どしたん、Aさん？

確かにそろそろ決めなアカンねぇ。企業に就職するなら業界を絞り始める頃合いやし、博士進学 (D進)するなら学振DC1の申請書を書き始めるタイミングよな。起業に関してはよう分からんけど…
Aさんは結局どうするの？もう決めた？

そーなんや！
それでそれで…？

そらはよ言うてあげな。両親もAさんが就職するんか/D進するんかどっちなんやろってめっちゃ気になっとるはずやで

分かった。ほな今から、Aさんが親へどうやってD進を報告すればいいか解説していくわ。ちなみにAさん、彼氏にはD進するって報告したの？

じゃあ、親と恋人にD進の理解を得る方法を話していくわ。オレも親にD進を伝えるのに少し苦労した経験があるから、実体験を踏まえてAさんにD進報告法をレクチャーできればえぇなと思う

それじゃあ今から解説するね (*≧∀≦*)

具体的な伝え方の言葉というより、伝え方のポイントを話していくわ。D進を報告するとき、以下の4つのポイントに注意してほしい⇩
①安心させる
②実利を説く
③お金はある
④最後は気持ち
これらを過不足なく抑えて伝えられたら大丈夫や👍

せや。両方ともこの四要素を抑えてD進への理解を求めてみて欲しい

せやけど、これだけじゃまだよう分からへんやろ？以下の項で一つずつ、それぞれ何に注意すればいいか説明していこ思うわ

日本でも海外でもどこでもそうなんやけど、大学院の博士課程まで進学する人ってなかなか居らへんのよ。文系の学生は大半が学士課程で、理系学生も圧倒的多数が修士課程で抜けて行く。博士課程まで行く人はほとんど居らん。オレらが社会の中でも少数派に属するのは分かるよな？

ノイジーかどうかは置いといてやな、
少数派ってことは、博士課程修了後に参考にできるロールモデルが少ないってコトや。『自分が将来、どんな人生を歩んでいくのか見通しを立てにくい』って意味。博士修了後、研究者になるにしても、企業へ就職するにしても、あまりに前例が少なすぎるからどうやって研究者になればいいか/就職すればいいかが分からへんのよ。オレらでさえよう分からへん。まして、Aさんの親や彼氏にAさんの将来像が描けるワケがない

せや、その通りや。要するにAさんの周りの人はAさんのことが心配でたまらんのよ。何も、Aさんの不幸せにを願ってD進に反対しとるわけやない。Aさんが博士課程に行ったらどんなことになるか想像できひんから反対のポーズを取っとるだけ。Aさん、修士進学するときは誰からも止められへんかったやろ？それは何故か？『2年で修士を出て、就職して、結婚して…』という人生のロールモデルがあったからや

Aさんの目の前には『就職』と『D進』という二つの道があった。就職の方はD進と比べて未来に対する不確定要素が多くないし、親や彼氏もソレがどんなもんかはある程度想像できるよな？

自分の未来像を勝手に描いてしまうことや。【博士課程を3年で出て、その先は企業に就職して、○○歳で結婚して～…】のようなモデルを自分で作っちゃうんや。別に確定していなくても構わん。D進前にD進後の未来が決まっとる方が珍しいわ。未確定でもいいからモデルを作る。んで、それを自分の説得相手に伝える。”未来をちゃんと見据えていますよ”ってアピールするんやな。それを聴いた相手は「あぁ、良かった」と安心してくれる

うん、してくれたよ。「博士号を取ったら広島に帰って某自動車会社に就職するわ」とまで言ったからな。半分冗談・半分本気。企業名を掲げることでリアルさを醸し出し、難なく説得に成功した。最初はD進に反対されたよ。せやけど、しまいには「博士課程に行きなさい」ってプッシュされたわ。何が何だかよう分からへん笑

せやせや、やってみて^ ^

ちなみにAさんはどうして博士課程に行くの？

…っていうのをAさんの周りの人に伝えるんや。Aさんが研究を続けることで社会が良い方向に変わっていくんやろ？じゃあどう変わっていくか、変わっていった先にはどんな未来が待っているか、どんな未来を作りたいか、その世界観を熱弁してまえ

伝わるように分かりやすく話すんよ笑！
Aさんの普段のプレゼンみたいに専門用語のマシンガンを繰り出したらアカン。研究をやったことのない高校生、いや中学生にでも伝わるぐらいの抽象度で話すんや。オレらがやっとる研究の原資は科研費。科研費は国債や国民から集めた税金から賄われとる。研究費の出資たる国民には、研究費を使って行われた研究の成果を知る権利がある。そして、研究遂行者たるオレらは、親や恋人を始め、国民に対して研究成果を伝える義務がある

せやろ？研究成果を素人に分かりやすく伝える活動を『アウトリーチ』と呼ぶらしい。D進するにあたってAさんが親や恋人にする説明はアウトリーチの良い練習になると思うわ

あと、研究で成果や論文を出す過程でAさん自身も成長するよな？専門知識/技術が身に着いたり、段取り力や論理的思考力が高まったりする。つまり、D進は自身のスキルアップの機会でもあんねん。「スキルを高めに行きたい」って言っとる人間に反対する人は少ないやろ？まして、博士課程はスキルを磨き続けな卒業できひん。3年間で規定本数の論文を出版するのは難業やから

Aさんの研究が社会を良くし、研究に従事しとるAさんまで自ずと成長を遂げる。社会もAさんも利益を享けまくりなんや。そこんとこを上手く伝えれば周りも納得してくれるよ。納得してくれへんかったら次とその次の項を参考にして。オレの場合、電池の基礎 of 基礎 of 基礎研究をするから、研究の意義を親になかなかうまく伝えられへんかった。ふにゃふにゃ適当に誤魔化していたら「まぁ、何かには役立つんやろうなぁ」と相手も納得してくれたよ

うっ、うるさい！僕はソレで説得できたからいいの！猫パンチするぞ？吾輩は猫である…

修士課程までは学費や生活費を出して貰うとったかもしれへんけど、博士課程にまで進学したら大半の学生は自活せなアカンくなる。Aさんの家はどんな感じ？

D進者に対する金銭的支援があるのは知っとる？

よう知っとるやないか。他にも企業や財団が用意する奨学金制度、指導教員にお願いしたらやってくれるかもしれないリサーチ・アシスタント制度があるな。
まぁ、各制度の仔細は脇に置いておこう。AさんがD進後、自活するには、これらのどれかを利用せなアカンわけや。応募者全員が採用されるのはJASSOの奨学金ぐらい。あとは選考を突破して内定を掴み取る必要がある。学振DC1の競争は特に熾烈を極めるで。なったら毎月サラリーマン級の報酬を受け取られる代わり、なるには倍率6倍もの狭き門をぶち抜かなぎゃならん

勝てるかどうかは運も関わるからさておいて、『勝てる見込みが少なからずある』と説得相手に証明するのが大切や。論文出版、学会賞受賞、国際会議参加などで実績を少しずつ積み上げておくことやで。Aさんが業績を挙げれば挙げるほど上記制度への内定が近づく。結局、学振DC1も半分は業績勝負やからな。ズラリと書かれた業績リストを見た審査員はAさんを有能やと思わせてくれる。審査員だけやない。親や恋人もAさんの不断の努力を認めざるを得ず、「研究を応援するよ」と言うしかなくなるわ

せや。せっかくリストを作るんやったら説得にも使ってやらな勿体ないやろ？業績がズラズラいっぱい書かれたリストを見たら、相手も (Aさん、めちゃめちゃ頑張っとるやないか…！) と自然に感じてくれるはずやで。
D進を報告するまでにお金に関する何らかの目途を立てられているのが一番えぇな。オレの場合、M1の12月にJSTのフェローシップへ内定し、その翌月、正月に親へD進を伝えた。「お金はある。自分のカネでD進するから特に何も文句はないよな？」と。こうなったら親かて何も言われへんよね。「好きにせい」のひと言で終わったよ

ほな、学振DCの滑り止めでフェローシップに申し込んでみたらえぇ。フェローシップやったらM2の前期 (M1の後期??)に結果が分かるやろ。フェローシップの内定用紙を親や恋人の鼻面に叩きつければいい。「ウチはコレで生きていく。えぇよな？」ってドヤ顔で言ってまえ。フェローシップに当たれば学振に落ちてもまぁ大丈夫や。学費全額免除＆月18万円の生活費を貰えるからな。もし足りひんかったら彼氏に養ってもらえ。親でもえぇ。オレは知らんで。
フェローシップにも学振DCにも当たったらフェローシップを辞退すればえぇ。Word一枚に辞退理由を記して送信すれば仕舞いや

無理に詰め込み過ぎたらしんどくなるよ。自分のペースでゆっくり・着実に一つずつクリアしていってね^ ^

そうやね。研究に対する狂わんばかりの情熱を見せ、「コイツを止めても仕方がない」「どうせ何を言うても聞かへんやろ」と相手に思わせられたら勝利やね
Aさん、研究は好き？

どれぐらい好き？

誰かにD進を説得するときだけは脳内で『研究が世界で一番好き』モードを作り出して欲しい。説得するとき”だけ”やで？説得を終えたらちゃんと元通りに戻らなアカンよ

それやと彼氏が可哀そうやがな泣！説得時「だけ」よ、分かった？

せや。イーロン・マスクを想像して欲しい。あの人、【絶対に世界を救うんだ】っちゅう使命感だけでひたすら前へと突き進んできたんや。最初は色々上手く行かへんかったようやが、いつの間にか時価総額世界一位の自動車メーカーを作り上げた。オレらもあの狂いっぷりを少々真似してみるべきや。”世界に自分を止められる者は誰一人居ない”っていうぐらいの狂いっぷりをな

Aさん、確かにくっそワガママやもんな。Aさんにかかると何でもAさんの言う通りになってまうもん。あー、恐ろしい、恐ろしい

いや？別に何も言ってないけど

今日伝えたことのおさらいをするね。親や恋人にD進を伝えるとき
①安心させる：自身の未来像を説くことで相手の心配を解消してあげる
②実利を説く：研究を続けることで社会や自分がどう良くなるか聞かせる
③お金はある：進学原資を確保し、反対されるスキを無くす
④最後は気持ち：止めても無駄やと思わせる
これ等をちゃんと伝えるんやで

ほな、説得に挑戦してみて。もし分からなかったらまた聞いてな^ ^