
初旬:やる気の出ない院試勉強

院試出願を終えた私の心は、微妙な緊張と怠惰の間で揺れ動いていた。8月下旬の試験に向けて準備を始めるべきだと頭では分かっていた。過去問を紐解けば、その問題の巧妙さは一夜漬けなど到底許さないことは明白だった。
しかし、私の心は不思議な倦怠感に支配されていた。 「今日は無理だ。明日こそは…!」 という言葉が、まるで呪文のように繰り返される日々。結局、本格的な受験勉強の開始は7月下旬まで持ち越されることとなった。
この気の緩みの根底には、院試筆記免除という甘美な可能性が潜んでいた。B2後期からの真摯な学業への取り組みは、私にコース上位のGPAをもたらしていた。例年、内部進学者の上位1/3には筆記試験免除の恩恵が与えられる。自分のGPAなら確実に上位1/3には入っているはず。その確信が、もしかしたら不要になるかもしれない勉強への意欲を削いでいた。免除の可否は試験3週間前の通知で明らかになる仕組みだった。大学側のこの絶妙なタイミング設定には、思わず舌打ちしたくなる。万が一の不免除に備えて、7月下旬になってようやく重い腰を上げることとなった。
下旬:データなき中間報告

6月の研究テーマ変更により、私の手元には発表に耐えうるデータが皆無という状況だった。つくばでの1週間は、実験環境への順応に費やされ、具体的な成果は得られていなかった。
途方に暮れた私は、M2の先輩(Mさん)の門を叩いた。「どうしたらよいでしょうか…助けていただけませんか」という私の嘆願に、Mさんは温かい笑顔で応えてくれた。「大丈夫や、B4の前期中間なんて、みんなそんなもんや♪」では、一体何を発表すれば…と半ば諦めかけた私に、Mさんは斬新な提案をしてくださった。「”後期はこういう方針で進めます”という発表にしよう」と。
目から鱗が落ちる思いだった。データがないならないなりの知恵を絞ればよい。このMさんは、つくばでの研究生活や卒論執筆時など、折に触れて私を導いてくださった理想的な先輩だった。A先生との念入りな相談を経て実験方針を固め、迎えた中間報告会。前月のM1雑誌会での炎上騒ぎに震え上がっていた同期一同だったが、幸いにも私たちの発表は平穏無事に終わった。発表後、同期と交わした安堵の笑顔が、初夏の思い出として心に刻まれた。


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