電池材料研究をしていた自分が電池メーカーへの就職を避けた理由

こんにちは!札幌と筑波で電池材料研究をしている北大化学系大学院生かめ (D2)です。D1の1月中旬より就活を始め、それからおよそ一か月で某大企業へ内定しました。

就職するのは非電池メーカー。電池製造がメイン事業ではない会社で電池の開発業務を行います。PanasonicやGSユアサのような電池を製造する企業へ行こうか少し考えました。迷った末、電池メーカーではない所で勤める決断を下したのです。

この記事では、私が電池メーカーへ行かなかった理由について解説します。

  • 就職先選びでお困りの方
  • 電池産業の将来について考えてみたい方

こうした方々にピッタリな内容なので、ぜひ最後までご覧いただければ幸いです。

かめ

それでは早速始めましょう!

目次

EV用電池のシェア争いを巡る激しい競争に巻き込まれるから

バッテリーのみで動く電気自動車 (EV) が時期尚早な件について、先日、別の記事にて述べました。EVの限界を認識したのか、先陣を切ってEVを推進していた欧州各国が続々と推進を取りやめています。現在のEVブームは一時的に下火となるでしょう。EVではなくガソリン車が正義となり、あと5~10年ぐらいはガソリン車の天下が続くのではないかと考えています。仮に車載用全固体電池が商用化した場合、今のEVブームに再度火がつくかもしれません。全固体電池は最速10分で満充電可能。利便性ではガソリン車に劣るものの、環境意識の高いユーザーには受け入れられ、徐々に普及していくでしょう。EV戦争、再勃発です。その競争は今の比ではないほど激しいものになると考えられます。

少しでも大容量な、少しでも高エネルギー密度な、少しでも早く充放電可能な電池を作りたい… いま、日中韓を中心に世界中の電池メーカーがしのぎを削っています。電池メーカーだけじゃありません。化学メーカー、材料メーカー、電器メーカーまでもがこの戦争に参戦中。自動車メーカー側としては少しでも性能の高い電池が欲しい。並外れて高性能な電池なら、どこの国が作った電池かはこの際、あまり関係ありません。他社より少しでも素晴らしい電池を作った企業の電池が車載されていく。車に採用されなかった電池を作る企業は廃れ、やがて滅びていくのです。凄まじき仁義なき戦争が世界規模で起こっているのが電池業界。広島のヤクザどころの騒ぎじゃない。生きるか/死ぬかという極限の任侠物語が繰り広げられているのです。

もしも電池メーカーに就職した場合、車載用電池採用を巡る無慈悲な戦争に巻き込まれてしまうでしょう。限られたパイを争う『シェアの過当競争』に身を投じることになるのです。電池業界の競争がどれだけ激しいものかはよく分かっているつもりです。私自身、過去に二十回ぐらい、論文のネタとして温めていた研究のコンセプトを別の研究グループに先を越されてしまっています。時間の流れが穏やかなアカデミアの世界でさえも年々競争が激化していっている。まして、スピードが命な産業界の競争は想像を絶するものがあるのではないかなぁ、、、と。どうせ就職するなら競争に巻き込まれずとも済む業界・企業に身を置きたかったのです。グローバルニッチ企業や独自のブランド力を有する孤高の企業へと。電池メーカーはそれ等とは完全に真逆な選択肢。競争を避けて働きたい私には不適当な企業だったワケです。

自動車メーカーが電池を自社生産し始めると存在意義が薄れてしまうから

”十年後、本格的にEVが普及していく”と仮定します。自動車メーカーの立場に立って考えてみると、自動車市場へは少しでも早く、一台でも多くEVを送り込みたいですよね。製造スピードの遅さが祟って受注を逃してしまうと大変。EVはIT企業でも製造可能なため世界中の多くの企業が競合となり得ますから、競争に負けないよう今よりもっと迅速な製造プロセスが各社に求められると考えられます。

私がもしも自動車メーカーの社長だったならば、「電池を自社生産しなくちゃ間に合わなくなってしまうんじゃないかな?」と考えます。電池を外注し、電池を電池メーカーまで受け取りに行き、貰った電池を車に搭載しているのでは作業スピードが遅すぎるのではないかと。だったら自分の会社で電池を作った方が早くEVを完成させられないだろうか?自社で電池を作れるならば自助努力で製造コスト削減が可能だし、EVの販売価格をも安くできてシェア争いの競争力アップに繋がるはず。EVの高性能化には電池の高性能化が至上命題。にもかかわらず、肝心かなめの電池を他社に作らせていては、自社の製品の性能アップを他社の開発グループに委ねていることに。相手に首根っこを掴まれている状態なのです。いつまでも息苦しいまま闊達にモノ作りなんてできるワケがない。

自動車メーカーが電池を自社製造し始めた場合、電池メーカーは車載用電池を作っても自動車メーカーに採用して貰えないかもしれません。だって買う必要が無いのですもの。自社で製造可能な製品を、わざわざ他社から購入する必要はありません。最初は自動車メーカーへ製造ノウハウを提供する等でコンサル代を得られるでしょう。しかし、やがて仕事が減っていき、自動車メーカーが独り立ちしてしまうと車載用電池事業で収入を期待できません。電池を自社製造する余裕のない企業からの受注はある程度取り付けられるかと存じます。それに関しても、限られたシェアを巡って電池メーカー内で激しい争いが繰り広げられ、値下げ合戦や開発合戦などで過当競争になることが容易に予想されるのです。

電池メーカー各社は自動車メーカーから切り捨てられぬよう (おそらくそれ以外にも目的があるでしょうが)、自動車会社との合弁企業を設立しています。私が電池メーカーに入った場合、その合弁企業へ配属されることになるでしょう。EVが流行っている間は良いんですよ。大繁盛でボーナスをたんまりと頂いてニコニコの笑顔を作れるから。EVバブルが弾けたら不味いですね。採算の取れなくなるほど事業が落ち込んだ場合、会社は廃業、あるいは親会社から切り離されてしまう可能性があります。こうなると私、途端に生活できなくなっちゃうんです。せっかく頑張って研究して学位を取った挙句、失業では堪りませんよ…

電池を作るより、電池を載せて動く製品を作りたかったから

電池メーカーに就職した場合、私が日常的に扱うものは電池、あるいはその材料になるでしょう。B4からD2まで5年間電池を作り続けるなかで、正直、電池を見るのはもうスッカリ飽きてしまいました。電池を作るのが嫌だというワケじゃない。『作れ』と言われたら「ハイ、分かりました」と従います。電池以外のモノも作りたくなったのです。(作る対象を変えるにあたって就職が良い機会ではないか)と感じました。電池を載せて走る車や重機を作る方に回ってみたい。自分の作った製品が市民に愛用されている様子を見たい。電池そのものを愛用する人なんていないでしょう?電池を動力に走る人間もいない。市民の手となり、足となる製品を作っていきたい。電池メーカーに入っていては私の願望を叶えられなかったのです。

最後に

蓄電池材料研究をしていたのに電池メーカーへ行かなかった3つの理由は以上。進路選びの参考になれば幸いです。

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