2026年度より、学振DC新規採用者の月給が22.7万円に上がるというニュースを見ました。それについて、元特別研究員DC1として感じたことを記しました。
月20万円時代を生き延びた元DC1の本音
私は2023年4月から2025年3月まで、学振DC1として研究生活を送っていました。博士課程を一年短縮して修了し、現在は民間企業で働いています。私がDC1だった当時の月給は20万円でした。
この金額を聞いて「まあまあもらえてるじゃん」と思った方、ちょっと待ってください。20万円だったのは額面です。ここから所得税やら何やらが引かれます。国民健康保険と国民年金を自分で払い、学会年会費や論文校正代なんかも降りかかってくる。手元に残るお金は、一人暮らしの大学生とそれほど変わらないのではないでしょうか。いや、仕送りをもらっている学部生のほうが裕福かもしれませんね。
学振DC1として研究してきましたが、生活に余裕なんていうものは存在しませんでした。家賃や光熱費、食費に通信費など、最低限の支出を積み上げていくだけで、口座残高が空っぽになっていきます。スーパーでは値引きシールの貼られた食材を狙い、飲み会は二次会を丁重にお断りし、服はユニクロのセール品をローテーション。何かを買うにも、検討に検討を重ね、検討を加速し、吟味に珍味を重ねて購入を見送るのです。
お金が無くて何より辛かったのは、経済的な苦しさが研究にまで悪影響を及ぼしたこと。不思議なことに、お金がなさすぎると、発想まで貧相になっていくんですよね。
- この試薬、高いから別の方法でできないかな
- 国際学会、行きたいけど旅費が…
- 新しい機材を買いたいけど、もう研究費を使い切ったしな…
そんなことばかり考えていると、自由で大胆な研究アイディアが湧いてこなくなってくる。脳みそが節約モードに入ってしまい、生存以外の行為にリソースを使えなくなってしまいます。論文のための新しいアイディアが出てこない時期は本当に苦しかったです。D2の6月、博士課程修了がピンチになりかけて、このまま何も成果が出なかったらどうしようとため息をついた夜を今でも覚えています。
だからこそ、今回の給与引き上げのニュースを聞いたときは、心からよかったなぁと思いました。自分の在籍中に給与が上がってくれていたら、もう少し穏やかな気持ちで研究できたかもしれません。でも、まぁ、人生そんなものですよね。後輩たちの生活が少しでも楽になるなら、それだけでも大きな前進です。後輩が幸せなら、それでOKです。
22.7万円でも正直まだ足りない
ただ、本音を言わせてもらえば、22.7万円でも全然足りないと思っています。
学振DCに採用されるのは、全国の博士進学者と博士学生の中から選ばれた方々。採用率はおよそ15%。業績を積み上げ、審査員の心を掴む研究計画を練り上げ、各世代トップクラスの評価を受けた若手研究者なのです。
そうした人材につける値札が、たったの月22.7万円。年収に換算すると約272万円。これ、学部卒一年目の平均年収より低いんですよ。国の将来を担うはずの若手研究者が、平均以下の待遇で働いている。何かがおかしいと思いませんか。博士課程で最先端の研究をする人間に対する評価として相応しいのでしょうか。
それに、先ほども書きましたが、22.7万円ではお金のことを完全に忘れて研究に専念するのは難しいかもしれません。頭の片隅で常に生活費の計算をしながら実験するのと、経済的な心配なく研究だけに集中できるのとでは、生み出せる成果の質も量も変わってきます。研究者に必要なのは、明日の食費を心配する時間ではなく、明日の実験に思いを馳せる余裕ではないかな、と。
月給が月22.7万円に上がりましたが、それでも、修士就職した同期の大半よりも給与が低いまま。企業に行けば家賃補助や賞与が出ますから、手取りには倍近い差がつくでしょう。同じ研究室で机を並べていた仲間が、一年目で自分の二倍ものお金をもらっている。
博士課程で研究していると、あまりに金銭的に報われなさすぎて、だんだん虚しくなってくるんですよね。就職したヤツらと比べても仕方が無いのだけれども、どうしたって比べてしまうし、そのたびに劣等感を味わうことになる。本当に何とかしてあげてほしいです。
せめて月25万円、できれば30万円は支給してあげてほしい。彼らに投資すればそれ以上のリターンがありますから。世代トップレベルの人材への投資額として、30万円は決して高くは無いでしょう。欧米の大学院生はもっと貰っています。海外の人材が貰いすぎなのではなく、日本の人材の給与が安すぎるのです。
少しでも楽な研究生活を送ってほしい
批判めいたことばかり書いてしまいましたが、改めて強調させてください。学振DCの給与が上がったこと自体は、本当に喜ばしいことです。
数十年ぶりの引き上げということは、裏を返せば、これまでどれだけ多くの先輩研究者たちが苦しい生活を強いられてきたかということでもあります。私の指導教員世代も、そのまた上の世代も、きっと同じように20万円でヒーヒー言いながら研究していたのでしょう。その長い歴史にようやく、ほんの少しだけ変化が生まれました。
月2.7万円の増額。年間で約32万円。この金額があれば、日々の食事がちょっと豊かになりますね。学振DCの皆さん、たまには値引きシールのない食材を買って、ちょっと贅沢な夕食を作って食べてください。たまには息抜きに遠出するもよし。お金がないからと何かを諦める回数が、少しでも減りますように。
心と財布に余裕があれば、きっと研究のアイディアも豊かになるはずです。経済的な不安から解放されたとき、人間の脳みそはようやく本来の創造性を発揮できるようになります。私自身、博士課程の終盤でようやく研究が軌道に乗ったのは、修了の見通しが立って精神的に楽になった、修了数か月前からでした。
どうか幸せな研究生活を楽しんでください。皆さんの研究が花開き、いつか世界を変える発見につながることを、かつて同じ道を歩いた者として心から応援しています。そして、いつか企業やアカデミアの枠を超えて、適正な対価を得た皆さんと一緒に仕事ができる日を楽しみにしています。




















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