北大博士課程を一年短縮修了した技術開発エンジニアかめです。
博士課程を早期修了しようと考え始めたのはM2の前期から。指導教員から早期修了に必要な業績量を確認し、要件を上回れるよう、実験や論文執筆を計画的に淡々と進めていきました。
私は大学受験で一浪した凡人です。いたって普通の能力の持ち主。そんな私でも、行動量と心意気でもって飛び級できました。早期修了をリスペクトしすぎてはいけません。飛び級に挑戦してみるまでは高くて険しい壁かもしれませんが、いざクリアしてみれば「案外大したことなかったな」と拍子抜けしますから。
この記事では、博士課程を早期修了するために常に心掛けていたことを3つご紹介します。行動論と精神論両方の観点からお話ししていくので、大学院早期修了に興味のある方はぜひ最後までご覧下さい。

それでは早速始めましょう!
【時を味方に】土日も大学や家で作業した


早期修了とは、標準年限よりも早く大学院を修了することを指します。博士課程は三年通うのが普通。そこを半年、ないし一年短縮し、他の人より早く学位を得るのです。
早期修了の難度を高めているのが「時間の無さ」。通常よりも限られた時間内で、しかもより多くの成果が求められます。私が所属した専攻の場合、早期修了するには博士論文提出要件の倍以上もの業績が必要でした。標準年限修了者は査読付き英誌筆頭論文二報でOK。早期修了希望者は査読付き英誌筆頭論文を五報以上出さねばなりません。
限られた時間内で成果を挙げる方法はふたつ⇩
- 作業時間の密度を高める
- 作業時間をより長くとる
昨今、一報の論文に求められるデータ量が増えてきています。以前よりも仕事を効率的に進めなければ、いつまで経っても論文を出版できないでしょう。研究を進めるにあたって、日々の行動の徹底改善が必要です。成功確率を向上させられる実験方法を常に考えながら過ごしてください。論文原稿の英語化の際は生成型AIを使うと早く終わります。自分のやり方を唯一絶対視しないように。周りからのアドバイスへ謙虚に耳を傾けて研究力向上の端緒を探るのがオススメです。
早期修了を目論むなら、もう一段上の努力量が必要です。たとえ作業効率をどれほど高めたとしても、作業時間自体が短ければ研究遂行速度が不足してしまいます。
飛び級したければ「作業時間増加」を心掛けましょう。効率よく作業するのは当たり前。効率よく”長時間”作業していきたいものです。早期修了に欠かせないのは絶対的な作業量。質を担保したうえで量を稼ぐ必要があります。研究に費やせる時間はすべて研究へ捧げるぐらいの姿勢で。食事と睡眠と息抜きの趣味以外の時間は研究へ割いてください。朝から晩まで研究について思いを巡らせる。もっと時間が必要? なら、土日も研究室へ行きましょう。
私自身、博士課程ではほぼ毎日研究室へ通っていました。平日はもちろん、土日祝も変わらずラボへ通い詰めたのです。家でも専門書を読んで勉強しました。研究に触れた時間は一日10時間ぐらいだったのではないでしょうか。体調不良や帰省の日以外はいつも大学に居ました。他の研究室の人間からは”ラボに住んでいるのではないか”と思われていたぐらい。
私の博士課程在籍年数は二年。この二年間は毎日を研究に費やしました。稼働日数は365×2=730日。コレって実は、三年間、平日だけ稼働した人とほぼ同じ作業日数なんですよ(365×5/7×3≒780日)。私が早期修了できたのは、早期修了せず三年在籍したのと同じ長さの時間を研究に費やしたから。時間を捻出して作業量を確保できたおかげで飛び級要件を上回るだけの業績量を稼げたのです。
【人間関係】指導教員からの信頼を培った


博士学生に博士号を授与するか否かを最終的に判断するのは主査。たいていの場合、博士学生の主査は指導教員。指導教員がGOサインを出せば学位が貰えます。Noと言われたらいつまでも学位を手に入れられないでしょう。
先ほど、早期修了要件が云々と申し上げました。ごめんなさい、嘘をつきました。実は、早期修了要件などありません。学位審査会が早期修了を認めるにあたって、その絶対的基準はどこにも定量的に示されていません。学生の早期修了が認められるかどうかはケースバイケース。主査が学生の研究力を認めた場合に限って早期修了できます。
…コレってめちゃくちゃ曖昧ですよね。努力の方向性が分かりません。どうすれば認めてもらえるのか気になりますよね。私も困り果てて指導教員に問い合わせました。その際に返ってきた答えが「標準修了要件の倍以上の業績を出せ」というもの。早期修了要件は博士学生の指導教員が独自に定めるのです。先生の定めたハードルを乗り越えるべく、土日も研究室へ通って研究時間を捻出。健康と青春を犠牲に捧げ、作業の徹底した効率化と長時間研究のダブルパンチで何とか五報の論文を揃えられました。
厄介なのは、早期修了要件を充足したとしても早期修了に至るとは限らない所。二段落前に記しました。「主査が学生の研究力を認めた場合に限って」早期修了できる、と。結局最後は指導教員の心情次第。業績量は目安。業績の裏付けがあったうえで、指導教員の首を縦に振らせなければならないのです。
そこで重要になるのが信頼関係。先生との間にこれまで築き上げてきた信頼の蓄積でもってGOサインを出させるのです。早期修了の栄誉は優秀な人間に与えられます。博士論文の主査である先生に「コイツは優秀な学生だ」と思わせられたら勝ち。日々の何気ないやり取りやちょっとした心掛け次第で評価を高められるでしょう。
先生から任せられた仕事は100%以上の達成度でクリアしましょう。言われたことをこなすのは当たり前。早期修了に手が届くのは、言われていないことまでやる人。先生とのディスカッションでは、お話に必要な調査と考察を事前に済ませておいてください。互いにとって有意義で気持ちの良い時間になるよう準備するのが大切です。学位審査会の諮問に耐えうるだけのコミュニケーション力を日々見せつけておきましょう。口下手でも構いません。きちんと科学的に考え抜かれた、内容のある話ができればOKです。
私が早期修了できたのは、B4からD2まで仕事へ全力を尽くしたおかげ。先生から私の研究姿勢を評価され、「優秀だ」「早期修了に値する」と認めていただけるだけの信頼関係があったからこそ、飛び級に成功したのです。
【学位審査会】学位は守るものではなく奪い取るもの


博士課程の学位審査会は3つあります。D2の夏に行われる中間審査会、修了数か月前に行われる予備審査会、そして終了直前に行われる最終審査会(公聴会)。公聴会は『ディフェンス』と呼ばれます。学位取得の権利を”守る”ことからその名がつけられました。公聴会でディフェンスに失敗すると、研究業績がリセットされて最初からやり直しに。オーバードクターは間違いありません。気力が尽き果てて中退を選ぶ可能性も。
学位は守るものではないと考えています。学位を授与されるまでのあいだ、我々の手に学位は存在しないわけだから。学位は、審査員から奪い取るもの。あの人たちが大切そうに抱え込んでいる博士号を両手で強奪する。公聴会はディフェンスというより『オフェンス』。攻めて攻めて攻めまくって、学位取得の権利を掴み取る時間です。
受け身の姿勢で臨むと弱気になります。(ディフェンスに失敗したらどうしよう)と良からぬことまで考えてしまいかねません。強気を保っている限りは大丈夫。失うものは何もない。平常心が保たれ、普段よりも活き活きとしたフロー状態にて発表できるでしょう。自分自身、予備審査会と公聴会をオフェンスと見立てて臨みました。そのおかげで全く緊張しませんでした。
早期修了者の学位審査は、標準年限修了希望者よりもずっと厳しめ。修了要件の高さはもちろん、発表後の質疑応答にて鋭い質問がズバズバ飛んできます。特に予備審査会ではボコボコにされると覚悟しておいてください。私の場合、予備審査の質疑応答時間は20分の予定だったのに、実際には60分もありました。貧血寸前の状態に陥りましたよ。本当に辛かった。もう二度とやりたくないぐらいに。
恐ろしい事態が待ち受けているからこそ強い気持ちで臨むのが重要。相手を恐れず、リスペクトしすぎず、平常心で臨むために『オフェンス』を心掛けて下さい。
まとめ
博士課程の早期修了は特別な才能を必要とするものではありません。私の経験から言えるのは、「時間」「信頼」「姿勢」という3つの要素を意識的にコントロールできれば、誰にでもチャンスがあるということです。
土日も惜しまず研究に没頭し、通常3年分の作業量を2年に凝縮する。指導教員との信頼関係を日々の真摯な姿勢で築き上げていく。そして、学位審査では受け身ではなく、積極的に自分の研究の価値を主張していく。これらは特別なことではなく、むしろ研究者として当たり前の心構えかもしれません。
大切なのは、これらを「意識的に」「継続的に」実践できるかどうか。三日坊主に終わらせず、二年間、ちゃんと継続できるかどうかが重要なのです。早期修了は、学術研究者としての基本姿勢を培うプロセスの一つの成果物。この記事を読んでくださった皆さん、ぜひ恐れずチャレンジしてみてください。きっと、研究者としての新たな可能性が開けるはずです。
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