北大と国研で研究している化学系大学院生かめです。日本学術振興会特別研究員DC1として日本政府からお給料をいただいています。
本サイト『札幌デンドライト』では、毎月の収支を「日本学術振興会特別研究員DC1の懐事情」として掲載しています。特別研究員の生活実態を知っていただくため、毎月の家計簿を公開しているのです。
特別研究員の月給は、2024年時点でちょうど20万円。最終年度に限り、特別手当が加算されて月額23万円が支給されます。一見すると充実した支援制度に思えるかもしれません。しかし実際には、税金や社会保険料の控除により、手元に残る金額は20万円を下回るのです。特別研究員を目指す方にとって、具体的な手取り額を知ることは重要です。
そこでこの記事では、日本学術振興会特別研究員DC1の所得から差し引かれる項目について解説します。特別研究員の経済事情に興味をお持ちの方はぜひ最後までご覧ください。
それでは早速始めましょう!
控除されるのは税金と社会保険料と授業料
学振特別研究員の給与を目減りさせるのは以下の3つ⇩
- 税金:所得税、住民税
- 社会保険料:国民年金保険料、国民健康保険料
- その他:主に授業料
それぞれについて一つずつ解説します。
税金
税金には所得税と住民税の二つがあります。所得税は毎月の給与振り込みから源泉徴収。住民税は採用二年目以降、毎年6月に郵便ポストへご丁寧に投函される振込用紙から振り込むことに。
所得税:月2,670円
研究遂行経費枠を申請した場合、所得税額は月々2,670円。研究遂行経費枠へ申し込まなければ所得税額がもう少しだけ増えるでしょう。採用期間中の税額は変動しません。最初から最後までずっと2,670円が源泉徴収されます。特別研究員の所得は「給与所得」。雑所得ではなく給与所得である以上、JSPSからの所得税回収を免れられません。
住民税:年間35,000円
住民税を取られるのは採用二年目から。二年目の6月、下宿の郵便ポストへ居住自治体から振込用紙が届きます。一年分の住民税を2~3回で分割払いするか、それとも一括払いするかを選択可能。札幌市に住む私の場合、D2・6月に支払った住民税は35,000円 (月額換算で2,916円)。
住民税は、給与の受給額に対してかけられます。受け取る額が多ければ多いほど支払う住民税の額も単調増加する傾向に。二年目に支払う住民税は、一年目の4~12月の9か月分に対して課されます。三年目に支払う住民税は、二年目の1~12月の12か月分に対して課されるのです。つまり、二年目よりも三年目の方が支払住民税額が多くなるでしょう。シミュレーションアプリで三年目の住民税額を見積もったところ、「年額4万円超え」という恐ろしい結果が算出されました。
【豆知識】特別研究員として給与をもらってしまうと、博士課程を修了して会社員になった”初年度”から住民税の支払いが待ち受けています。新生活が始まったばかりで金欠な時期に住民税を支払わされるのは辛いことこの上ありません
社会保険料
特別研究員は社会保険料も取られます。取られるのは①国民年金保険料、および②国民健康保険料の2つ。
国民年金保険料:月16,520円
特別研究員になったが最後、学生納付特例を使えなくなってしまいます。所得額が納付特例の対象条件から大きくはみ出てしまうためです。年金の支払いは国民の義務。支払わなかったら銀行口座を凍結され、手持ちの財産を没収され、挙句の果てに逮捕される可能性も。D1の7月まで年金を支払わずにいた所、スマホへ年金の支払い催促電話が届きました。”払わなったら財産没収になります”とのことで、仕方なく払ったのです。
超高齢化社会の到来により、いまの20~30代が年金をいつから受給できるか分からなくなってきました。少なくとも払い損になる未来だけは確実です。払えば払うだけ損になるのは間違いありません。けれども、払わなかったら払わなかったで痛い目に遭うから払わざるを得ない。年金保険料は月額16,520円。年間払いや二年分の前払いでちょっとだけ割引になる制度も。私の場合は月額払いを選択。年間払いできるほどの潤沢なキャッシュが手元にありませんでした。
国民健康保険料:月1,900円→10,800円
特別研究員は給与所得を貰えます。給与所得を受給する以上、加入するのは保険料が労使折半な健康保険なはず。しかし、実際に加入するのは国民健康保険。区役所へ行って加入申請して、毎月の保険料を100%自分で支払う必要が。いったい我々特別研究員はなぜ健康保険へ入れないのでしょうね。そろそろ本格的に制度のゆがみを修正してもらいたい所です。
国民健康保険料の支払いは年度によって異なりました。札幌市北区に住む私の場合、初年度の支払いは月々1,900円、二年目の支払い額は10,800円でした。初年度ぐらいの支払いならまだ耐えられます。毎月の保険料が一万円を超えてくると流石に辛いです。しかも私、風邪さえ滅多にひかないほどの超健康体なんですよ。払えば払うだけ損になるのが確定なのにお金を払い続けるのは辛すぎます。
その他
特別研究員の手取りを減らすその他の要因は授業料支払いと奨学金の返済。どちらも支払い減免制度があるため、必ずしも全員が当てはまるわけではありません。
授業料:年間535,800円(免除制度アリ)
我らが北海道大学の年間授業料は535,800円。もともと高い私立大や、慶應からの圧力で授業料が値上がりした東大はさらに高いでしょう。仮に535,800円を満額支払うとしましょう。月々の支払額は44,560円になります。給与所得の額面の22%に相当する額を授業をほぼ受けていないのに取られるわけです。4.5万円の支払いはキツい。ハーゲンダッツアイスクリーム130個分ですからね。
私はありがたいことに、在学期間中の授業料支払いが全額免除になりました。
D1までは、他の人と同様、七面倒な支払免除申請書類を作って学期開始前に申請していました。D2に進級して以降、学振内定者&採用者がもれなく全額支払免除確約となったのです。授業料支払いに関する負担がなかったおかげで金銭面で苦しまずとも済みました。北大さん、北大へ予算を割いて下さった官僚の方々、本当にどうもありがとうございました。
修士課程在籍中のJASSO第一種奨学金返済:月6,280円
奨学金を学部時代から借りていた方は学部&修士の六年分、修士時代のみ借りていた方は修士二年分の返還が始まります。私の場合、修士の二年間だけ借りていたため二年分の返済が始まりました。幸運にも、奨学金の返還が半額免除に。返還額が合計100万円強で済んだのです。月々の返済額は6,280円。D1の10月から分割返済を始め、D2の8月に残額を一括繰上返済して借金生活を終えました。
なお、JASSO奨学金には「在学猶予制度」が設けられています。博士課程の間に借金を返すのが厳しければ、博士課程修了後まで返還開始を待ってもらって学業へ専念することも可能です。
その他の控除額以外を足し合わせたら月32,906円
学振特別研究員の月々の控除額はおよそ3万円。20万円の給与と謳っていながらも、実際には17万円の中でやりくりせねばなりません。
家賃が月々6万円。大都市近郊の方は月10万円ぐらい。食費は月々3万円。水道光熱費は月1万円。通信費と交通費で合わせて月1万円。研究遂行経費枠消費のための出費が月2~3万円。自由に使えるお金が毎月3~4万円ぐらいしか余りません。
自分ひとりだけで生きていくなら十分な額。誰か新しく恋人を見つけてプライベートを充実させるのにはちょっと足りないかもしれません。物価の安い地域に住む方ならまだしも、大都市近郊の学生は毎月カツカツの生活になると考えられます。どうしてもお金が足らない場合、TAやRA、アルバイト、ブログやYouTube等で副収入を得る術を探るのが良いでしょう。
特別研究員の給与が月額24万円に上がる噂を聞きつけました。噂が現実になればいいですね。全国の特別研究員の皆さんが少しでも楽に生活できるようになることを祈っています
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