学位審査には三種類ある
博士課程を修了するには、専攻内の教授陣で構成される学位審査会を三回突破する必要がある。
一度目が中間審査会。D2の8月下旬から10月初旬の間に行われる。中間審査では、研究の進捗や業績の積立状況を確認される。ちゃんと研究していれば炎上しない。全く研究が進んでいない、または三年で博士号取得に至る見込みがない場合は引導を渡されるらしい。研究以外の道を歩み始めるのは早ければ早いに越したことはない。修了できそうにない学生を早めにクビにするのは優しさであろう。
二度目の審査が予備審査会。修了する3~4か月前に行われる。三年間で修了する方はD3の12月ごろの実施。私の場合は二年での修了を目指しているため、D2の12月に予定されている。予備審査では、博士論文提出要件を満たせているかの確認が入る。規定本数以上の論文を出版できているか、研究内容の理解度は十分かを諮問される。問題がなさそうなら最終審査への進出が認められる。もしも出来が不十分だったらオーバードクターへの道を歩む羽目に陥る。
最終審査は公聴会。修了1~2か月前に行われる。専攻内の教授&准教授全員を相手に一時間近くも発表を行う。審査会で合格判定をいただければ念願の博士号を手に入れられる。世間では公聴会を”ディフェンス”と呼ぶそうだ。学位を守り切られるか否かを占う最後の試練ということ。この記事以降、当サイトでは公聴会をディフェンスではなく『オフェンス』と呼称したい。学位は守るものではなく勝ち取るもの。指導教員が”コイツに渡してなるものか”と両手で抱え込んでいる博士号を「オレに寄こせ、オラッ!」と力づくで奪い取るもの。守りに入っていては学位など取得できるわけがない。攻撃的な姿勢を維持し続けなくちゃ勝利の女神は我に微笑まぬはず。
発表20分・質疑応答10分の持久戦
ついに学位審査が始まった。まずは中間審査。小手調べの審査会だ。私の所属専攻では、発表時間は20分、質疑応答時間は10分と定められている。20分も喋り続けたら喉が枯れてしまいそうだ。おまけに審査会の最中は終始立っていなければならない。喉にも腰にも負担十分な持久戦が待っているわけである。ちなみに公聴会の発表時間は中間審査の2倍らしい。喋り疲れてヘロヘロになっている未来しか見えない。ものすごく不安だ。
本来、中間審査会に備えてスタミナをなるべく温存しておかなければならなかった。しかし審査会の朝、陸上トラックで1000m (3’25”) ×8のインターバル走をやってしまった。ウォーミングアップと本練習、およびクールダウンを合わせて21km走った。練習を終えてから気が付いた。「そういえば今日は中間審査だったな」と。スピード練習をやってクタクタである。喉はガラガラ、足はパンパン、おまけに心肺も疲労困憊。やっちまった。こんな状態で果たして発表できるのだろうか?まぁ、元気を出して頑張るしかない。
発表中の先生方はみな終始笑顔^ ^
ボロボロになった体で審査室へ。パソコンをHDMIケーブルでプロジェクターへと接続し、先生方へ一礼してから発表を開始。不思議と緊張しなかった。失敗したら早期修了が覚束なくなる背水の陣を敷いているはずなのに、プレッシャーなどどこ吹く風、平常通りに発表できた。朝の走り込みで疲れ切っていたのがかえって良かったのかもしれない。疲れているから体へ余計な力が入らない。仮に両肩へ力を入れようにも、立っているだけで精一杯な以上、脳が体への余分な出力を拒む。あまりに緊張しなさすぎて普段の0.9倍速ぐらいの口調になった。発表予定時間を2分ほど超過してのフィニッシュに。
質疑応答は和やかなムードだった。先生方はみな笑顔。専攻内で一番怖いと噂の先生まで満面の笑み。ちょっと不気味で怖いぐらいだった。あまりに皆が優しくって”何か裏があるんじゃないか”とかえって緊張が募った。業績の多さを褒めていただいた。『博士課程に入って論文を三本も書いたの?すんごいねぇ。頑張ったんだねぇ~^ ^』と口々にお褒めの言葉をいただいた。修了後の進路についても聞かれた。「せっかちな自分の性格的には、迅速に次々と成果を出すことが求められる技術者が向いているんじゃないかと思います」と答えておいた。すでに進路が決まっていますとは口が裂けても言ってはダメだ。学位審査を軽んじているのか?!と烈火の如く怒られる可能性があるから。
中間審査会突破!次は12月の予備審査会
炎上の予感を微塵も感じぬままのフィニッシュ。指導教員曰く、中間審査を無事に突破したらしい。何だかあっけなく終わっちゃったな。審査会ってこんなもんなのか?普段のゼミの方がよっぽど厳しいぞ。ゼミが厳しすぎるのか、はたまた審査会が優しかっただけなのか。まぁ、どっちでもいいや。審査会を突破したという事実が最も大切なわけだし。
後日、指導教員から”審査会で早期修了にGOサインが出た”と教えてもらった。これで正式に早期修了とへ名乗りを上げられるわけだ。早期修了の夢を繋げられた。本当に良かった。心底安堵した。自分がいくら頑張ろうとも、審査会で早期修了を認めてもらえねば飛び級は不可能。審査会には気難しい先生もいるし、早期修了を良く思わない先生だっているかもしれない。そういう人たちにも早期修了を認めさせたわけだ。これまで頑張ってきた自分へ、およびそれを支えてくれた指導教員に感謝しなくちゃならない。
次の学位審査は12月の予備審査会。指導教員が定めた早期修了要件をこの審査会までに突破する必要がある。今のままのペースで頑張れたら可能。失速したが最後、早期修了は覚束なくなる。自分の頑張り次第で自分の未来を決められる所まで来た。早期修了を手繰り寄せるのは、己の努力、ただそれ一つ。
A報の査読対応。メジャーリビジョンへ一か月で対処
先月中旬に投稿した論文の査読結果が先月下旬に早くも到着。結果は【メジャーリビジョン (Major Revision) 】とのこと。査読者から求められた大幅な修正を施せばアクセプトが認められる。リジェクトじゃないだけまだマシである。アクセプトされる可能性が十分ある以上、最大限の真心と誠意でもって査読に対応しなければならない。査読返信猶予期間は一か月。中間審査会を終えてから全速力で対応へと取り掛かった。
この論文がアクセプトされれば、早期修了要件クリアまであと一報の投稿を残すのみ。アクセプトされれば飛び級に王手をかけられる。一刻も早く『あと一報』にしたい。夢にまで見た早期修了へと肉薄したい。ゴールが見えていると、希望に胸を膨らませて生きられる。下なんて向かない。輝かしい光の射す方だけを見つめて走る。フィニッシュラインまではもうあとちょっと。頑張るしかないぞと自分を奮い立たせる。
一週間で査読対応原稿を作成。指導教員に見せ、ディスカッションを重ね、ブラッシュアップして原稿を完成させる。英語に直してChatGPTで校正。指導教員による添削も入った。対応期限の1週間前に返信。来月初旬にはアクセプトの通知か、または査読者から再度の要求が届くだろう。
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