こんにちは!札幌と筑波で蓄電池材料研究をしている北大化学系大学院生のかめ (D1)です。大学院修了後、民間企業にて車載用蓄電池材料の開発業務を行います。
これまで大学で4年間研究してきた身として、電気自動車 (電池のみで走る車)なんてまだ早すぎるよ…と思います。数年後からガソリン車を全廃し、電気自動車に切り替えると世の中が大混乱に陥ってしまうでしょう。現在の電気自動車は様々な面でガソリン車に劣ります。デメリットがあまりにも多すぎるのです。優れたガソリン車を捨てて発展途上な電気自動車に切り替えるのは国家的自殺行為となりかねません。
この記事では、電気自動車が時期尚早だと考える様々な理由を挙げていきます。電池研究に従事している私としては電気自動車が流行った方が自身の活躍する場が増えて嬉しいものの、電気自動車が社会全体に及ぼすインパクトを鑑みると手放しには喜べないので、自分の利益と相反する記事を敢えて記して公開することに決めました。
それでは早速始めましょう!
充電に何時間もかかる。給電所に充電待ちの大行列ができる
ガソリン車の場合、空のタンクを満タンにするのに要する時間は3分程度。トヨタやホンダが販売している燃料電池車も水素の充填は3分未満で完了。それに対し、電気自動車の充電は何時間もかかってしまいます。急速充電モードでも30分で電池の半分を充電できるかどうかって状況。車のエネルギーが尽きてから再び走れるようになるまでに10倍もの時間差があるわけです。一台の充電に30分もかかっていたら、給電所にたちまち大行列ができてしまうでしょう。充電の順番を待っている間に車載電池の容量が切れてしまうかもしれません。給電所の前に立ち往生する電気自動車が至る所で現れ、現場が混乱する様子が容易に想像できてしまいます。
クーラーやワイヤレスマウスの電池のように簡単に取り換えられるのなら問題はありません。一台の車に載まれる電池は重さが何百キロもあるんですよ。5kgのお米でさえ重たいのです。500kgの電池なんか皆さん、持ち上げられますか?人の力で持ち上げて運ぶのは非現実的。機械が電池を取り換えてくれるのならばまだ良いでしょう。しかし、自動車メーカー各社はそれぞれ違った形の電池を作って搭載します。ガソリンの如く、一律に同じバッテリーへ取り換えるのは無理な話なのです。
充電に時間がかかってしまう現在の電気自動車。全固体電池の車載が実現すれば、状況は大きく変わります。いまの電気自動車に積まれているのは電解質が液体の電池。あまりにも早く液系電池を充電すると、電圧が高くなりすぎて電解液が分解されてしまう(劣化する)のです。そこで、充電速度を敢えて抑えて運用されています。本当はもっと早く充電できるんだけれども、長期間電池を使うためにわざと充電速度を抑えているのです。電解質が固体になると電解質の分解を気にせず済むようになります。充電速度の制約から解き放たれ、高速充電が叶います。流石にガソリン車と同等の給電速度とまではいきません。しかし、10分以下で満充電できるようになる可能性が示唆されており、電気自動車がガソリン車の有望な代替案となりうります1。
全固体電池が車載されるまでは電気自動車が普及することは無いでしょう。仮に固体電池が搭載されても、当分の間は大半のユーザーにとってガソリン車の方が利便性の高い乗り物なはず。
気温が下がると走行可能距離が減る
皆さんのスマホ、冬に充電の持ちが悪くなりませんか?夏場は10時間使えていたスマホが冬場には5~6時間しか使えないことが。電気自動車へ載せられた電池でも全く同じ現象が起きてしまいます。液系電池を載せた車の大きな問題点は、冬に走行可能距離が著しく減少してしまう点。気温が低いと電池の中を動き回るリチウムイオンの動きが鈍ります。そうしたら電池の内部抵抗が上がって電圧降下し、十分な電圧を維持できず、充電保持能力の低下に至るのです。ガソリン車で喩えてみると、冬になったらガソリンタンクから燃料が徐々に漏れ出て減っていくような感じ。「漏れた分、使えないじゃん!!」って?その通りです。使えないんですよ。
寒い車内を暖めるため、冬は暖房をガンガンに利かせますよね。暖房を使えば使うほど電池が早く減っていき、走行可能距離もそれに伴い少なくなってしまいます。かといって一切暖房を使わないわけにも参りません。ただでさえ電池の消耗が早い冬なのに、暖房の使用で電池容量を消費してますます走れる距離が減っていく…という仕組み。ガソリン車も夏や冬に冷暖房を使えば燃費が悪くなります。しかし、電気自動車ほどは燃費が悪くなりません。この点に関しても、全固体電池の車載が待ち望まれます。全固体電池は液系電池より冬の容量減少を抑えられるため、”一年中使える電気自動車”となると全固体電池を載せた車が最も適切かと存じます。
車載用電池が勝手に発火するリスクがある
電気自動車は燃えるリスクをはらんでいます。交通事故を起こしていないのに、否、そもそも動かしてすらないのに燃え上がって跡形もなくなる危険が。液系電池の電解液に火をつけたら燃え上がってしまうのです。この電解液は有機電解液。大変芳しい臭いのする、燃えやすくて危ない物質なのです。電池の中で仮にショートが起きた場合、電池の中でスパーク(火花)が生じます。火花が電解液に火をつけ、電池全体を勢い良くバーッと燃え上がらせる仕組み。「電池の中にガソリンが入っている」といったら分かりやすいでしょうか?もしもガソリンに火が付いたら、そりゃもちろん、爆発的に燃えてしまいますよね。燃える電池は熱暴走を引き起こします。熱が熱を呼ぶ。まるでスター熱狂するライブ会場のような大フィーバーに陥ってしまいます笑(笑い事ではありません)。
事故を起こして燃えるならまだ分かります。何も悪さをしていないのに自分の車が勝手に燃え上がられたらたまりません。電気自動車由来の火災を鎮圧するのは難しいのだそう。先述の熱暴走が不死鳥のように火を次々と復活させるため、家やガソリン車のようにそう簡単には火を消せないみたい2。もしも自分がガソリン車ユーザーでも、自車の隣に停めてある電気自動車が燃えた場合、自分の車まで被害を受けるのです。理不尽極まりありません。愛車は家族。家族を燃やされるのは辛い。
電池メーカーも電気自動車が燃えるリスクを下げるため、電解液に難燃性をもたらす添加剤を溶かして対処しております。日系メーカーの電池を積んだ車が燃えた事例はあまり聞いた事がありません。しかし、それでも100%燃えないわけではないのです。万が一ということがあります。燃えるかもしれない車に乗って走るのは、私なら嫌だなぁ。ガソリン車に乗りたいですね。電池が燃える点に関しても全固体電池なら大丈夫です。電解質が燃えない固体なので燃えず、液系電池を積んだ車より遥かに安全なカーライフを満喫できるでしょう。
”環境にやさしい”を謡っているのに全然環境に優しくない
電気自動車って確か、「環境にやさしい」を謳い文句に売り出されているんですよ。”ガソリン車と違い、走行時に二酸化炭素 (CO₂)が出ないから地球温暖化を防げる!!”といった理屈。CO₂が温暖化の犯人なのかどうかすら疑わしい。というか、それ以前にも問題があります。電気自動車、環境に全く優しくありません。CO₂?排出されますよ。確かに走行時には全く排出しません。電気自動車の動力たる電気を生産する過程でモクモクと発生しているのです。特に日本の場合、2021年には電力生産の8割を化石燃料から賄っています3。結局、全然エコじゃないんですよね。燃料を燃やして得た電気を使って走らせるなら、車に直接燃料を注入して走らせるガソリン車とやっていることは同じ。電気の8割以上を原子力で賄うフランスや、9割以上を再生可能エネルギーで賄うノルウェーで電気自動車を走らすなら分かるのだけれども。火力発電に頼る日本で「電気自動車がエコです!」と言われても意味が分からないでしょう。
CO₂が出るのは発電時だけではありません。車載用蓄電池を作る際にも大量のCO₂が出ています。
- 電極の原料たるスラリーの乾燥炉の稼働
- 電池を包み込むアルミ二ウムの製錬&精錬
- 電池を作るドライルーム (乾燥室)の年中無休なフル稼働
など、どれをとっても莫大な電力を要するため、CO₂発生量も莫大です。電池製造時に発生するCO₂は決して無視できる量ではありません。また、電極材料を鉱山から採掘する際、川に重金属で汚染された水が流れ込みます。川を流れる魚を食べた下流域の人間に深刻な健康被害をもたらします。ね、環境に優しくないでしょう?果たしてコレのどこがクリーンエネルギーなのでしょうか?
中古車のリセールバリューが低すぎて買うのを躊躇してしまう
電池の消耗は不可逆的。一度減り始めた電池容量は、振ったり叩いたりしても元通りにはなりません。自分の乗った車を売りに出す頃には電池は相当消耗しています。最初満充電できた容量の7割も充電できれば上出来ではないでしょうか?つまり、最長走行可能距離が購入時の7割以下まで減っているということ。そんな車で数百キロもの長い距離を走るのは難しいでしょう。充電スポットの在り処を常に気にかけて進むドライブは、少し想像するだけでストレスがみるみるうちに溜まっていくイベント。全然楽しくないでしょうね。電池の減りよりストレスの溜まり具合の方が早いのではないかと思えてしまうほど。
購入後、どんどん減っていく電池容量は車のリセールバリュー (残存価値)をも低下させます。愛車を中古車として売りに出しても、価値があまりに低すぎて高い値段を付けてもらいにくいのです。それだと購入を躊躇してしまいます。他の車へ乗り換える時に家計への負担が大きくなってしまうから。東芝の某電池を搭載した電気自動車は10年経っても充電可能容量がほとんど減らないそうです4。そうした電池を乗せた車のリセールバリューはガソリン車並みなものの、全ての電気自動車がそうしたスーパーな電池を搭載している訳ではないから「リセールバリューの低さ」は相変わらず欠点として残ります。
チャイナ系企業が激安電気自動車を販売。価格競争では勝てない
電気自動車は日本のガソリン車 (ハイブリッドカー)潰しが最大の目的。欧米、特にヨーロッパ諸国が率先して潰しにかかっています。努力が功を奏し、一時的に日本車を市場から追い出せました。喜びも束の間、今度はチャイナ系企業がヨーロッパへ次々と電気自動車を売り出し始めました。刮目するほどの激安製品を市場へ送り出された欧州各社メーカーはさぞ恐ろしかったでしょう。欧州とチャイナとの間で激しい価格競争が始まりました。欧州が値引きしたらチャイナはもっと値引く。再び欧州が値引きしたら、チャイナはもっともっと値引いて安価さで優位に立つ。チャイナ系企業は国からの補助金を受け、商品を幾らでも安く売ることが可能。たとえ赤字でも売れさえすれば良い。政府が会社の存続を保証してくれるから。価格競争にさえ勝てれば万事OKという姿勢。これには欧州も堪らずギブアップ。チャイナ系企業へ関税をかけ始めました。チャイナも全然負けておりません。もっと安い製品を販売し、関税を事実上無効化していくのです…
日本がガソリン車を捨て、電気自動車へ切り替える場合、チャイナとのクレイジーな価格競争に勝つ必要があります。なりふり構わず値引いてくるチャイナ系企業に果たして日系企業は勝てるでしょうか?日本のメーカーのウリは”良いものを作る”こと。安さではなく信頼性を持ち味とし、良い商品が欲しい世界中のユーザーを虜にしてきたのです。価格競争は苦手とする部類。安さの代償に商品の品質を落とさねばならぬからです。日系メーカーは安さを取るか?それとも品質を取るか?…おそらく品質を選ぶでしょう。”良いものを作る”との技術者の美学に反する営為は行えないはずです。価格競争には勝てません。いや、そもそも価格競争に勝つためにモノ作りをやっている訳じゃないから価格競争には参加しようとしません。
チャイナの土俵で戦うことを余儀なくされる電気自動車を日系企業は作りたがらないでしょう。もし作るとしても、価格競争の熱が冷め、チャイナ系企業の息切れを待ってから作り始めるのが宜しいかと。
結局電気自動車ってエコじゃないんです。欧州のエゴが産んだ車。エコカーならぬ「エゴカー」って感じ?
車載用電池のリサイクル体制が整っていない
電気自動車を作ったは良いものの、使い終わった自動車をリサイクルする体制がまだまだ整っていません。車体のリサイクルは可能。電池のリサイクルが難しい状態です。電池を使わないまましばらく放置しておくと、中から人体に有害な液体が染み出てきます。突如、燃え出すこともあるから恐ろしい話。使用済み電気自動車が燃え始めたら困るでしょう。だからリサイクルする体制を早急に整えなければならないのですが、大量の電気自動車が廃棄されるようになったとき、果たしてリサイクル体制が追い付くのかどうか気になってしまいます。電池研究者は皆、少しでも性能の良い電池を作る方向へ必死に頭を使っておられるのです。使用済み電池の行く末を気にする人間はほとんどいない(見て見ぬフリをしている)のが現状。
ちなみにお隣のチャイナでは、使用済み電気自動車を埋め立て処理しているようです笑。こんなの日本は真似してはダメ。リサイクルできるようになるまで普及を留め、リサイクル体制が整ってから電気自動車を普及させるべき。
夏に節電を呼び掛けている国で電気自動車?!
我らが日本国は、毎年夏に政府から国民へ「電気を節約して下さい」との要請が発されます。酷暑に対処すべくクーラーを使うため、夏になったらピーク電力をどうしても賄いきれなくなってしまうのです。もしも原子力発電に頼って良いのなら電力の問題は直ちに解決されるでしょう。原爆や原発事故による放射能アレルギーが国民にあるので、日本全土での原発再稼働への道のりは限りなく遠いといっても過言ではありません。
このように、日本は電気が慢性的に不足しがちな国。電気代も高い。あまりに高すぎて金属の製錬を海外でしているぐらいですから。そんな電力不足にあえぐ国の中で果たして電気自動車が本当に流行ると思いますか?私は「流行ることは当分ないだろう」と考えています。何せ、わざわざ電気自動車を使うメリットが見当たらないんですもの。長い長い給電時間を待ち、しかも高い電気代を支払うだなんて生粋のドMにしかできぬ所業。原発が再稼働したり核融合発電が完成したりすれば話は少し変わってきます。電力供給量が劇的に増える兆しが垣間見られない以上、電気を大量に消費する電気自動車が普及するとはどうしても思えないのです。
いくら政府が電気自動車に補助金を付けて少々強引に普及させたとしても、ユーザーの不満はすぐに高まり、電気自動車から続々と離れるでしょう。現に欧州では既に電気自動車離れが始まっています。日本も欧州の二の舞になりますか?そうはならぬよう、電気自動車フィーバーを一歩引いて冷静に見定めることが重要です。
最後に
現役博士学生が考える『電気自動車が時期尚早』だと思う理由はコレで以上。日系自動車メーカーはこれまで通り、真に環境へ優しい良いモノを作って頂けたら幸いです。
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