デメリット
B4で英語論文出版経験のある私が感じたのは以下の3つのデメリット⇩
- 学部時代の研究業績は修士課程で借りる奨学金の返済免除実績に換算されない
- ほぼ何も知らない学部時代に国際誌レベルの論文を書くのは本当に苦行
- 周囲からあまりにも期待され、それが重荷になってしまいがち
それぞれについて、以下で一つずつ解説します。
学部時代に積み上げた研究実績は修士課程での奨学金返済免除実績にカウントされない
一つ目のデメリットは、JASSOの奨学金に関するお話です。
大学院でJASSOから借りられる奨学金には返済免除制度なるものが存在します。所定の基準の元、奨学生の同専攻・同学年の上位3割に入った人間は、借りたお金の半額、ないし全額が返済免除となるのです。返済免除はポイント制。修士課程在籍中に集めたポイントの多い者から順に返還免除を勝ち取っていきます。免除ポイントを貯めるには、TA業務や学会発表などをたくさんこなす必要が。当然、論文出版でもポイントが加算されます。しかし、返済免除制度の適用対象となる実績は『奨学金を借りている期間に積み重ねた実績』のみ。いくら学部時代に論文を書こうが免除ポイントは一点も貯まらないのです。
私の場合、学部時代に書いた英語論文がB4の3月10日にアクセプトされました。B4の間にアクセプトされたため返還免除ポイントの加算外実績に。アクセプトされたのは素直に嬉しかったです。しかし、論文がポイントに繋がらないと知って意気消沈。学部生の皆さん。もし論文を出版する機会があれば、
- 【B4で論文を出した】という名誉を取るのか
- B4でも出せるけど敢えてM1で出し、返済免除ポイントを手堅く獲得するか
このどちらを選ぶかよく考えておいて下さい。何も知らず学部時代に出版してしまったら後で地団太を踏むかもしれません。
ほぼ何も知らない学部時代に国際誌レベルの論文を書くのは本当に苦行
2つ目のデメリットは論文出版がすごく大変な点。
学部生の段階ではまだ専門知識が不十分。論文を書ける態勢が整っていない状態で論文を仕上げる必要があるのです。何から何まで逐一調べながら暗中模索で執筆していかねばなりません。困ったことを相談できる先輩が周りに居れば幸せ。私にはいませんでした。先輩が大学へほとんど来なかったから。一人で論文執筆作業を完遂させるのは骨の折れる仕事だった。
国際ジャーナルへ投稿するなら論文の執筆言語は英語。日本語で作った原稿を英語に翻訳せねばなりません。英語には技術的な用語が多数。専門用語を単純に翻訳ツールや生成AIへ放り込んでも正確な英訳はほとんど不可能。結局、AIが作った片言の英文を”人の目で”一つずつ確認して自然な英文へと直すことに。コレが本当に面倒臭い。学部生の持つ知的体力で完遂できるかどうか微妙なぐらい。
論文は雑誌会社への投稿後、専門家の目によって査読されます。査読期間は1~2か月。査読が終わると査読を行った専門家からコメントが寄せられるのです。査読者が首を縦に振るまで延々と査読者のコメントに答え続けることに。コメントの応酬は二往復、三往復…と数か月単位で続くこともしばしば。『合格です。アクセプト!』と言ってもらえてようやく論文投稿プロセスが終了。アクセプト後、原稿の最終確認を経て論文が公開されます。
このように、一つの原著論文は気が遠くなるほどのプロセスを経て出版されます。これほど苦労して論文を書くぐらいなら素直に卒論を書いてしまう方が遥かに楽でしょう。
周囲からあまりにも期待され、それが重荷になってしまいがち
3つ目に解説するデメリットは周囲から過度に期待されてしまう点。『学部時代に論文出版』という派手な実績が学生の過剰評価の原因となり、指導教員や先輩から自分の力量に見合わない仕事を任されがちに。まだ学会で発表できる成果が何もない状況で『次の学会で発表しようね♪』と告げられます。講義の課題で忙殺されている時に『アレやっといてよ。優秀なんだからできるでしょ?』と仕事が一つ追加されるのです。片時も休む暇がなくなって心身ともに疲弊します。でも、”自分は優秀なんだ”というプライドが顔をのぞかせ、どうしても休めません。周囲に「疲れちゃった…」と弱音を吐けなくなるかも。身体に異常をきたす限界まで徹底的に追い込み、体が壊してしまいかねません。
まとめ
学部時代に国際ジャーナルで論文を出版するメリットとデメリットについてはそれぞれ以上の3つとなります。
まとめると、
メリット
1. ”論文に載るレベルの結果”というものが何となく肌感覚で分かるようになる
2. 卒論執筆がめちゃくちゃ楽。3日もあれば完成する
3. 周囲から”将来有望”と期待してもらえる
デメリット
1. 学部時代にアクセプトされた論文は修士課程における奨学金返済免除実績に換算できない
2. 右も左も分からない状態でいきなり英語論文を仕上げるのは苦行でしかない
3. 周囲から過大評価され、期待を重荷に感じる人には苦痛となる
このような形になります。
学部時代に論文を出すのはメリットばかりなように思われがち。実は裏側にこうした落とし穴も何個か存在するのでどうかご注意いただければ幸いです。
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