学振DC1を特別枠で申請し、年間140万円の科研費を手に入れた方法【B区分申請者は必見】

交付額の通知メールを開いたら、画面に年間140万円と表示されていました。学振DC1の特別枠、上限150万円のうちの140万円です。ほぼ満額。

もちろん嬉しかったんですけど、同時にちょっと引っかかるものがありました。同じ特別枠で出した大学院の同期に聞いてみたら、交付は100万円。同じ小区分で申請した別の知り合いも100万円。DC1に内定した時点で全員それなりの猛者のはずなのに、なぜか40万円の開きが生まれている。

いったいどこで差がついたのか。腕を組んでしばらく考え込んでいました。

目次

特別枠の申請書公開

まず、私が特別枠の応募用紙に何を書いたか、実物をお見せします。あとで解説するポイントに番号(①②③)を振ってあるので、ざっと目を通してみてください。

【400字制限】
本研究の観察対象は次世代蓄電池材料として最も有望視されているLi金属である。本研究によりLi電析現象の包括的な理解が得られれば、金属Li負極を用いた蓄電池実現に向けて大幅な前進が期待され、再生可能エネルギーを用いたスマートグリッド構築やカーボンニュートラル実現にも寄与するものと考えられる。本研究の遂行にはLiを用いた実験が不可欠であり、実験材料入手のため消耗品費が必要である。独自性の高い実験を行うべく、世界でケンブリッジ大学にしかないMRIの利用を計画しており、英国への往復渡航費が必要となる。その他、研究者としての競争力を養うのに不可欠な国内外での学会発表に伴う参加費や、得らえた研究成果を世に発信するための論文投稿に関わる費用が必要である。
本研究の原資である科研費は国民の税金が財源である。国民の皆様の期待に応えるべく利他の精神を持ち、高い国際競争力を持つ研究者になる事で本支援に応えたい。[400字ちょうど]

では、ここから本題に入ります。なぜ140万円を獲得できたのか、自分なりに考察してみました。

140万円を獲得できた理由を考える

考え抜いた結果、理由はおそらく3つに集約されます。

  • 国の重点投資分野で研究をしていた
  • 海外渡航を計画に盛り込んだ
  • 申請書の「差別化」に成功した

順番に掘り下げていきます。

国の重点投資分野で研究をしていた

日本は今、国を挙げていくつかの科学技術分野に集中投資しています。半導体に人工知能、蓄電池材料から工作機ロボットまで、限られた領域にリソースを注ぎ込んで国の将来を賭けている状況です。

選択と集中の是非をここで論じるつもりはありません。ただ、私の専門である蓄電池材料研究は、国の投資対象にど真ん中で含まれていました。 国が「ここにお金を注ぐ」と宣言した分野の研究者を育てる制度で、まさにその分野の研究をしているわけですから、予算が回ってくるのはある意味で道理でしょう。

ちなみに、研究室配属のときにあてがわれたテーマがたまたま蓄電池材料だったのであって、学振を見越してテーマを選んだわけではありません。完全に運です。ラッキーでした。

ただ、正直なところ、申請時は少し賭けだなとも感じていました。蓄電池関連の研究費は学振以外からもたくさん公募がかかっているので、学振側に「別にウチがそんなに出さなくてもいいんじゃない?」と思われるリスクがあったからです。実際、国研の共同研究者さんにも「もしかしたら貰えないかもねぇ…」と言われていました。他の財源があるからといって、学振の増額が保証されるわけではありませんから。杞憂で済んでよかったですよ、本当に。

さて、ここまで読んで「自分のテーマ、重点投資分野と関係なさそうだな~」と感じた方もいるかもしれません。でも安心してください。今後はほぼすべての研究領域がテクノロジーの文脈とつながっていくので、少し視野を広げれば投資分野との接点は見つかるはずです。

海外渡航を計画に盛り込んだ

学振本体の申請書に加え、特別枠の応募用紙でも博士課程在学中の海外渡航計画をしっかり書きました。日本国内では研究が完結しないのでケンブリッジ大学で実験をやらせてほしい、と。

ここ数年、海外に挑む日本人研究者がどんどん減っています。学振PDや海外学振の応募者数は右肩下がり。まして博士課程の学生が在学中に長期渡航するケースは極めて稀で、滅多にいないらしい。

渡航希望者が減り続ける中で、海外に行きたい、渡航費が必要なんです、と訴えたらどうなるか。若者のチャレンジを後押ししたくなるのが人情でしょう。特別枠の審査員は、今のところ、全員が生身の人間です。何年かしたらAIに置き換わるかもしれませんが、今のところは血の通った人が読んでいる。論理で納得させつつ、最後のひと押しは情に訴えかける。 予算が必要な理由を切実に書ければ、審査員の心は動きます。

研究の世界で生き残るなら、海外の研究者と渡り合える力は欠かせません。自分の国際競争力を高めると同時に、日本の学術界にも還元できる。海外渡航にはその両面があります。

特別枠での申請を考えている方は、博士在学中の渡航計画をぜひ検討してみてください。予算獲得の強力な追い風になるはずです。

申請書の差別化に成功した

特別枠に限った話ではないのですが、競争的資金の申請書で他の候補者と差をつけるには、意図的に差別化を仕掛ける必要があります。自分の強みや弱みを高い解像度で把握した上で、何をどう書けば審査員の印象に残るかを計算で組み立てる作業です。

私が狙ったのは、研究費を預かる姿勢そのもので差をつける路線でした。

①のポイントで国の重要課題との関連を明示し、②で海外渡航の必要性を訴え、③の締めでは科研費の財源が国民の税金であることに触れた上で、利他の精神を持って国際競争力の高い研究者になりたいと宣言しました。研究内容のアピールに加え、お金を託される側の覚悟にまで踏み込んだわけです。

きれいごとに見えないよう、申請書本編のほうには利他の精神が芽生えた具体的なエピソードも書き添えました。特別枠の応募用紙でも改めてお金を大切に使う意思を示し、本編との一貫性を持たせておいた。片方で美しいことを言っておいて、もう片方と食い違っていたら台無しですからね。

もちろん、利他の精神に触れれば自動的に通るなんて甘い話ではありません。でも、審査員も人間である以上、この人に研究費を任せたいと思わせる一言が最後の差をつけることは十分にありえます。

DC1に内定した猛者ぞろいの中で自分をどう際立たせるか。研究の中身で勝負するのは当然として、それに加えて研究者としての姿勢や覚悟を400字の中にどう込めるかが、特別枠の命運を分けるポイントでしょう。

最後に

特別枠の申請書は、テキトーに書いてどうにかなるものではありません。分野の追い風を活かし、海外渡航の計画を組み込み、審査員の心に残る差別化を仕掛ける。考え抜いて初めて、数十万円の上積みが見えてきます。

あの40万円の差はどこで生まれたのか。答えは一つではないのかもしれません。けれど、少なくとも申請書の一字一句に本気で向き合ったことが、何かしらの結果につながったのは確かだと思っています。

DC1に内定した申請書の研究計画以外の箇所を書いた記事も併せてご覧ください⇩

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