
この一か月間、どうだったか

ラボでは依然として実験が実施できない日々が続く。実験開始の光が見えた矢先、中国人ポスドクによって実験装置が全て使用不能に。研究面でのインプット、アウトプットは完全に停止した。
辛さは極限に達し、感情すら枯渇してしまった。費用を支払って味わう不快な現状が、もはや理解の範疇を超えている。3ヶ月前、意気揚々と渡英した自分の姿は遠い過去のものとなった。
装置修理の目処が立たないため、12月29日から3月28日の帰国前日まで、ヨーロッパ旅行へ切り替える決断を下した。オックスフォードへの帰還は考えていない。3ヶ月後も事態は好転していないだろう。
仮に装置が修理されても、3ヶ月もの苦痛を強いた環境での研究継続は望めない。信頼関係は既に崩壊している。「実験装置の自由な使用」というサービスの対価を受け取りながら、約束を果たさない彼らを信じることはできない。日本人を軽視する態度には憤りを感じる。
唯一の思い出

しかし、全てが暗い記憶というわけではない。クリスマスに心温まる出来事があった。最高のディナーを堪能できたのだ。チキン、グリル、マッシュポテト、デザートと、豪華な料理の数々。
特に印象的だったのは、ホストファミリーの姪との会話だ。エマ・ワトソンを彷彿とさせる可愛らしさに、淡い恋心を抱いた。この出会いは、私の心に大きな変化をもたらした。
持病のミソフォニア(音嫌悪症)の悪化以来、人との心の交流を諦めかけていた。他者の発する音への恐怖が、物理的な距離を強いていたからだ。恋愛も友情も深めることは難しいと思い込んでいた。しかし姪との交流は、「やはり彼女が欲しい」という強い願いを呼び覚ました。クリスマスや休日を共に過ごせる存在を求めている。イチャイチャやハグといった些細な触れ合いでいい。広く浅い人間関係より、狭く深い絆を望んでいる。
ミソフォニアを抱えていても、幸せになる権利はあるはずだ。「研究中毒者に恋人は似合わない」という声も聞こえてきそうだが、土日のどちらかは研究を休む覚悟はできている。
欧州放浪旅行開始

12月29日、ロンドンからイスタンブールへ飛び立つ。トルコを皮切りに、ブルガリア、ルーマニア、ハンガリーと周遊の旅が始まる。国の数を稼ぐより、一つ一つの国を深く味わう旅にしたい。
特にチェコ、フランス、スペインには長期滞在を予定している。カフカ、プルースト、セルバンテスといった文豪たちの足跡を辿り、美的感性を磨きたい。旅の記録は帰国後、ブログで少しずつ紹介していく。
持病と付き合いながら、人との出会いも大切にしたい。できれば外国人女性との会話にも挑戦してみたい。
いつか必ずオックスフォード大学へのリベンジを果たす

空いた時間で、自分の運命について深く考えた。
私の人生には一つのパターンがある。どん底に突き落とされた翌年、必ず同分野で大きな成功を収めてきた。乗馬では中学2年の全国大会での失敗から、翌年の国体で優勝と3位を獲得。受験では高校3年の京大不合格から、浪人後の北大総合理系次席合格。ランニングではM2前期のケガから復活し、100kmマラソンを9時間で完走。
今回の留学挫折は、これまでの全ての辛さを合わせた程の絶望感だった。過呼吸や不整脈も初めて経験した。しかし法則通りなら、来年下半期には何か良いことが待っているはずだ。企業や国研への内定か、はたまた新たな出会いか。オックスフォード大学への雪辱は必ず果たす。研究での挫折は研究で返す。ポスドク時代にケンブリッジ大学へ挑戦するのも一案だ。元々興味を持っていたのはケンブリッジの研究内容だった。
まずは国研への内定を目指す。それが叶わなければ、ケンブリッジでのリベンジも視野に入れる。イギリスへの愛着は依然として強く、もう一年の滞在も悪くない選択肢かもしれない。

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