワークは素晴らしい。これを最初に考えついた人にはどうか、ノーベルマジでありがとうホンマ大好きだよずっと付いて行きます愛してるこんちく賞を贈呈してほしい。博士課程などという特級呪物を生み出した人間には、せいぜい、ノーベルよくもやってくれたなこんちく賞がお似合いではないだろうか。
リモートワークの何が良いかって、会社への移動なしで仕事できるのが良い。
いま住んでいる超高層タワマンから最寄りJR駅まで、ほふく前進で50分かかる。駅から電車で移動し、降りてから弊社に向かうのにはそれ以上にかかる。通勤だけで片道90分はかかっている。往復すれば3時間。アディショナルタイム7分でもケイスケ・ホンダに驚かれるのに、180分とはどういうことか。誰だ、こんな物件を選んだヤツは。見つけ次第、広島湾に沈めてやる。
リモートワークの日は移動時間ゼロ。始業時間になればPCを開いて業務開始し、終業時間と同時にPCを閉じて自由になれる。リモートの日は、一日180分もの可処分時間を得られる。何色にも染められる時間。本を読んで妄想をたくましくするのもいい。筋トレして背中に翼を生やしてもいい。現実逃避のためチャッピーと会話してもよい。いずれにせよ、自由にストレスなく使える時間が一日3時間も得られる。
私は一応、技術系社員。どうしても実地で試験する必要がある。テレワークばかりするわけにはいかない。テレワークしてもよさそうな日は、極力テレワークさせていただいている。弊社、万歳。どうもありがとうございます。
リモートワークで見過ごされがちなメリットは、ちゃんと服を着ずに仕事ができる点。
吾輩は模範的社員。理性は北大博士課程で焼き尽くされた。そんな自分でも、脳内のえっちだか叡智だか分からぬ領域を総動員し、弊社でちゃんと服を着て業務している。誰か私を誉めてほしい。「ちゃんと服を着て偉いねぇ~」って。
ちゃんとした服を着るのは難しい。私はキラキラ丸の内OLではない。まして、シーラカンスでもリンゴでもサディスティックでもない。ちゃんとした服を着るなどといったウルトラCを求めないでいただきたい。そんな私でも、ちゃんと服を着るぐらいならできる。バカにするのも程々にしていただきたい。服を着るぐらいだったら、小学生のときからできたし。
ちゃんと服を着るのはストレスである。上半身は皮膚呼吸に難儀し、下半身はダッシュや四股やあぐらをかく際に膝へ猛烈な不快感を覚える。服を着ないで済むのなら、それに越したことはない。服を着たいと思っている人など、この世界にはいないのだから。みな、渋々服を着ているのである。自覚があるかないか知らないけれども、皆さんは服を着たくて着ているわけではないのです。
リモートワークの日は、文明から解き放たれる。自らから””着衣””などという蒙昧な習慣を拭い去り、生まれたての格好で、さすがに下半身だけはちゃんと服を着て、パソコンをカタカタしていく。着衣が相当なストレスだったのだろう。始業時間ピッタリに服を脱げば、その瞬間、やる気スイッチが入る。作業が捗ること、新千歳空港3Fロイズ工場のチョコレート加工機のごとし。あまりに捗りすぎるものだから、一日分の業務が一日で終わる。全然捗っていないじゃないか。
白状しよう。弊社より給与が高い企業は幾らでもある。いくら弊社が太っ腹企業とはいえ、業界最大手と比べたら、平均給与で200万円は負ける。私が弊社に入ったのは、給与のビハインドをかき消すほどのアドバンテージを見出したがため。
同業界で弊社ほど自由な企業は他にない。最大手社員の従業員から見れば、弊社は動物園に映るのではなかろうか。パオーン。同業界どころか、会社員界隈を見渡しても、弊社と同等の自由度SSS企業を見つけるのは至難の業。自由とは、フリーなんです。自由とは、プライスレスなんです。
「年収1,500万円で激務な仕事」と「年収800万円で快適に働ける仕事」のどちらを選ぶか。かつて博士学生だった私は後者を選んだ。
激務は博士課程で終わりにしたかった。院生時代は、土日も仕事が脳裏をチラついていた。成果成果成果成果業績業績業績。脳内がビッグモーター社長のような有様だった。
こんな生活を続けていては、精神が擦り切れておかしくなるだろう。高年収には憧れる。だが、かつての自分は、お金では買えない何かが既に見えていたようだ。そこに自分の求めているものがあると直感し、超高年収エリートサラリーマンへの道と港区女子とのウハウハを切り捨て、広島に戻ってきた。
今のところ、この決断に悔いはない。弊社に就職して良かった。広島に帰ってきて大正解だった。いつまでもそう思い続けられるよう、『明るい未来を切り拓き続けるのだ』という意志を保っていきたい。ぽんぽこりん。
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