博士進学を目論む方はまず学振DC1に目をつけるはずです。月20万円の給料と年間100万円もの研究費をもらえれば、お金にまつわる問題をおおよそ解消できますからね。ただし、学振DCは採択率2割未満の狭き門で、特別研究員に採用されるには、戦略的に研究実績を重ね、他の応募者より頭ひとつ抜きん出なければなりません。
この記事で提唱したいのは、学振DC1内定を狙うならM1の5月から論文を書き始めようということです。「えっ、さすがに早くない?」とお思いになるかもしれませんが、M1の6月から書き始めた私ですら「あと一か月早ければ…」と後悔しました。5月でも早すぎないどころか、むしろギリギリなんですよ。
なぜM1の5月なのか。この記事では、その理由を3つに分けてお伝えしていきます。
申請期限から逆算すると、M1の5月がスタートライン
まずはスケジュールの話から具体的に詰めていきましょう。
DC1の申請期限はM2の5月中旬です。申請書の実績欄に投稿中と書くことはできますが、投稿中と受理済みとでは審査員からの評価がまるで違います。極端な話、たとえ投稿していなくても「投稿中です」と嘘を書けてしまいますよね。その点、受理済みは嘘のつきようがなく、業績としての信頼度が段違いです。
ではアクセプトまでにどのぐらいの時間がかかるのか。査読期間は雑誌によりまちまちで、CommunicationやLetterなら1週間程度でコメントが返ってきますが、Full Paperだと1〜2か月の査読期間が設けられていることもあります。トップジャーナルなら、半年かかるケースも。
しかも上記はあくまで「一度」の査読期間です。実際には査読者と研究グループとのコメント⇔返答ラリーが続き、二度目、三度目の査読が行われることも珍しくありません。運悪く意地の悪い査読者に当たればラリーが半永久的に続きますし、応酬の末にリジェクトされれば別の雑誌へ投稿し直しです。
ここから逆算してみましょう。
- M2の5月中旬: 申請書提出。「受理済み」の論文を載せたい
- M2の5月以前: アクセプト通知を受け取っている必要がある
- M1の秋〜冬: 論文を投稿し、査読のラリーをこなしている期間
- M1の5〜9月: 論文を書く期間
こうして並べると、M1の5月に書き始めても、まったく早すぎないことが分かりますよね。むしろ5月スタートでギリギリ間に合うかどうかといったスケジュール感です。最近はAIのおかげで論文執筆速度が上がっていますけれども、それはライバルも同じなわけで、だからなおさら確実に研究業績をゲットしておく必要があります。
一報目は想像以上に時間がかかる。申請書と同時並行は無理がある
M1の5月から書き始めるべき二つ目の理由は、一報目の論文が想像以上に大変だからです。
学術雑誌へ投稿する論文には、綿密な作り込みが求められます。図表を丁寧に作るのはもちろんのこと、結果と考察のパートでは目を皿にして「ホンマにこの説明で合っているかな」と慎重に考え抜かねばなりません。そもそも、作り方が分からないので「論文 書き方」と検索するところからスタートしますし、来る日も来る日も考察パートを検討し続けて頭がおかしくなることもある。
論文執筆は己の限界との闘いです。日に日に擦り減る精神をどうにか癒して、翌日もパソコン越しに論文と格闘する。こんな過酷な作業を、学振の申請書作成と同時並行で進めるのは現実的ではありません。 どちらも体当たりで挑まなければ成功するかどうかすら不透明なのに、同じ時期に二方向へ体当たりするのは人間の為しうる所業とは思えないんですよ。
M1の5月から論文を書き始め、秋〜冬に投稿してラリーを済ませておく。申請書作成が本格化するM2の春には、論文の心配をせず申請書にフルコミットできる状態を作っておく。 この段取りを組めるかどうかが、DC1内定の分水嶺です。
5月に書き始められれば、二報目・三報目も射程圏内に入る
M1の5月に一報目を書き始めておくと、申請書提出までに二報目・三報目までアクセプトに持っていける可能性が生まれます。
論文を一報仕上げるのは非常に大変ですが、何かの間違いですんなり書きあがってしまうこともあります。卒論がそのまま投稿論文になるケースがまさにそれで、学部時代に幸運の女神が微笑めば、卒論を英語化するだけで論文が出来上がる。すでに研究成果を持っているなら、早く論文にしてしまってください。
M1の早い段階で一報目がアクセプトされれば、M2の5月中旬までにもう一報書ける可能性が飛躍的に高まります。二報目の執筆は一報目より確実に楽です。一連のプロセスを経験済みなのでスムーズに作業を進められますし、「このデータは論文のここに使えそうだな」とカンが働くようになって、掲載に必要なデータをジグソーパズルの要領で能率的に収集できるようになります。
DC1申請時に筆頭論文が二報あったら、めちゃくちゃ強いですよ。 三報あったら最強です。よほど研究計画欄がずさんでない限り、まず間違いなく内定するでしょう。
おまけ:早めに論文を書くと、研究者としての適性も見えてくる
DC1対策とは少し別の話ですが、M1の早い段階で論文執筆を経験しておくと、自分が研究者向きなのかどうかを判断する材料にもなります。
大学でひたすら実験していると、つい実験作業を研究と捉えてしまいがちです。しかし実際の研究は作業では到底片づきません。課題を設定し、先行文献を調査し、プランB・Cを用意し、予算を確保する。実験の裏にはおびただしいプロセスが潜んでいて、我々学生が実験に集中していられるのは、指導教員がこうしたプロセスを前もって処理してくれているからなんですよね。
論文執筆に挑戦すると、指導教員が歩んできた茨の道を疑似体験できます。何でこんなコスパの悪いことをしなくちゃならないんだ、と拒絶反応が出たら研究者向きではないかもしれません。大変だけれど頑張り甲斐があるなと感じられたら、研究者の素質があるかもしれない。
私自身、M1の間に論文執筆と就職活動の両方に本気で打ち込んでみて、ようやく博士進学へ舵を切る決心がつきました。就職か進学かで迷っている方にこそ、論文執筆に挑んでみてほしいですね。
最後に
学振DC1内定を狙うならM1の5月から論文を書き始めよう、という話をしてきました。
M2の5月中旬という申請期限から逆算すれば、M1の5月に書き始めてもまったく早すぎないことが分かるはずです。一報目の論文は想像以上に時間がかかりますし、査読のラリーやリジェクトで計画が狂うことも珍しくない。早く書き始めた分だけ、申請書作成に集中できる時間が増えますし、二報目を狙える可能性も広がります。M1の6月から書き始めて「あと一か月早ければ」と後悔した人間が言うのですから、間違いありません。
一年後のDC1内定に向けて、今日からWordファイルを開いてみてください。






















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