教室で英語の長文を読んでいると、後ろの席からスンッと鼻をすする音が聞こえてきます。一発で集中が吹き飛ぶ。ページの上を目が滑り、さっきまで追いかけていた文脈がきれいに消える。
周りを見渡しても、誰も気にした様子はありません。40人の教室で、あの音に反応しているのは自分一人。自分のほうがおかしいんだろうかと、高校時代はずっと考えていたんです。
一年の浪人を経て、2017年に北海道大学の総合理系へ進みました。一位と6点差の次席合格です。北大に受かったこと自体はもちろんうれしかったんですが、振り返ると、英語や数学より鼻すすりの音のほうがよっぽど手強い敵でした。大げさに聞こえるかもしれませんが、体中に湿疹が出るほどのストレスを抱えていた人間の実感です。
この記事では、音に敏感な受験生がどうやって勉強環境を整えたらいいか、私自身の試行錯誤をもとに書いていきます。後にミソフォニア(音嫌悪症)と判明する体質を持ったまま、教室、自宅、予備校、試験会場で編み出した対策を全部載せました。同じ悩みを持つ方のヒントになればうれしいです。
かめそれでは早速始めましょう!
私の症例
私が特にダメだった音は2種類あります。鼻をすするときのスンッ、ズーッ。 そして咳払いのゴホッ。
耳に入ると、胸のあたりをグッと鷲掴みにされたような不快感が走ります。完全に集中しているとき以外、思考が丸ごと止まる。鼻すすりが至近距離で聞こえたときには吐き気すら覚えました。誰かが咳き込んでいると、たとえ相手が家族や親しい友人でも、体が勝手にその場を離れたがるんです。理性では分かっていても、体の反応が先に来てしまう。
高校2年生あたりから症状がはっきりしてきて、人が密集する場所に入るのが怖くなりました。教室や映画館みたいな閉じた空間に足を踏み入れるたび、胃がきゅっと縮むんです。大学に入ってからも研究室旅行やサークルの飲み会に足が向かず、ずいぶん行動範囲を狭めてしまいました。
音への過敏は脳の仕様だった
高校2年の終わりまで、ずっと一人で抱え込んでいました。高3になって限界を迎え、思い切ってネットで検索したんです。鼻水 すする音 気になる、みたいなワードで。
すると、同じ悩みを持つ人が大量にヒットしました。職場の隣席が一日中鼻をすすっていてグッタリしている人や、あの音で腸が煮えくり返ると訴えている人。自分と同じか、もっとひどい症状に苦しんでいる方がたくさんいたんです。
さらに調べていくと、ミソフォニア(音嫌悪症)にたどり着きました。精神疾患ではなく、脳が生まれつき特定の音をうまく処理できない状態だそうです。病気ではなく、いわば脳の仕様。
安心はしました。ただ、勉強中に特定の音で集中が崩壊する現実はそのままです。鼻すすりは相変わらず聞こえてくる。体中に湿疹が出始めるほどストレスを溜め込んでいた時期もありました。そこで、自分なりの騒音対策を本格的に始めることにしたんです。
音に敏感な受験生のための勉強法
学校での対策
学校は最大のストレス空間でした。 一教室に約40人。誰かが常に鼻をすすり、少なくとも一人は咳払いを繰り返している。40人分のリスクが毎時間降りかかってくるわけです。ときには学校を休んでしまう日もありました。
解決策は、意外とシンプルでした。
席替えのたびに、窓際の最前列をキープしたんです。私の高校では最前列に限り生徒の希望が通る制度がありました。窓を少し開けておけば、外から入る風の音や鳥の声が教室内の鼻すすりを打ち消してくれます。天然のノイズキャンセリングですね。
一度、よく鼻をすする生徒が真後ろの席になったことがありました。意を決して、鼻をすする音が苦手なので鼻はかんでほしいと直接お願いしました。幸い、相手はすんなり受け入れてくれて、円満に解決しています。勇気を出してよかった。
ちなみに、人前で鼻をすするのは日本独特の習慣です。欧米ではマナー違反とされていて、ティッシュでかむのが常識。海外に出ると、この手の音に悩まされる頻度がぐっと下がるかもしれません。
自宅学習環境の整備
家で最も手強い相手は、専業主婦の母でした。在宅時間が長いぶん、鼻すすりと足音のコンボが一日中続きます。鼻はティッシュでかんでほしいとお願いしても、もっと寛容になりなさいと逆に叱られる。つらい。
対策は4つ試しました。
- 耳栓で物理的に音を遮断する
- 音読中心の学習に切り替える
- 窓を開けて外の音で室内の音を相殺する
- 早朝4時に起きて静かな時間帯に勉強する
特に音読は効果抜群でした。自分の声で教材を読み上げると、声そのものが盾になって外の音を意識から追い出してくれるんです。英語や日本史の暗記科目はもちろん、数学や物理でも解法の手順を声に出すと理解が深まります。一石二鳥どころか三鳥くらいの威力がありました。
もう一つの柱が早朝学習です。朝4時に起きて、母が活動を始める6時までの約2時間を集中タイムに充てました。夜明け前の家は驚くほど静かで、同じ勉強量でも吸収の速さがまるで違います。
予備校での対応策
浪人時代を過ごした河合塾では、新たな壁が待っていました。
浪人生は生活リズムが乱れがちなのか、教室内では常に誰かがズーズーやっています。しかも河合塾の窓は固定式で、学校で使った窓開け作戦が封じられました。
苦しい判断でしたが、通常の授業出席を大幅にカットしました。授業時間中は塾の屋上にある静かな自習室で独学を進め、自習室が混み合う時間帯にはエレベーターホール前の机で勉強していたんです。
エレベーターホール前は人通りが絶えず、一見すると勉強に向いた場所には見えません。ところが、ガヤガヤした環境音が鼻すすりや咳払いをかき消してくれるおかげで、むしろ集中しやすい場所でした。学校の窓開けと同じ原理です。授業には4回に1回くらいの頻度で顔を出し、チューターへのアリバイ工作もしっかりやっておきました。
高い授業料を払ってくれた親には、本当に申し訳ない選択でした。ただ、授業でストレスを溜め込むくらいなら、自分に合った環境で勉強するほうが得策だと判断したんです。予備校にかかった68万円は、就職してからきっちり返すつもりでいます。
試験中
最後に残った難題が、試験本番でした。試験会場では耳栓も席移動も封じられていて、手札がほぼゼロの状態です。受験期中はずっとお手上げでしたが、大学に入ってからヒントをつかみました。
必修科目の中に、落としたら即留年が確定する講義がありました。覚悟を決めて臨んだその試験中、びっくりしたんですが、周囲の音がまったく耳に入ってこなかったんです。単位を落としたら留年。その切迫感が、鼻すすりも咳払いも意識から追い出してくれたようでした。
以来、試験のたびにこの試験に落ちたら退学だと自分に言い聞かせるようにしています。もちろんフィクションですが、脳が本気で危機を感じると、音への過敏さが一時的にオフになるらしい。大学院で受けた資格試験でも、同じ方法で乗り切れました。
日常の勉強にまでこの緊張状態を持ち込むと体がもちません。ただ、試験本番に限れば、かなり頼りになる技です。
最後に
音への過敏さは、受験において余分な体力を奪っていく厄介な相棒です。
ただ、工夫次第で十分に戦えます。窓を開けたり音読に切り替えたり、早起きしたり居場所ごと変えたり。片っ端から試して、自分に合うものを残していけばいい。私は結局、そうやって北大に受かりました。





















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