博士課程へ進学する方の多くは研究が好きでしょう。寝ても覚めても研究のことを考えてしまう、重度の研究中毒者であらせられます。研究職を目指している方も多いかもしれません。私自身もかつては研究者志望でした。共同研究の都合で国立研究所へ出入りしているうちに研究所の雰囲気に魅せられ、いつしか研究者になりたいと思うようになったのです。
こう書くと、研究への熱量がそこまで高くない方はこう感じるかもしれません。そこまで研究に思い入れがあるわけじゃないんだけど、こんな人間が進学してもいいのかな、と。
皆さんには研究以外にも大切なものがあるはずです。好きな人と過ごす時間かもしれませんし、本を読んだりサッカーを観たりする時間かもしれません。美味しいものを食べに出かける週末が何より楽しいという方もいるでしょう。
研究の優先順位が一番でなければ博士課程に進んではダメ、なんてことはありません。博士課程だって人生の一部です。日常の中に研究を組み込めさえすれば、研究の優先順位が何番であっても構わないのです。そもそも、博士修了後の進路は研究者だけではありません。学位を取得したあとは、皆さんの希望する道へ自由に進んでいただいて結構です。
今回の記事では、博士課程へ行っても研究者になる必要はないという話をしていきます。博士進学を検討している方や、博士修了後の進路を考えている方にとって、少しでも視野を広げるきっかけになれば幸いです。
かめそれでは早速始めましょう!
そもそも大学院は研究者養成機関である


大学院が持つ本来の役割は研究者の養成です。学術界を支える基幹人材を輩出する場所として設計されています。
博士課程では研究者になるための能力開発が求められます。学会で発表し、論文を出版し、博士論文を仕上げる一連のプロセスを通じて、研究者としての力を培っていくわけです。
博士課程が研究者養成機関であることは、修了要件を見ても明らかでしょう。学生便覧には「論文〇報以上の出版が必要」と記されています。論文を書かなければ修了できない以上、論文を書ける能力を身につけるのは当然の流れです。
博士課程を修了すると博士号が得られます。博士号は研究職へのパスポートのようなもので、大学や国立研究所で研究者になるためには事実上必須の資格です。企業で研究者になるぶんには必ずしも必要ではないものの、企業研究者の中にも博士号を持っている方は少なくありません。研究者を目指す方にとって、博士課程まで進むのは理にかなった選択と言えるでしょう。
それでも、研究者になる必要はない


博博士課程は研究者養成機関であると述べました。では、博士課程まで進んだら研究者にならなければいけないのでしょうか。研究者になりたい人だけが進学すべきなのでしょうか。非研究者志望の学生には進学する権利がないのでしょうか。
そんなことは、ありません。
博士課程は研究者志望専用の機関ではないのです。最初から研究者になるつもりのない学生だっています。いまの研究をもう少し続けたい、でも一生やるつもりはない。こんな動機で進学したって何ら問題はありません。
博士課程へ進んで恩恵を受けられるのは、もう少し研究に携わりたいと思っている方や、博士号の取得にメリットを見出せる方、あるいは博士課程で培えるスキルに魅力を感じている方です。研究者として育成される過程では、研究職以外に就く際にも通用する汎用的な経験やスキルが自然と身についていきます。
修了後の進路は研究者以外にもあります。技術者になってもいいですし、コンサルタントになっても構いません。極端な話、宮大工でも漁師でもOKです。犯罪者以外なら何でも大丈夫。博士課程に進むメリットが自分にとって十分にあると感じたなら、ぜひ進学してください。
ただし、ひとつだけ念を押しておきます。博士課程は過酷です。どれほどの苦境に陥ってもしがみついていられるだけのメリットが本当にあるか、進学前に一度じっくり自問してみてほしいのです。
博士人材は様々な領域で活躍できる素地がある


学士や修士の学位と博士号のあいだには、ひとつ決定的な違いがあります。
博士より低い学位は、極端に言えば結果を出せなくても取得できます。学士なら卒論を、修士なら修論を提出して学会発表をこなせば学位がもらえるでしょう。
博士号は違います。論文を出版し、さらに学位審査会を突破するという2つの関門で結果を残して初めて取得できる学位なのです。つまり、博士号ホルダーは結果の出し方を知っている人たちです。成果を出すためのメソッドが体に刻み込まれている、と言い換えてもいいかもしれません。
博士課程で得られる思考力や創造性は、研究以外の分野にも転用できます。今よりもっと良いものをつくる開発業務には考える力が欠かせませんし、まだ世の中にないものを生み出す仕事にはクリエイティビティが武器になります。
研究職だけを見据えて過ごすのは、率直に言って勿体ないです。博士課程で身につけた力は、皆さんが思っている以上にいろいろな場所で役に立つのですから。
非研究領域で博士号持ちが活躍すれば、博士号と大学の存在意義が高まる


少子化に伴い、企業間の人材採用競争は激化の一途をたどっています。就活はいまやB1から始める時代になりました。大学は純粋な学術機関ではなくなり、就職予備校と化しつつあるのが現実です。
この波には大学院も無縁でいられません。修士学生はM1になって間もなく就活に着手しますし、博士学生もD1やD2のうちにインターンシップへの参加を求められています。大学院が研究者養成機関のまま居続けるのは年々難しくなってきており、今後は人材育成機関として姿を変えていくのかもしれません。
もしも大学院が人材育成機関であるならば、そこから巣立った人材が社会で活躍してくれることほど嬉しいことはないでしょう。研究領域はもちろんのこと、研究以外の分野でも力を発揮してもらいたい。そうなれば、大学の人材育成機関としての新たな存在意義が生まれてきます。
日本では博士号の価値がまだ十分に認知されていません。 その理由のひとつは、研究職以外で活躍する博士人材が少ないことにあると思います。研究分野で成果を出すのは、ある意味で当たり前です。研究以外のフィールドで目立って活躍する博士人材が増えていけば、世間の見る目も変わってくるのではないでしょうか。
他分野への博士人材の浸透が進むにつれて、博士ってすごいんだなと認識される機会は増えていくはずです。その評価は回り回って、博士号そのものの価値向上や母校の存在意義アップにもつながっていきます。
おわりに
博士課程へ行っても研究者になる必要はありません。むしろ、研究者にならない方にも博士課程へ進んでいただきたいぐらいです。
修了後は研究以外の分野でも存分に力をふるってください。異分野で博士号持ちとして活躍することが、博士号の価値を底上げする一番の近道です。私も企業の開発領域で日々奮闘しています。皆さんもそれぞれの希望する場所で成果を挙げて、博士号や大学の存在意義を一緒に高めていきましょう。






















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