こんにちは!札幌と筑波で蓄電池材料研究をしている北大工学系大学院生のかめ (D1)です。学部4年次 (B4)の4月に研究室へ配属され、今年で電気化学の研究歴が4年目を迎えました。私の所属する学士&修士課程では電気化学の講義がほとんど設けられていませんでした。そのため、研究に必要な知識はほぼ全て独学で習得した次第であります。
この記事では私の過去の経験を踏まえ、電気化学系研究室に配属されたB4が電気化学の勉強をする際に役立つ参考書を4つ紹介していきます。ただ専門書を無機質に解説するのも興醒めですから、以下ではフローチャート形式で紹介するつもりです。
それでは早速始めましょう!
電気化学勉強用専門書フローチャート B4編
この記事で私が提唱したい専門書の勉強順を以下のフローチャートに示します⇩
それぞれの専門書について、勉強する時期と一緒に解説します。
詳細
トコトンやさしい電気化学の本:4月~5月
多くの大学では新年度の4月に研究室生活が始まります。初日からゼミを開く熱心な研究室もあるでしょうし、4月第2週からの登校でOKな緩い研究室もあるでしょう。いずれにしてもこれまでの授業中心の生活は終わり、自身の手で新たな知見を生み出すクリエイティヴな毎日が始まるわけです。学部生と言えども研究者の卵。世界最先端の研究をすべく早急に専門分野の基礎知識を網羅しなくてはなりません。
図書館や書店へ行けば電気化学の勉強にお誂え向きな書籍が並んでいます。しかし、それらの大半は電気化学の玄人向けに書かれているため、前提知識が皆無なB4が読んでもほとんど理解できません。いきなり難解な専門書にアタックしたら(全然分からん…)と自信を失ってしまう。私自身、B4の前半に身の丈に合わない難しい本へチャレンジして全く理解できず、時間を溶かしてしまった上に(ホンマに研究やって行けるんやろうか…)と不安になってしまったほど。そこでまずは簡単な図解本で電気化学の全容を掴んで欲しい。『電気化学とは何か?』という本質的な問いを原点とし、
- どんな所が不思議で奥深いのか?
- 身の回りのどのような所で役立てられているのか?
- 我々の社会をどのように変え、支えていくのか?
など、科学的&実学的興味をどんどん拡げていってもらいたいのです。【トコトンやさしい電気化学の本】には難しい数式は一切なく、電気化学の素人さん向けに”これでもか”と言わんばかりに易しい解説が載っています。本書を読んでから難解な専門書に挑戦すれば少しは理解が捗るはずです👍
本書は2か月程度でひと通り読めます。通読自体は2~3日で終わりますが、(ココってどういう意味だろうか?)と疑問点を調べていくと2か月ぐらいは経過するはず。研究室配属直後の4月初旬に読み始め、5月末にマスター出来たらとっても良いペースです^ ^。次にご紹介する専門書を読み解く基礎力がしっかり身に着いています。
基礎科学コース 電気化学:6月~翌年3月(場合によってはM1以降も)
電気化学は”電気”と”化学”の交差点に位置するかなり広範な学問分野。化学反応で登場する『電子』を主人公に様々なストーリーが繰り広げられます。電子は人間の目の分解能で識別することができません。この”目に見えないもの”について議論するがゆえに電気化学の学習は難しいのです。市販の電気化学専門書の大半はその第一章から何が書いてあるかが理解困難。「入門」や「基礎」と謳っているのに理解が出来ず、途方に暮れることもしばしばあります。
捉え所を見つけるのが難しい電気化学。ですが、ココでご紹介する【基礎化学コース 電気化学】を読めば非常にスッキリと理解できます。第一章『電気化学系の姿』だけでもお金を払って読む価値がある。20ページに満たない章の中に電気化学のエッセンスが濃縮され、今後の電気化学学習 (←言いにくいですね笑) を進捗させるヒントがふんだんに詰め込まれているのです。ハッキリ言って本書のレベルは結構高め。前述の図解本を読んだだけでは首をかしげるセクションも多いはず。不明な箇所に出くわした時はネットやBing AIで調べてみましょう。それでも理解できなかったら一度飛ばして読み進めていく。基礎的な専門書へ挑む際には”最後まで読み切る”のが何よりも肝心。書籍にひと通り目を通してみれば(前の章で言っていたあの内容はこういうことだったのか!)とアッサリ合点が行くことも。一読しただけで理解できる超人などこの世には一人も存在しません。何度も何度も読み返していくにつれて一つずつ理解が進むのです。
本書は電気化学の網羅的理解の足掛かりにピッタリな一冊。分からないことを調べる辞書になったり、脳内の断片的な知識を整理し有機的に繋げたりするのにも役立ちます。研究室配属初年度の一年では到底吸収しきれないほど盛り沢山な内容のため、M1、場合によってはM2になっても引き続きお世話になる可能性も。学問のお供としてこうした網羅的参考書は持っておいて損はしません♪
電気化学測定マニュアル 基礎編:10月~翌年3月
私の所属する研究室では後期 (10月)から実験が本格スタート。私自身、卒業論文に載せたデータは10月に実験した分のデータでした。電気化学実験をするにあたり、測定手法や使用する電極について知識を有しておく必要があります。何も知らない状態で先生や先輩から「サイクリックボルタンメトリー(CV)を取ってみよう」や「リファレンスにはAg/AgClを使おう」と指示されても身動きが取れないためです。
前述の【基礎化学コース 電気化学】は電気化学系に関する説明に特化した専門書。測定手法については別の書籍を開いて勉強せねばなりません。その学習にピッタリなのが【電気化学測定マニュアル】という書籍。基礎編/実践編と2つあり、B4ではオレンジ色の『基礎編』の方を手に取って読んでみて下さい。本書はCVや交流インピーダンス法など、基礎的な電気化学測定の方法や測定原理が詳しく解説されています。それに加え、”実験セルを用意するにあたり注意すべきこと”や”よくある質問”などかゆい所に手が届く内容。学部生の方は自分が使用する測定手法の項目を熟読するようにして下さい。実験は測定できればOK!…じゃない。『どうしてこの結果が出たのか?』や『この結果は妥当なものなのか?』を評価するには測定原理の理解が不可欠なのです。
本書は後期に入る直前から読み始めておき、実験と同時並行で適宜参照にする形式がオススメです。この書籍は大学院修士課程に進んで以降も引き続きお世話になりますが、学部生のうちから仲良くしておくと窮地で助けてくるかもしれません。私の場合、M2の5月にインピーダンス法についてゼミで解説をするとき本書に助けてもらいました。また、11月にコインセルでインピーダンス測定をするにあたって本書のやり方を参考にしました。
エキスパート応用化学テキストシリーズ 機器分析
電気化学測定ではポテンショスタットを始め、様々な測定機器を取り扱います。
- 試料の結晶方位を調べるためにX線分析 (XRD, XRF, XPS…)を行ったり、
- 溶液構造を調査すべく様々な分光法 (IR, Raman…)を用いたり、
- 析出物の微細観察をすべく電子顕微鏡 (SEM, TEM, STEM…) を用いたり
色々な装置を使って解析を進めていくのです。先ほどの【電気化学測定マニュアル】では測定手法を勉強しました。さらに研究を深化させるには”測定を行うための機械”についてもよく理解しておかねばなりません。いろいろな測定機器についての基礎的な解説が載っているのがココでご紹介する【機器分析】という書籍。本書を読めば自分の扱う装置がどのような仕組みでモノを分析しているかが想像できるようになります。この世に万能な機械は現時点で存在していません。いくら並外れた長所を持つ装置であろうと苦手な/解析不可能な分野を抱えているもの。我々学生は機械が出来ること/出来ぬことをちゃんと見極め、卒論の提出期限にデータを出し切られるよう最良の手段 (測定機器) を選ばねばならない。本書はそんな手段選びの正確性を著しく向上させてくれるのです。
本書に関しても前述のマニュアル同様、学部生のうちは自分と関係のある項目についてのみ熟読するようにして下さい。測定の幅を広げるために他の章を読むのも構いませんが、まずは使う予定の装置の原理を理解することを優先に。私の場合、機器分析の本を読むのが面白すぎて、今後使う予定がなさそうな装置の章まで全部読んでしまいました。(将来は研究職ではなく装置を作る側へ回るのも面白いかなぁ…) と思った次第です^ ^
最後に
学部4年生向けの電気化学勉強用専門書フローチャートの解説はコレで以上となります。皆さんの電気化学学習の一助となれば幸いです。
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