博士論文執筆は大変!投稿論文と何が違うか

博士課程の中でも特に大変な営みのひとつが「博士論文」の作成。100ページ以上もある長大な作品を仕上げて提出しなければなりません。博士論文は、我々が過去に雑誌会社へ投稿していた学術論文とは根本的に違います。両者とも”論文”とついてはいる。しかし、ボリューム的にも中身的にも全く異なる作品なのです。

この記事では、博士論文執筆の大変さについて、学術論文との違いと併せて述べていきます。博士課程在籍中の方にピッタリな内容です。ぜひ最後までご覧ください。

かめ

それでは早速始めましょう!

目次

投稿論文を一本の線でつなぐのが難しい

化学系分野の博士論文は、複数の学術投稿論文を寄せ集めたもの。博士課程で論文を五報出版したとしましょう。博士論文の中では、五報の成果を全て掲載することになります。

ただコピペするだけで済むなら楽。論文投稿に用いた原稿を切り貼りするだけで済みますからね。博士論文作成の大変なポイントは、投稿論文を一つの線でつないでいく所。「博士課程を通じて何を明らかにしたか」が浮き彫りになるよう作らねばならぬのです。投稿論文ひとつひとつの成果は独立しているかもしれません。D論作成にあたって、それら独立した成果をつなぎ合わせる作業が求められます。D論全体でもって有機体とするのです。ただの寄せ集めじゃない。”一貫している何か”を見出して作る必要がありました。

知的好奇心旺盛な方は、博士課程の間に様々なテーマに手を出すかもしれません。結構です。それは素晴らしい営みでしょう。色々なテーマへどんどん手を伸ばしてください。学生の間になるべく多くの武器を身につけた方が後々になって有利ですから。

しかし、博士論文執筆の観点から鑑みれば、テーマの複線化はオススメできません。雑多なテーマを考えもなしに進めていたら博士論文の執筆で苦労するでしょう。なぜなら、「一貫した何か」を示せないから。テーマ間の相関性が薄い以上、成果同士をつなぎ合わせて議論するのが困難でしょう。ひょっとすると、成果同士をつなげる別の実験が必要になってくるかもしれません。それってすごく面倒ですよね。この記事をご覧になった博士候補生の皆さんは、自身の研究成果に一貫性はあるか、テーマ間の関係性はあるか確認してみてください。

長大なイントロを書くのが大変

博士論文はボリューミーになるのが通例。成果同士を接続させていくうちに自然と長くなっていくのです。

博士論文は下記の構成で成り立っています⇩

  1. イントロダクション
  2. 各章の成果
  3. 総括&今後の展望

自然科学分野の場合、②各章の成果を投稿論文の再編集で済ませられます。原稿と図表を切り貼りするだけで完成させられる。簡単なものです。③総括&今後の展望も楽に書けるでしょう。自分の頭で考えて書いてもOK。自分の全出版論文を生成型AIに読ませて書き上げさせても構いません。自分は総括だけAIを使いました。今後の展望パートはブロガーの矜持にかけて、ゼロから妄想を膨れ上がらさせて書きましたね。

問題なのは①イントロダクション。イントロはイントロでも”General Introduction”。D論のイントロに記すのは、各研究成果全体の導入となる内容です。投稿論文のイントロに記した内容を導入する話を記します。つまり、基礎の基礎の執筆が求められるわけです。しかも投稿論文に通じる基礎の基礎を記さねばならない。構成を考え、検討に検討を重ね、検討を加速していく必要が。どこまで掘り下げればいいか分からないですよね。正直なところ、私も分かりません。イントロパートの充実度は、皆さんのD論を査読する先生方のさじ加減で決まるでしょう。

参考までに私のイントロをご紹介します。

私の専攻は電気化学。二次電池内部の電極-電解液界面で起こる現象を研究していました。電池研究が必要なのは、再生可能エネルギー (RE) の貯蔵源とするためです。REは豊かな自然に由来するエネルギー。日本の自然は天地開闢より生み出されました。我が国を生んだのは高天原の神々です。よって、REは日本神話と密接な関係性があります。
私のGeneral Introductionでは、日本神話を源流として話を展開させていきました。D論で最初に引用したのは古事記。さすがに掘り下げすぎたかなという気もしましたけれども、指導教員からOKをもらったのでそのまま出版しました。

精魂尽き果てた最後の最後に書き上げるのがとにかくしんどい

博士論文は博士課程の集大成。予備審査会前に仕上げ、公聴会で提出し、合格判定を受けたあと本提出します。執筆を始めるのは修了半年前あたりから。標準年限で修了する方なら、博士課程で既に二年半過ごしてきた頃から。この時期になったらもう精魂尽き果てていますよ。辛さも二周回って辛くなくなっている。感覚が麻痺してもう何も感じない。ここはどこ?私はだれ?あと半年間で修了?ちょっと何を言っているのか分からない。

心身ともに限界寸前の状態で博士論文執筆へ挑むことに。決して辛いわけではありません。感覚が狂ってしまっていて、辛さなど感じようにも感じられないから。とにかくしんどい。めちゃくちゃしんどい。気力を奮い立たせて文章を書いていくのが大変。

体力は特に問題ないんですよね。デスクワークでの消耗度合いはさほど大きくありません。二十代後半で衰えるのはむしろ「気力」。作業へ取り掛かるためのやる気を振り絞るのがとにかく難しくなります。我々学生は日頃から散々理不尽な目に遭っているでしょう。自分の瑕疵ではないのに怒られたり、一生懸命記した論文がリジェクトされたり。人生で最も気力が衰えた状態がD論執筆直前。そこから100ページ超の大作を作っていく。しんどいですよ。思い返すだけで吐き気がしますね。

【最後に】博士論文は早めに書き始めよう

ここまで博士論文執筆の大変さについて記しました。D論を仕上げるというのがどういうことかご理解いただけたかと存じます。

書き上げるのが大変なのは分かっているわけです。後々まで手を付けずにいたら苦労するのも明らか。であれば、早くから書き始めましょう。せめてイントロパートだけでも早期に着手しておけば未来の自分が喜びますよ。イントロなら成果が出揃っていなくても書けるはず。実験やデータ考察の気分転換に博士論文を今日から書き始めてみてはいかがでしょうか。

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